結婚に対する価値観がいま、変わりはじめています。

生涯未婚率が男女ともに過去最高になる一方で、離婚する人も増加。家族や結婚のあり方も変化し、自分に合うようにカスタマイズできるようになってきているのかもしれません。

多様化する結婚観を、フラットに見つめ直す連載「結婚2.0」。今回は、ゲイ男性と「恋愛感情ゼロの結婚」をされた能町みね子さんにお話を伺いました。

能町さん、「恋愛の先にある結婚」を求めなくなったら、長年抱えていた恋愛に対するコンプレックスから解放され、望んでいた関係を見つけることができたとのこと…。気になります!

〈聞き手=ほしゆき〉


【能町みね子(のうまち・みねこ)】2006年『オカマだけどOLやってます。』(竹書房)でデビュー。著書に『トロピカル性転換ツアー』(文春文庫)、『私以外みんな不潔』(幻冬舎)など多数

ずっと「恋愛ができない」というコンプレックスを抱えていた

ほし:
能町さんは著書『結婚の奴』(平凡社)のなかで、恋愛→結婚の流れが自分には難しかったと書かれていましたが、これまで、誰かを好きになることはあまりなかったのでしょうか?

能町さん:
そうですね…小学生のころから、好きな人の話で盛り上がる友だちを見て、自分にはよくわからないっていう感覚はありました。

「きっと大人になればわかるんだろう」と思っていたんですが、20代になってもよくわからないままでした。告白されたら、付き合ってみたりもしたんですけどね。


あまり盛りあがらなかったそうです

ほし:
付き合っても、友達のような感覚だったんでしょうか?

能町さん:
友達よりも少し特別ではあって、ほんのり好きという感情はあったと思います。

でも別れてもショックではないし、何日も泣いたり、ご飯が食べられなかったり…っていう情熱的な気持ちにはならない。

結局、しっくりこないままで関係性が苦痛になってきてしまうんですよね。

ほし:
ふむ…

能町さん:
何回か交際を経験しても、一向に恋愛に対してテンションが上がらないので、30代になって「自分に恋愛は向いていない」という感覚が強くなりました。



能町さん:
「恋愛が素晴らしいものだ」なんて、恋愛がうまくいった人による美化に過ぎないと思うんです。

世の中、どれだけの人が恋愛によって傷つき、どれだけ恋愛によってひどい事件が起きてきたか。恋愛は、向いている人だけが楽しめばいい。

何度か挑戦してみた結果、そう思うようになりました。

人を好きにはならないけど、「結婚したい」という思いは強かった

ほし:
結婚への興味は、ずっと持っていたんでしょうか?

能町さん:
持ってましたね。でも純粋な結婚願望というよりは、「まだ結婚しないの?」というまわりの目や、「結婚すること=絶対的な幸せ」という世の中の価値観に嫌悪感があって…

逆に、早くこの圧力から解放されたい、という理由で「結婚したい」という思いがどんどん強くなっていきました。



ほし:
うわぁ、わかります。

結婚=勝ち」みたいな価値観って、まだ普通にありますよね。仲の良い友だちが次々に結婚していくと、取り残されていくような感覚にもなりますし。

能町さん:
そうなんです。だんだん夜飲みに行ける人が少なくなって…

とはいえ、恋愛結婚は一生できそうにない。そもそも恋愛をしたいわけでもない。「じゃあ結婚になにを求めているのか」を考え直してみたら、結婚の内臓をすべて抜いた結婚だったんですよね。

ほし:
内臓…というのは?

能町さん:
恋愛感情、体のつながり、「両家顔合わせ」からはじまり指輪や式の準備や誓い…そういった“醍醐味”と思われているもの全部です。

私が求めていたのは、事務的で、生活の効率性のために存在している結婚でした結婚という形式のなかで“同居”ができたらそれでいいんです。

ほし:
結婚した」という事実があれば、恋愛や結婚についてのプレッシャーから解放されて、同居人がいれば孤独ではない、ということか…

たしかに、求めているものは手に入りますね。



能町さん:
求めているものが整理できたときに、思い浮かんだのが「ゲイと結婚した」という作家の中村うさぎさんでした。恋愛感情を抜きに共同生活をしている、これは私の理想だ!と。

ほし:
でも、同じ価値観で結婚をしようと言ってくれる相手を探すのは難しくないですか?

能町さん:
もちろん誰でもいいわけではないですし、一緒に生活するうえで気が合うかどうかはすごく大事です。

私が「お互い恋愛感情のないゲイとの結婚」を理想としたとき、すぐに思い浮かんだのが仕事の集まりで数年前に出会ったライターのサムソン高橋さん(今の夫)でした。



ほし:
サムソンさんとは、もともと仲の良い関係だったんですか?

能町さん:
直接話したことはほぼなかったんですが、Twitterでちょこちょこ会話をする仲でした。

同じネタでよく盛り上がっていたので、気が合うなとは思っていて。男性が好きな彼にとって、私が恋愛対象になることは絶対にないですし、私もない。

これは…!と思って、Twitterで「サムソン高橋さんはチャーミングだし、原稿も、まじめに書いても毒を吐いても面白いから大好きで、偽装結婚の相手として最高じゃないでしょうか…」とツイートしてみたんです。

ほし:
えっ!

すごい急展開、攻めましたね!(笑)



能町さん:
ツイートなら冗談で済ますこともできるし、もし眉をひそめるようであったらすぐカードを引っ込めますよ、みたいなエクスキューズも込めての「偽装結婚」というワードです(笑)。

そうしたら「お互い道に迷ったら(私のほうはすでに迷ってる)ぜひ!」という好意的な返事がきまして。

ほし:
おおおぉ!

