■行きつけの居酒屋から「生中」がなくなる日

食品業界は、コロナウイルスの影響がよくも悪くも大きく出た業界です。2020年4、5月は緊急事態宣言の発令による「巣ごもり消費」が盛り上がった一方、業務用に商品を卸しているメーカーは非常に大きな需要減に直面しました。

全体的にポジティブな影響を受けたのは冷凍食品や即席麺、ヨーグルトなどの乳製品。具体的にいうとニチレイや日清食品、東洋水産、明治や雪印メグミルクなどが好調でした。反対にネガティブな影響を受けたのは、業務用にビールを多く販売しているアサヒビール、オフィス街などで販売が急落したコンビニでの販売量が多かった日本コカ・コーラや山崎製パンなどです。

特にビール業界はビジネスモデル自体の転換が加速しそうです。今回のコロナ騒ぎで飲食店向けの業務用ビールの売り上げが大幅に落ちたのですが、もともと業務用ビールはサーバーレンタルや販売促進費などの固定費が大きく、利益が出にくい構造になっていました。現在は少しずつ業務用の売り上げが戻りつつありますが、元の水準にまで戻るかといえば厳しいでしょう。

ということは、業務用の樽生ビールのビジネスモデルそのものを考え直して、中小規模の店舗には瓶ビールでの販売に絞るなどしっかり利益が出る仕組みに転換していく必要があります。このこと自体はコロナ以前から課題として認識されていたので、今回を契機に構造改革が進んでいくことでしょう。

■アサヒが苦しいのは家庭用ビールも同様

しかし、アサヒが苦しいのは家庭用ビールも同様です。アサヒはビールのトップブランド「アサヒスーパードライ」を抱えていることが最大の強みですが、20年5月の販売動向では前年同月比で35%の大幅減。他のブランドに比べても下げ幅は大きいものでした。20年10月の酒税法改正によってビールは減税されるため、ビールに再び注力する方針でしたが、水を差された形になっています。

一方、ビール類で好調なのはキリンビールの「本麒麟」やサントリービールの「金麦」などの第3のビールです。チューハイもよく売れていますが、ビールに比べると利幅が薄く、そこまで儲けにはつながりません。節約志向は当面続きそうなので、ビールに強みを持つアサヒはここでも苦しい戦いを強いられることになります。

とはいえ、この巣ごもり消費はいつまでも続くものではありません。緊急事態宣言も明け、在宅勤務を続ける人もいますが、元の生活に戻っている人もいます。20年4、5月は異例の状況で、今後これがどうなるかは、どのメーカーも見通せていません。新しい日常がどうなるのか、それがもう少し見えてこないと、各社とも新しい戦略を打ち出せないと思います。

ただ、今後も定着していきそうな傾向としてあげられそうなのは「朝食需要」の盛り上がりです。これまで「朝は忙しいので食事を取らない」という人が一定数いましたが、朝の通勤がなくなったことで「しっかり朝ごはんを食べる」人が急増しました。出社する人も増えましたが、1度定着した習慣はそう簡単には戻らないものです。さらに健康志向の高まりもあるので、ヨーグルトやパンなどの朝食向けの商品ラインアップを持つメーカーは大きなチャンスを迎えているといえるでしょう。

(大和証券 シニアアナリスト 守田 誠 構成=衣谷 康)