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 緊急事態宣言の延長を受けて、都道府県はそれぞれに学校再開の時期を探り始めた。11日から再開に踏み切った自治体もあり、実質的な新学期がスタートした。

【画像】Twitterで高校生が訴えた『9月新学期論』

 新型コロナウイルスの影響で、長期休み明けと同じ状況になる学校再開。教育関係者の間では、『9月1日危機』同様に子どもたちの自殺リスクを心配する声が高まる。

教師の“急ぎモード”が子どものプレッシャーに

 NPO法人『ストップいじめ!ナビ』の副代表理事で事務局長の須永祐慈さんは、

「子どもの自殺は4月の新学期、ゴールデンウイーク明けにも多いんです。ですから今回の学校再開でも自殺リスクを考えないといけない」

 長い休みが悪影響を及ぼしている可能性も指摘する。

「授業の遅れを取り戻すために、教師は一気に急ぎモードになります。その過度のプレッシャーも子どもたちに影響しストレスをからかいやいじめに向けます。“コロナ菌がうつる”といったようにターゲットを決めて攻撃するおそれもある」

 特に前学年でいじめを受けていた子どもはクラス替えによるリスタートの期待が失われていれば、厳しい状況は続く。追い打ちをかけるように学校からのプレッシャーに打ちのめされてしまえば、心が折れてしまう。

 首都圏の公立中学校の教師は対応の難しさも明かす。

「新学期は教師も注意深く生徒を見ていますし、新しい人間関係をつくるためにさまざまな行事も設定しています。でも、5月再開ではその時間を割くことができない」

在宅では個々の生徒のケアは不十分

 いじめられている子は、家にいても心理的な負担感は常にある。その極限が学校再開と同時にのしかかる。

 文部科学省も子どもたちの危機感を承知しており、

「各教育委員会に対し、各学校で担任が2週間に1度は生徒に電話をかけ本人と直接会話をし、心身の状態を把握するように通達しています。休みがちな生徒はより注意深く把握できるようにしています」(担当者)

 と対策しているが、前出の教師は頭を悩ませる。

「在宅では個々のケアは不十分です。生徒の抱える問題も把握するのが困難。クラス替えで担任が代わっていれば生徒からも相談もしづらい」

 今回のコロナ禍では、家庭環境の悪化も子どもたちを追い込むケースになることが想定できる。『心理相談室サウダージ』のカウンセラーで室長の前田昭典さんは、

「特に考えられるのは急激な生活苦、貧困問題です。休業、倒産、雇い止め、派遣切りで生活が苦しくなったご家庭もあるでしょう。大人も精神的に不安定になり、父親が不機嫌で殴られた、母親もイライラしてご飯も作ってくれないというような話はすでに珍しくありません」

 死にたい子どもに親までも引きずられてしまい、心中を選ぶ危険性も考えられる。

「一緒に死ぬのではなく、お子さんのためにも生き延びてほしい。相談場所は状況に応じてありますので」(前田室長)

 内容に応じて支援先が見つかる『自殺対策支援センターライフリンク』のサイトや『チャイルドライン支援センター』『心理相談室サウダージ』のオンライン相談などを利用したい。

頑張りすぎる親の気持ちが子どもを追い込む

 不登校になる子どもが増えることも想定される。

「いじめ未満、ちょっと人間関係が気まずいまま休校になった子、部活でうまくいかない、勉強で挫折しそう、といったしんどさを抱えている子も学校再開はプレッシャーになっています」(須永さん)

 不登校の専門紙『不登校新聞』の石井志昴編集長は、

「東日本大震災のときもそうでしたが、大きな災害時同様、先の見えない不安を大人が抱えていると、子どもたちも元気がなくなり、不登校傾向になりがちです」

 と世代間で負の気分も連鎖することを示唆。一方、頑張りすぎる親に対しては、次のように注意を促す。

「学校の時間割どおりに進めようと頑張っても、学校再開に不安がある子どもたちは、手につかない。できないことを親が怒る、子どもは反発する、という連鎖が起きかねない。これは不登校初期のような状態です。すると今度は子どもがそのイライラを弟や妹、ペットに向ける危険がある。親の“ちゃんとさせなきゃ”という気持ちが、逆に追い詰めてしまうことに」

学校に振り回されず、子どもの目線で

 学校に行きたくない子にとって、“いつ始まるのか?”という不安は常に続いており、一喜一憂している状態。再開のカウントダウンとともに登校というプレッシャーは膨らんでいく。

