芸能人が“安倍人事”に続々NO!検察官の定年延長法案は「治安悪化を招く」
芸能人をはじめ多くの人たちが参加した“抗議デモ”の影響なのか、政府判断で検察幹部の定年を延長できる検察庁法改正案の成立が、今国会では見送られることになった。が、まだ安心はできない。先送りになっただけで廃案になったわけではないからだ。もし法改正されると、私たち国民にどんな影響があるのだろうかーー
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《#検察庁法改正案に抗議します》
こうつぶやいて始まったツイッター発・抗議デモの勢いが止まらない。5月8日に最初に投稿されて以来、賛同者が相次ぎ1週間で1000万ツイートを超えた。声を上げたのは一般人だけではない。
《これ以上、保身のために都合良く法律も政治もねじ曲げないで下さい。この国を壊さないで》
俳優の井浦新がそうつぶやくと、11万超の「いいね」がついた。さらには小泉今日子に水原希子、秋元才加などの女優陣から、きゃりーぱみゅぱみゅ、水野良樹(いきものがかり)ら歌手、芸人や作家に至るまで、多くの有名人が抗議の輪に加わっている。
検察庁法改法案とは一体、どういうものなのか? 検察の実態に詳しいジャーナリスト・青木理さんが解説する。
「検察幹部の定年を内閣の判断で延長できるようにする法案です。多くの反対をよそに、ほとんど審議もしないまま、今まさに衆議院で強行突破されようとしています」
この法案が批判を集めているのは、遡ること1月31日、東京高検検事長を務める黒川弘務氏の定年延長を政府が閣議決定したからだ。黒川氏は2月8日の誕生日に63歳となり、検察庁法で定められたとおり定年するはずだった。だが安倍政権は、定年を8月まで延長すると言い出したのだ。これによって黒川氏は、次の検察トップである検事総長になる可能性も出てきた。
「現在の検察庁法は検察幹部の定年を63歳としています。1981年に国家公務員法を改正して定年制を導入した際も、当時の人事院幹部が"検察幹部に定年延長は適用されない”と明言している。ところが黒川氏の定年延長には国家公務員法を適用し、野党に批判されると、政府は"法解釈を変えた”と言い出した。それに合わせる形で法律自体を変えてしまおうなんて、完全に後づけのつじつま合わせです」(青木さん)
まかり通る“お気に入り人事”
法改正すれば検事総長は最長で3年間、内閣の判断で定年延長が可能だ。今後、黒川氏のような人物が登場すれば、検事総長を務めたあと、政府次第でさらに最長3年間は定年を延ばせるため、68歳まで計5年間も君臨できる。
「単に検察官の定年を65歳にするだけなら問題ありませんが、内閣の判断で延長できる条項を盛り込み、その基準すら示されていない。これでは時の内閣の恣意的な政治判断で検察上層部の人事に介入できるようになってしまう。言わば政権の"お気に入り人事”が合法的に制度化されてしまうことが大問題なんです」
さらに考えなければならないのが、検察という組織の持つ特殊性。弁護士の武井由起子さんが指摘する。
「検察は行政機関であり、そこで働く検察官は公務員です。同時に、犯罪の疑いがあるとされる人を起訴する・起訴しないという権限を握る、司法の重要なプレーヤーでもあります。総理大臣さえ訴えられるという強大な権限を持つ、特別な公務員なのです。それゆえ政治権力からの独立を守るために検察庁法で定年を決めて、厳重に縛りを設けています。歴代の政府は1度も検察官の定年延長をしませんでした。それを一内閣が勝手に解釈を変えられるというなら法治国家ではありません」
渦中の黒川氏は「官邸の守護神」との異名をとる人物だ。2011年から7年間、官房長や事務次官を務めた経歴を持つ。共謀罪をはじめ、安倍総理の肝いりの政策に関わってきた。そのため甘利明・元経済再生担当相が金銭授受疑惑で不起訴になったのも、森友学園問題で財務官僚が誰ひとり起訴されなかったのも、"黒川氏がもみ消したのではないか?”という疑惑が絶えない。
「『桜を見る会』やモリカケ事件などを通して、起訴されるべき人が起訴されず、検察や司法に対する国民の信頼が歪められる事態がすでに起きています。今回の法改正は降ってわいた話ではなく、これまでに起きたさまざまな問題の集大成と言えるのではないでしょうか」(武井さん)
検察への不信感が高まると、治安の悪化を招きかねない。武井さんが懸念する。
「体調を崩しても検査は受けられず、マスクさえまともに配られていない。給付金も、いつ受け取れるのかわからない。誰も守ってくれないから自分の身は自分で守らなければと思うようになり、外出自粛しない人を監視する『自粛警察』の動きにつながっていきます。自粛警察がはびこる世の中は弱肉強食です。女性や子どもが攻撃されやすい」
若い女性にバッシングが集まるワケ
今回、ツイッターで抗議した有名人のうち、中傷を浴びているのは主に若い女性タレントだ。《無知なくせに》《政治的発言をやめろ》といった非難の声にさらされている。
作家の北原みのりさんは、「多くの芸能人が声を上げたのは、仕事がなくなるなど、私たちと同様にそれだけ逼迫した事態だということ」と分析、さらに、こう続ける。
「声を上げた中でも若い女性にバッシングが集中するのはもともとある性差別がコロナを通して浮き彫りになっているから。女性の言葉を軽く見て、話す内容ではなく声のトーンや知識の量を笑う。きゃりーぱみゅぱみゅさんがツイートを削除したと聞いて、追い詰められたんだと思いました。謝らなくていいよというバッシングを跳ね返す強い声を作っていかなければ」
芸能人を“叩く”と売名できる
一方、叩く側に「売名目的というか、パフォーマンス狙いもあるのでは?」と話すのは、ネット事情に詳しいフリーライターの渋井哲也さん。
「絡むことで話題を集め、アピールになる。パフォーマンスがうまければ、N国みたいに選挙に当選しちゃう人も出てくる。そんな狙いもあるでしょうね。芸能人の政治的発言を嫌がる人は多いけれど、政治的話題の賛否を示さないことは、暗に現状維持を望むという意思表示になり、それもひとつの主張。政治的発言を避けているようで結局、政治的なんです」(渋井さん)
元検事総長を含む検察OBも改正案への反対声明を発表するなど、さまざまな立場からの批判を集める検察庁改正法案。今後、どう推移していくのか? 前出の青木さんは、広島地検の動きに注目する。
「近く広島地検は河井克行・前法相の立件に踏み切るようです。昨年7月、妻の案里氏が参院選に出馬した際に河井前法相は現金を地元政界にばらまいていて、公職選挙法が禁ずる買収の容疑がかけられています。この参院選では案里氏陣営に自民党から1億5000万円が渡っていたことも明らかになっています」
河井前法相は首相補佐官も務めた安倍総理の側近中の側近で、現職の国会議員だ。
「買収は金を出した側も罪に問われます。こうした検察捜査の追及を止めるため、安倍首相は黒川氏を検事総長にしておかなければならないと考えたのではないか、そう疑う声も当然出てくるでしょう。広島地検の捜査が審議に影響を及ぼす事態になれば、改正案はおろか、政権そのものが深刻な打撃を受けることも予想されます」(青木さん)