能町さん:
そこから私がデートに誘って、その日にあっさり「結婚を前提とした関係」ということを合意してくれたので、とりあえず疑似恋人関係みたいになりました

ほし:
その日にあっさり!?

能町さん:
そうなんです。

割と早い段階で家に行ったんですが、そこで「何もせずお互いスマホをいじっている」という時間がしばらく流れたんですよね。

このまったく気を使わない関係は、ものすごくいいなぁと思いました


もう同棲をはじめたカップルの話みたいになってる

能町さん:
恋愛感情はないけど「恋愛っぽいこと」をするのは楽しかったですし、結婚って、ランチしに行って「意外とこの人優しいな」と思うくらいの人としていいと思うんです。

お互い、過度な期待をしたりすると苦しくなるので。

ほし:
ものすごいトントン拍子だったんですね…

能町さん:
後からわかったんですが、合意してくれたときは冗談だと思っていたらしいです(笑)。でも私が本気で計画を進めていくうちに、「あ、本気なんだ」って気づいたそうで。

一緒に住むことと、生活費を出すので家事をやってほしいと頼んだら、快く引き受けてくれました。今でも家事の9割はしてくれています。

本当に、タイミングよく求めていた暮らしが実現できました


巡り合わせだ…

「期待」と「理想」のない結婚の先には、自由と平和がある

ほし:
理想としていた「恋愛感情を抜きにした結婚生活」が現実になって、どうでしたか?

能町さん:
そうだなぁ…

結婚って、いいものですね(笑)。


あら、幸せそう

能町さん:
他の人たちから見たら、「そんなの結婚じゃない」とか「夫婦じゃない」と言われるかもしれません。

でも恋愛感情の一切ない結婚というのは、相手のありのままを受け入れつつ、期待しない、理想を押し付けない、という関係でいられるのですごく楽ですよ。

ほし:
期待しない、かぁ…

理想や期待を押しつけてしまうと、お互い苦しくなりますもんね。

能町さん:
私、結婚生活1日目の夜に体調が悪くてうんちを漏らしてしまったんですけど…

ほし:
えっ?



能町さん:
恋愛結婚だったら、顔面蒼白ですよね。

でも、普通に打ち明けることができたんです(笑)。大人としてショックな事件ではあったんですけど、サムソンさんは顔色を変えずに接してくれて…むしろ洗うのを手伝ってくれたり。

異性として期待されていないから、そういう失態を犯しても自分を過度に責めなくて済む。理想も期待もないということは、相手がどうなろうが扱いは変わらないってことなんですよね。

ほし:
めちゃくちゃいい関係…!

期待しない相手と結婚したほうが、離婚率低くなりそうですね。

能町さん:
ほんと平和ですよ。お互いまったく干渉しないですし。

コンプレックスだらけだった独身時代と比べて、生きやすくなった感覚がすごくあります

「恋愛→結婚」よりも、「自分なりの結婚」を見つけたらいい

ほし:
今は、結婚へのハードルが下がって「離婚するかもしれないけど、とりあえず結婚してみよう」という考えの人たちも増えてきているみたいですね。

能町さん:
あ〜、すごくいいですね。結婚=一生を添い遂げるって考え、ほんとやめたほうがいいと思います。重すぎですよね。

私たちは生活を楽にするために結婚をしたので、うまくワークしなくなったり、結婚生活を不自由に感じたりしたときには離婚すると思います。



ほし:
そういうお話もされているんですね。

能町さん:
ちらっとですけどね。

今はうまくハマっているので考えていないですけど、お互いによそで恋愛するのもOKなので、もしもどちらかが違う人と恋愛結婚の話が出たりしたらまた変わると思います。

ほし:
すごい…! どこまでも自由だ。

能町さん:
私のように、「自分には結婚が遠すぎる」と悩んでいる人がいたら、誰かが決めたルール上の結婚ではなくて、「自分にとっての結婚」を決めてみると救われるのではないかなあと思います。

ほし:
「自分にとっての結婚」…

能町さん:
探してみると、「結婚」という制度だけ利用して変わった結婚をしている人はすでにたくさんいます。別居婚だったり、不倫を受容していたり。

「これが結婚だ」なんて答えは、自分でつくればいい。

ほし:
そのためには、能町さんのように「自分は結婚に何を求めているのか?」の答えを整理する必要がありますね。

能町さん:
そうですね。

自分なりの「結婚条件」がわかれば、道筋を立てやすいと思います。

ほし:
能町さん、ありがとうございました!




能町さんに“結婚生活のなかで幸せを感じる瞬間”をお伺いしてみたら、「SNSにも書かないくらいどうでもいい話をしているとき」という言葉と照れ笑いをいただき、なんだか無性に結婚したくなりました。

“恋愛感情のない結婚生活にも、幸せな日常が待っている”ということを体現してくださった能町さんに、救われる人も多いのではないでしょうか。

結婚の定義は、自分で決めてしまえばいい!

新R25はこれからも、固定観念にとらわれない結婚観を紹介していきたいと思います。

〈取材・文=ほしゆき(@yknk_st)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉



能町さんの著書『結婚の奴』(平凡社)には、より詳しく能町さんの過去の恋愛や、考え方の変化、サムソン高橋さんとの関係、結婚生活について書かれています。

新しい結婚観に触れたい方は、ぜひチェックしてみてください!

結婚の奴 - 平凡社
https://www.heibonsha.co.jp/book/b482387.html