アップルのノートPC「MacBook」シリーズは、2020年になって新たな時代を迎えた。2006年から採用してきたインテル製のチップから移行し、独自設計のチップ「M1」を搭載した最初のMacを発売したのである。さらに2021年になってアップルは、「M1 Pro」と「M1 Max」というふたつのチップをラインナップに加えた。これらのチップは最新の「MacBook Pro」に搭載されている。

「M1チップで強化されたMacBookシリーズ。いま買うべき1台と、知っておくべき3つのこと」の写真・リンク付きの記事はこちら

この新しいチップは「iPhone」と同様にARMアーキテクチャーを採用しており、アップルはハードとソフトの双方をこれまで以上に自由にコントロールできる。結果としてMacBookシリーズは性能と電力効率が向上し、パフォーマンスとバッテリー駆動時間が大幅に改善された。しかも、iOS用に開発されたモバイルアプリをそのまま実行できるメリットもある。

だが、いまMacBookシリーズを選ぶのはこれまで以上に難しくなっている。アップルはインテル製チップを搭載したモデルを公式には販売終了したが、まだ小売店には流通しているし、あと数年はサポートされるはずだ。こうした旧モデルに購入する価値はあるのだろうか? それとも、“アップルシリコン”にすべてを託すべきなのだろうか? 最適な選択肢について考えていこう。

MacBook Air(M1チップ搭載、2020年モデル)
万人向けの万能モデル

M1チップを搭載した2020年モデルの「MacBook Air」は、この価格で手に入るノートPCのなかで最もパワフルな製品のひとつだ。しかも、インテル製チップを搭載したトップエンドのモデルのベンチマークスコアを上回る。ウェブブラウザー「Safari」のようにM1チップに最適化されたアプリを使えば、特にその傾向が強い。

インテルのチップ用に開発されたアプリは、いまもダウンロードしてインストールできる。これはアプリを“翻訳”してくれる「Rosetta 2」というツールをアップルが用意しているからだ。このツールのおかげで旧来のアプリもM1との相性がよく、ときにはインテル製のチップを搭載したMacより優れた動作をすることもある。

とはいえ、この1年で「Adobe Lightroom」や「Google Chrom」などの多くのアプリケーションがM1に最適化されたので、いまでは特に問題はない。お気に入りのアプリが動作しないのではないかと心配な場合は、M1版が提供されているか、あるいはインテル版のアプリでも問題なく動作するのか調べてみてほしい。

MacBook Airはバッテリーのもちも優れている。午前9時から午後7時まで、ほぼノンストップでSafariやSlackなどのアプリを使ったあとでも、バッテリー残量が22%で、最終的に1日以上もった(以前のインテル版のMacBook Airだと午後4時には電源アダプターが必要になった)。

またM1モデルは、キーボードやトラックパッドを叩いたり画面を持ち上げたりすると、瞬時にスリープ状態から復帰する。まるでiPhoneやiPadの画面をタップして起動させる感覚だ。この点で、復帰まで数秒かかっていた旧モデルとは大きく異なっている。

また、MacBook Airには冷却用のファンが搭載されていないので、大きな負荷がかかっても静かに動作する。熱を逃がす機構はあるが、特に熱くなりすぎることもない。

M1版のMacBook Airには256ギガバイトのストレージが標準搭載されているが、グラフィック処理用のコアが多い上位モデルなら512ギガバイトのストレージ容量がある。だが、より多くのストレージを必要とする場合でもなければ、あえてコアを増やすメリットは薄いだろう。代わりに200ドル(日本では22,000円)を追加してRAMの容量を16GBにすれば、より多くのアプリを同時に動かしても速度が低下することはない。

このマシンの最大の不満を挙げるとすれば、解像度が720pのウェブカメラと、外部モニターを1台しかサポートしていない点だろう。

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MacBook Pro(14インチと16インチ、2021年モデル)
最高のパワーを求める人に

アップルは2021年モデルのMacBook Proで、16インチモデルに加えて史上初となる14インチのモデルも用意している。まだ詳細のテストはできていないが、アップル独自チップを搭載した「最強のMacBook」を待っていた人にとっては“買い”のモデルだろう。

新モデルは画面サイズが14.2インチと16.2インチで、単純計算すると筐体より画面のほうが大きくなっている。これは画面上部にノッチ(出っ張り)があることが理由だ。このノッチの部分に、改良されて解像度が1,080pになったウェブカメラが配置されている。ただし、このノッチには顔認証機能「Face ID」のセンサーは搭載されておらず、認証は電源ボタンに組み込まれた指紋認証「Touch ID」のみ対応する。

メニューバーはノッチの両脇に配置されているが、画面のスペースを圧迫することはない。ディスプレイは12.9インチの「iPad Pro」と同じミニLEDの技術を採用している。これによりコントラストが格段に向上し、より深い黒と鮮やかな色を表示できるようになった。さらにリフレッシュレートを最大120Hzで可変させる「ProMotionテクノロジー」を採用したことで、よりスムーズな操作感を実現している。

