オンラインサロンの国内市場規模は30億円を超え、増加傾向にある

 堀江貴文氏(47)ら実業家だけでなく、キングコング・西野亮廣(40)や、オリエンタルラジオ・中田敦彦(38)など、お笑い芸人も次々と開設している「オンラインサロン」をご存じだろうか。

 著名人や専門家など、いわゆる “インフルエンサー” たちが主催するウェブ上の会員制コミュニティのことで、おおむね月額5000円から1万円程度の会費を払うと、会員同士や主催者本人と交流できる “サロン” に加入することができるシステムだ。けっして安くはないが、新型コロナウイルスによる外出自粛の影響もあり、加入者は急増しているという。

 著名人に近づくことで、自分のスキルや見識を高めようと志す入会者たち。しかし、なかにはサロンで影響を受けすぎて、「不幸になった」という人もいる。今回、ヒットメーカーとして知られるメディアプロデューサー・X氏のオンラインサロンに加入した3人に話を聞いた。

 まずは、中央官庁の関連団体で公務員をしていたAさん(30代)。高給だが、ゆるい雰囲気の職場に違和感を覚えていたという。そんななか、X氏のサロンを見つけ、すぐに入会した。

「サロンでの意見交換を受けた会員が、新しいビジネスや取り組みを始めていく。最初は、驚きと感動の連続でした。職場とは違って、物事が信じられないスピードで進んでいくんです。その感じが楽しくて、オフラインのイベントにも参加して、サロン仲間との交流を深めました」

 のめり込んだAさんは、「すぐに仕事をやめるべきだ。公務員なんて生産性がないから成長できない」と、サロンの仲間たちに言われ退職。サロン仲間の見様見真似でFX(外国為替証拠金取引)を始めると、いきなり200万円の利益を出すことができた。

 Aさんは「Xさんの言うとおりだ! すごい!」と感激。X氏の著書を50冊以上買って友人に配り、これでもかと “布教” して回ったという……。しかし、それから1年が経ったころ、1000万円あったAさんの貯金は底をつこうとしていた。

「『新しいことに、どんどんチャレンジしろ』という、Xさんんの言葉を信じて、『これは稼げる』といわれた新しいネットサービスが出てくるたびにやってみましたが、実際には、ほとんど稼げませんでした。

 FXでもじわじわと貯金を減らしてしまい、すべての財産を失って消費者金融へ……。精神状態がおかしくなって、髪の毛がごっそりと抜けました」

 Aさんは現在、なんとか再就職することができ、少しずつ借金を返済しているという。

 続いてご紹介するBさん(20代)は、大手通信メーカーに勤務していた。『会社の歯車になりたくない』という気持ちから、X氏のサロンに入会した。

「昼からお酒を飲むXさんのスタイルが、すごくカッコよく見えたんです。私も真似して、休日は昼間からお酒を飲むようにしたのですが、たったそれだけでサロン仲間は評価してくれて。

 嬉しくて、無償で仕事を手伝うようになりました。給料をもらうのではなく、『お金を払って働く』のが新しい価値観だと、みんな言っていたので」

 この「新しい価値観」をFacebookに投稿すると、サロン仲間からたくさんの「いいね!」がもらえたという。承認欲求が満たされたBさんは、周囲のすすめもあり、会社を退職。今まで以上に素晴らしい日々が待っている、と考えていた……。

「でも実際は、とにかく暇で……。昼から酒を飲んでFacebookの投稿をチェックする日々。とくに何もしてないんですけど、尖ったカキコミをすると、フォロワーから称賛を浴びて。ネットの中では、脱サラした成功者ということになっていました」

 そんな生活を1年半ほど続けるなかで、やがて朝から酒を一日中飲むようになり、入院。2020年には、アルコール依存症と診断された。

「退院して実家に戻ったとき、Xさんをめぐる騒動が週刊誌にすっぱ抜かれたと知り、食い入るように記事を読みました。まるで、目が覚めたような感覚でしたね。回復したら、またサラリーマンに戻りたいと思っています」

●「借金しないヤツは馬鹿」「自己破産すればいい」現実は?

 AさんとBさんは、金銭的に余裕のある社会人がサロンに影響され、安定した生活から転落してしまったケースと言える。だが、元コンビニアルバイトのCさん(20代)の事情は、少し違っていた。Cさんには、もともと貯金がなかったのだ。

「お昼どき、コンビニに弁当を買いに来るサラリーマンがいるでしょ。レジを打ちながら、心の中で馬鹿にしていたんです。サロンでは『会社にしがみつく生き方は、かっこ悪い』と非難されますし、『Xさんが言うことは、すべて未来で実現する』と信じていました」

 お金はなかったCさんだが、「自分の店をやりたい」とFacebookに投稿したところ、投稿を見たサロン仲間は大盛り上がり。次々と書き込まれる意見のどれもがよく見え、すべて実行。日本政策金融公庫の融資制度を利用し、お店を始めた。

「『こんなに簡単に、1000万円近くのお金を借りることができるんだ!』 と感動しました。やっぱり、Xさんやみんなが言うように、『借金しないヤツは馬鹿』だったんだって。

 お店の売り上げは、ほとんどありませんでしたけど、焦ることはありません。どうせ成功すると思っていましたし、借金で乗り切ればいいと思っていたからです」

 しかし、現実はCさんにとって非情だった。月々の返済が滞り出して、クレジットカードは使えなくなり、消費者金融からも借り入れできなくなった。あらためて計算してみると、利子が膨らんで、今後、年間400万円近くも借金が増え続けていくという事実に気付き、愕然とした。

「サロン仲間からは、『返せなくなれば、自己破産すればいい』と言われました。でも、私はまだ20代。怖くて、この先どうなるか想像もつきませんでした。

 今は就職のために猛勉強しています。思い返せば本当は、お昼にコンビニに弁当を買いに来るサラリーマンが羨ましかったのかもしれません……」

 同じ夢を見る仲間に出会える、と爆発的に普及したオンラインサロンだが、のめり込みすぎには御用心。かすり傷では、すまされない!?