航空会社では「機内禁煙」はいまや当たり前でしょう。しかしJAL、ANA、世界の航空会社禁煙化するなか、あえて「嫌煙家お断り」の方針を打ち出す「喫煙者専用航空」が計画されていました。

2007年就航目指す 発起人ももちろん「ヘビースモーカー」

 日本では2020年7月より、「国内旅客運送約款」が改訂され「電子たばこ、加熱式たばこ含めた」客室内の喫煙禁止が明文化されるなど、飛行機内の禁煙が一層厳格化されています。

 たとえばJAL(日本航空)、ANA(全日空)で機内の全面禁煙化が実現したのは、1999(平成11)年のこと。以来日本の航空会社では、「飛行機の客室は禁煙である」というのがスタンダードなものとなっています。21世紀に入ると世界中の航空会社の大半でも、全面禁煙が常識となっていました。


ANAのエアバスA380型機の機内。機内禁煙の表示は多くみられる(2019年、恵 知仁撮影)。

 ところがこの時期、いってしまえば「嫌煙家お断り」の航空会社が実は新たに設立されようとしていました。

 それは、イギリスのロンドンに本社を置く航空会社「Smoker's International Airways(スモーカーズ国際航空)」略して「スミントエアー(SMINTAIR)」。この発起人となったのは、ドイツの実業家アレクサンダー・ショップマンで、もちろんこの人もヘビースモーカーです。

「スミントエアー」は2007(平成19)年、同社最初の路線としてデュッセルドルフ(ドイツ)〜成田線を開設する計画でした。

 最初の就航地に日本が選ばれたのは、当時の日本の喫煙率の高さも一因とされています。厚生労働省によると、2006(平成18)年当時の男性喫煙率は約40%。30歳から39歳の場合は、53%にも上ります。また、長距離フライトが要因のひとつとも。2020年現在、同区間で直行便を運航するANA便の場合、フライト時間は成田発が12時間、デュッセルドルフ発が11時間半です。

スミントエアーのジャンボ 機内はゴージャスだった

「スミントエアー」の機内はその航空会社名が示すとおり「全席喫煙OK」です。この会社では「ハイテクジャンボ」ことボーイング747-400型機2機が導入される予定でした。

 通常747-400型機の国際線仕様機であれば300席から400席の仕様が一般的ですが、ニューヨークタイムズや現地メディアによると「スミントエアー」の場合138席です。いわゆるエコノミークラスはなく、ファーストクラスが30席とビジネスクラスが108席の2クラス構成。2階席にはシートベルト付きの椅子を備えたカウンターのほか、免税価格でタバコ類も買えるラウンジも機内に設置する計画とされていました。もちろんこのリッチなサービスゆえに運賃も高額で、60万円から120万円ほどというのが同社の計画の概要です。


サウスアフリカン航空の747-400。スミントエアーは同社からリース導入する予定だった(画像:Aero Icarus[CC BY-SA〈https://bit.ly/2Otux9e〉])。

 同社のパイロットやCA(客室乗務員)も募集されましたが、求人には「嫌煙家お断り」と記載されるほどの徹底ぶりがうかがえます。CAの制服についても、2年おきに変えていく方針を宣言するなど、サービス面でのこだわりも明らかにしていました。

 ただ、スミントエアーは、デュッセルドルフ国際空港の着陸枠の承認も受け、当時発着枠がいっぱいとなっていた成田空港ではなく、中部空港の飛行許可を実際に獲得したものの最終的には実現に至りませんでした。

 これは運航を開始するための資金が調達できなかったためで、その後ショップマンは2007(平成19)年、飛行許可の権利を取り消しています。

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