PHOTOGRAPH BY APPLE

ふたつの新しいMacBook Proの最大の特徴は、キーボード上部の細長いタッチ式ディスプレイ「Touch Bar」をなくし、代わりに物理的なファンクションキーを配置したことだろう。そしてついに入出力用のポートが増えている。いずれもHDMIポートに加えて、Thunderbolt 4規格に対応した3つのUSB-Cポート、SDカードスロット、そして高インピーダンスのヘッドフォンジャックを搭載した。MacBookがこれほど多くのポートを備えるのは、2015年以来のことになる。

サウンドシステムも充実しており、ポッドキャストの録音にも適したマイクに加えて、6つのスピーカーを備えた。さらに、マグネットで電源ケーブルをつなげる「MagSafe」に対応した充電ポートが復活している(USB-Cからの充電も可能だ)。これで電源ケーブルに足を引っかけて、MacBookを机から落としたりすることもないだろう。

14インチと16インチのMacBook Proは、ベースモデルは16GBのRAMと512GBのRAMを搭載している。いずれもプロセッサーとしてアップル独自開発のM1 ProまたはM1 Maxを搭載している。

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MacBook Pro(M1チップ搭載、2020年モデル)
バランスのとれた選択肢

M1チップを搭載した13インチ版のMacBook Proは、やや中途半端なポジションに位置している。M1搭載のMacBook Airと比べて処理速度が劇的に速いわけではないが、冷却用のファンを搭載しているので、プロセッサーのパワーを長時間にわたってより多く引き出せる。ヴィデオ編集などの高度な作業に高性能版のMacBook Proを購入する予算がなければ、この製品は悪くない選択肢になるだろう。

また、スピーカーとマイクが改良されたほか、13インチのディスプレイが少し明るくなり、バッテリーの駆動時間が長くなっている。さらにキーボードの上部にはTouch Barが搭載されており、現時点でTouch Barを搭載した唯一のMacBookとなる(これがメリットであると考えるならの話だ)。重量はMacBook Airと比べてわずかに重くなっているが、サイズ感とは合っており、十分にスリムに仕上がっている。

PHOTOGRAPH BY APPLE

M1チップを搭載したMacBook Airと同様に、M1搭載のMacBook Proでもモバイルアプリを実行できる。Mac App Storeでアプリを検索すると、「iPhoneおよびiPad用アプリ」のタブが表示されるが、すべてのモバイルアプリを利用できるわけではない。これは開発者が選択する必要がある。

また、モバイルアプリはタッチパネルに最適化されているので、MacBookでは見た目も使い勝手もよくないかもしれない。だが、これらのモバイルアプリがMacBookにも最適化されていけば、iPhoneとMacを切り替えながらスムーズに作業できるようになる可能性もある。

もし動画編集ソフト「Adobe Premiere Pro」のような高度なアプリで作業する機会が多く、それでいて予算を最小限に抑えたいなら、このミドルクラスのMacBook Proをおすすめしたい。USBハブのようなアダプターを使えば、より多くの周辺機器を接続することもできる。

難点を挙げるとすれば、標準のRAM容量が8GBである点だろう。M1プロセッサーのメモリー管理は従来モデルよりはるかに優れているが、ヴィデオ編集に使うなら余裕をもって16GBを搭載したい。

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どのM1チップが最適なのか?

アップルが独自開発した3種類のチップが出揃ったいま、最適なチップを搭載したマシン選びは少し難しいかもしれない。その選び方は、あなたがMacBookを何に使おうとしているかによって変わってくる。

M1: ラインナップのなかで最も基本的なチップとなる。8コアのCPUと最大8コアのGPUを搭載し、最大16GBのユニファイドメモリー(RAM)をサポートする。インテルのチップを搭載した従来のMacBook Proよりはるかに高速で、多くの人にとって実用的な選択肢となるだろう。日常的な作業をしたり軽いゲームを動かしたりするなら十分な処理能力を備えており、写真やヴィデオの編集といった少し負荷の大きな作業にも対応できる。

M1 Pro: M1の高性能版として「M1 Pro」が用意されており、CPUには最大10コア、GPUに最大16コアを搭載している(ユニファイドメモリーは最大32GBまで対応する)。アップルによると、CPUの処理能力とグラフィック処理の両方がM1の2倍になっているという。これからさらに使い込んで比較する必要があるが、音楽制作や写真・ヴィデオの編集、3Dモデルのレンダリングなどに使うならおすすめできる。

M1 Max: M1のなかで最もパワフルなチップとなる。M1 Proと同様に10コアのCPUを搭載しているが、GPUは32コア(最大64GBのユニファイドメモリに対応)と大型化している。アップルによると、グラフィック処理能力はM1の4倍という。まだ詳細なテストはできていないが、最高の性能を求めるならM1 Maxを選ぶといいだろう。8Kや4Kのヴィデオ映像を複数のストリームで編集したり、ゲームをしたり、アプリを開発してデモを実行したりするなら最適な選択肢になる。