 子どもたちをそんな不安から救済するために石井編集長が発信するキーワードは、『開き直り』『親子の対話』『距離感』だ。親はあまり学校に振り回されずに、子どもの目線に立って、必要な学びや環境を考えて整備することが必要だという。

「勉強は半年や1年遅れても、取り戻せます。子どもが不安に感じているならば、夏まで休む、今年いっぱい休むなど開き直るのもひとつ。学校に行かないことは憲法違反でも法律違反でもありません。子どもと対話し、望む学びの方法を整えるのが親の義務です」

 さらに、外出自粛と在宅勤務で四六時中、一緒に入れば苛立ちもあるだろう。

「子どもにイライラするのなら、少し離れて、冷静さを取り戻すのも必要」

再開だからと、無理に登校しなくてもいい

 前田室長も訴える。

「不登校を選べたことは素晴らしい選択肢です。いじめや体罰、ひどいことをされているのに危険な学校にわざわざ立ち向かうことはない。再開だからといって、無理に登校しなくてもいい。“絶対に〇〇しなければならない”と考えることが増えれば増えるほど苦しくなります」

 と状況を見極め子どもの意思や気分、体調などを最優先することを親に求める。

 そのときに須永さんらが考案したチェックリストを活用するのもひとつ(次ページ)。

 登校への不安が強く、自殺の危険も考えられる場合には前出・『ストップいじめ!ナビ』が無料公開している『心理的危機対応プラン「PCOP」』も参考にしたい。

「親は子どもの様子を見ることが大切です。チェックリストに1つでも当てはまるなら声かけなどフォローが必要。ストレスはジワジワと重なってくるので、リラックスすることが大切です。『コーピング』(次ページ)という手法も試してみては」

 ただし、親からの虐待や両親間でのDVが起きている家庭では逆に自宅が危険な場所になる。

「感染対策も必要ですが、子どもを虐待家庭から逃すことも大切。児童相談所やDV相談窓口に相談して」(前田室長)

 学校も従来のやり方を見直す必要があるかもしれない。

「いきなり勉強ではなく、数週間は休校期間中のことや不安な気持ちをみんなで話し合ったり、心のケアをする期間にしたほうがいい。そうやって日常を取り戻すことで子どもたちも落ち着き、意欲も戻ってくる」(須永さん)

 子どもたちの命を守るために、大人たちは無策であってはいけない。

ストレスを軽減させるために試してみて

【行動コーピング】

●ダラダラしてみる(映画やテレビを見る・お菓子を食べてひたすらごろごろする・1日中ベッドの上で過ごすなど)
●無意味なことをする(変な顔をする・1人で笑ってみる・ひとり言をひたすら言ってみる・紙吹雪を作ってまき散らすなど)
●趣味を楽しむ
●おしゃれをする
●家事をする
●発散させる(ベッドを殴る・号泣する・大声で歌う・新聞紙を破るなど)

【考え方/とらえ方】

●あきらめる、忘れる
●問題を整理する
●考え方を変えてみる
●自分をほめる・励ます
●妄想にふける
●誰かのせいにしてみる

(ストップいじめ!ナビ作成『心理的危機対応プラン「PCOP」』より抜粋)

休校明けの子どもたちを守る! チェックポイント

〈態度〉

□イライラしたり、おどおどしたりして落ち着きがない
□自室の隅などで小さくなっていることが多い
□ため息をついたり、涙を流している
□無理に明るく振る舞おうとしている。もしくはすぐに謝りがち
□言葉遣いが乱暴になり、反抗したり八つ当たりをする
□長時間机に突っ伏している

〈体調〉

□寝つきが悪く、眠れない
□朝、腹痛や頭痛など、身体の具合が悪いと訴えている
□首や肩がこっている様子が見られる
□手を洗い続けるなど、同じことを繰り返してこだわる様子が見られる
□食事の量が減った

〈発言〉

□「しんどい」「だるい」などと連呼している
□友達について聞くと「なんでもない」と繰り返す
□「転校したい」「学校に行くのがしんどい」と言い出す
□普段は言わない「ありがとうございます」などの感謝の言葉を口にする
□「人生やめたい」「自分は役に立たない」などの自己否定的な言葉を発する

※上記は一例。他にもさまざまなサインがある