知っておくべき3つのこと

MacBookシリーズには、購入前に知っておくべき不具合と問題点がある。

“微妙”なタッチバー: 2016年にタッチバーをデビューさせたアップルは、キーボードの上部に配置されたこの細長いタッチスクリーンが、次世代のユーザーインターフェイスであると謳っていた。しかし残念なことに、それはうまくいかなかった。この小さな画面で何か革新的なことをできないかと興味をもっていたサードパーティーのソフトウェアデザイナーは少数派だったのである。最新のMacBookシリーズにはTouch Barが搭載されなくなったが、これはアップルがTouch Barから“撤退”しつつあることを明確に物語っている。なお、現時点でTouch Barを選びたいなら、13インチのMacBook Proしか選択肢がない。

手のひらに当たるトラックパッド: コンピューター業界で最も優秀な部類に入るアップルのトラックパッドは、新型MacBookシリーズでは信じがたいサイズにまで大型化し、タイプ中に手のひらを置くキーボードの真下のスペースを占めるまでになった。手のひらによる誤作動を防止するためのソフトウェアが動作しているというが、意図せぬ入力がしばしば発生する。

ポート不足の問題: 新しい14インチと16インチのMacBook Proには多様なポートが復活しているが、それ以外のモデルではUSB-Cの1種類しかポートが用意されていない(通常はポートが2つだ)。プロジェクターに接続したり、USBドライヴやSDカードなどを使いたい場合は、アダプターを購入する必要があるだろう。

いま買うべきではないMacBook

バタフライキーボードを搭載した旧モデル(2015〜19年)

いまや悪名高い第1世代から第3世代までのバタフライスイッチを搭載したキーボードは、MacBookの全ラインナップから姿を消した。これはいいことである。もし旧モデルを購入することがあるなら、対象機種であればアップルはキーボードを無料で交換してくれる。また一部のモデルでは機構を一部改良し、ごみが入りにくい構造に変更している。

アップルはバタフライ式のキーボードが故障した場合の清掃方法を詳しく解説しており、これはキーが打ちづらくなった場合の基本的な対応策になる。また、アップルはキーボード修理プログラムを延長しており、過去4年以内に購入されたすべてのMacについて、保証の有無にかかわらず修理するという。それでも、よほど安く手に入るのでなければ、打ちやすい「Magic Keyboard」と最新のプロセッサーを搭載した新しいモデルを選ぶことをおすすめしたい。

PHOTOGRAPH BY IFIXIT

旧型のMacBook Air:2010年にデビューした当時は画期的な薄型ノートPCだった。残念なことに、MacBook Airは2018年までほとんど変化がなかった。いまとなっては野暮ったいデザインに、非Retinaのディスプレイ、数年前の貧弱なインテル製チップのままだったのだ。

新しいMacBookとは違って、USB端子の互換性のためにアダプターは必要ないかもしれない。それでも新しいノートPCなら、ずっと長く快適に使える。安く売っているからといって、値段に釣られないようにしたい。なにしろ同じ価格帯で、はるかに優れたノートPCを購入できるのだ。

なお、旧モデルのMacBook Airを見分けるポイントはベゼル(画面の縁)だ。新型のような黒いガラスではなく、銀色で幅が広くなっている。

PHOTOGRAPH BY APPLE

16インチ版MacBook Proの旧モデル

そこまで旧式ではない優れたノートPCではあるが、新しい16インチのMacBook Proと比べると、価格には意味がなくなる。M1 ProやM1 Maxを搭載した16インチ版のMacBook Proにしたほうがいい。見分け方は、製品名やスペックに「Intel」が含まれているかどうかだ。

インテル製チップを搭載した2020年モデルのMacBook AirとMacBook Pro

これらのモデルは処理能力からバッテリー駆動時間に至るまで、M1チップを搭載した2020年後半の新モデルに完全に追い抜かれている。これらの製品は700ドル(約80,000円)を大幅に下回っている場合のみ購入していい。900ドル(約10万2,000円)に近い価格なら、M1を搭載したMacBook Airの基本モデルを購入すべきだ。これは本当に優れた製品である。

いまは買いどき?

答えはイエスだ。カジュアルなMacBookユーザーからプロのコンテンツクリエイターまで、いまやMacBookシリーズはすべてのユーザーをカヴァーしている。なかでもMacBook Airと、M1チップを搭載したMacBook Pro は、ほぼあらゆる人たちにとって優れたマシンと言っていい。さらに高負荷で処理能力を求められる作業をするなら、M1 ProかM1 Maxを搭載した新型MacBook Pro(14インチか16インチ)を選ぶといいだろう。

「AppleCare+」への加入を忘れずに

アップルのMacBookシリーズは、どれもそれなりの価格である。つまり、交換部品は悪夢のような価格になる。本体が一体型のアルミ製ボディでつくられているので、コーヒーをこぼしただけでも修理代は高くつく。アップルの延長保証「AppleCare+ for Mac」(249ドルから、日本では23,800円から)の意義はそこにある。

AppleCare+では購入時の保証期間が3年に延長され、その期間は電話でのサポートを受けたり、修理を2度まで受けられるようになる。買ったばかりのMacを壊してしまったとしても、少なくとも99ドル(日本では11,800円)のサーヴィス料で元通りになる。

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