副業の確定申告で「還付金」をゲットした人の落とし穴
■3月16日が今年の確定申告の期限
所得税の確定申告の時期がやってきた。申告と納税の期間は、例年であれば2月16日から3月15日の1カ月間だが、今年は曜日の関係で、2月17日(月)から3月16日(月)までとなっている。消費税の申告期限は例年通り3月31日(火)だ。
原則、
さて、今回は「副業」をしている人の確定申告について考えてみたいと思う。
まず、「副業」とは何か定義を確認しておこう。「副業」と呼ぶからには、当然のことだが「本業」があるはずだ。
■「所得」は10種類に分けられる
企業と雇用契約を結びそれに基づいて働いていることが、主たる業務になっている場合、ここで扱う「本業」はこのタイプになるだろう。所得の区分でいうと給与所得が主な収入源という人だ。収入が給与のみの場合は原則、確定申告をする必要がない。
月曜日から金曜日までは会社に行って働いているが、土日や就業後の時間を使って収入を得ている場合、この部分が「副業」となる。ここで確認しておくべきことは、「副業」はあくまで「副業」ということだ。
所得税を計算する際、まず所得の種類を区分しなければならない。所得の種類は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得、雑所得の10に区分されている。
本業が給与所得の人の場合、「副業」は上の10種類のうちどの所得になるのか。
「『副業』は『業』という文字がつくので、事業所得かな?」と思われただろうか。早合点すると、後で痛い目に合う可能性があるから要注意だ。
■その副業は「事業」なのか
そもそも事業とは何か。広辞苑で調べてみた。
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2、一定の目的と計画とに基づいて経営する経済的活動。
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では、所得税法では、どのように書かれているのだろうか。国税庁のHPには、事業所得について下記のように書かれている。
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事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得をいいます。
【国税庁HPより引用】
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「副業」と一口にいってもその業態は様々だろう。誰が見ても経営をしていると見てとれるというのであれば、所得の区分は事業所得でよいだろう。だが、経営といえるほど大げさなものではないとしたら、10種類の所得のうちのどの所得になるのだろうか。
■事業所得は損益通算ができる
正解は雑所得だ。先に、所得は10種類あると書いたが、9種類の所得のうちどれにも該当しない所得を雑所得という。実は、その所得が事業所得になるのか、雑所得になるのかは、税法では明確にされていないのだ。
事業所得と雑所得は何が違うのか。
まずは、給与所得等との損益通算ができるか、できないかだ。
「本業」が給与所得「副業」を事業所得で申告する場合、「副業」で損失が出たら「本業」の給与所得からその損失の分をマイナスし、給与所得から源泉徴収されていた税金の還付を受けることができる。一方、雑所得の場合は損益通算ができない。
国税庁のHPでは「副収入」、つまり「副業」の確定申告について以下のように書いている。
大部分の給与所得者の方は、給与の支払者が行う年末調整によって源泉徴収された所得税額と納付すべき所得税額との過不足が清算されますので、確定申告の必要はありません。
しかし、年末調整が済んでいる給与所得者であっても、その給与所得以外に副収入等によって20万円を超える所得を得ている場合には、確定申告が必要となります(給与所得者で確定申告が必要な方の詳細については、コード1900をご参照ください)。
給与所得者の副収入としては、様々なものが考えられますが、例えば次のような所得については、一般的には、それぞれ雑所得に該当します。
1 インターネットのオークションサイトやフリーマーケットアプリなどを利用した個人取引による所得
(具体例)
・衣服・雑貨・家電などの資産の売却による所得
※生活の用に供している資産(古着や家財など)の売却による所得は非課税(この所得については確定申告が不要)で、損失は生じてないものとみなされます。
・自家用車などの資産の貸付けによる所得
・ベビーシッターや家庭教師などの人的役務の提供による所得
2 ビットコインをはじめとする仮想通貨の売却等による所得
3 民泊による所得
※個人が空き部屋などを有料で旅行者に宿泊させるいわゆる「民泊」は、一般的に、利用者の安全管理や衛生管理、また、一定程度の観光サービスの提供等を伴うものですので、単なる不動産賃貸とは異なり、その所得は、不動産所得ではなく、雑所得に該当します。
【国税庁HPより引用】
■事業所得は青色申告で大きな特典を受けることができる
事業所得の場合は、青色申告をすることができる。青色申告をすると以下のような特典がある。
2、青色事業専従者給与をとることができる
3、純損失の繰越と繰戻しができるは、
4、30万円未満の少額減価償却資産の特例が受けられる
言い方を変えると、青色申告を選ぶためには事業所得として申告をしなければならない。
今後、どのような「副業」が出てくるのかわからないが、上に引用したとおり国税庁は、現状「副業」は一般的に雑所得であるという考え方をしている。
「脱サラをして『副業』を卒業し、『本業』にするんだ!」
と腹決めしたというのであれば、所得の区分は事業となり、青色申告承認申請書を提出できるということになるだろう。
片手間の「副業」ではなく、本気で事業に取り組む人の特典として青色申告の制度があると理解してよいと思う。
■所得が20万円以下なら確定申告は不要だが…
「副業」をした先から源泉徴収票をもらった場合は、本業の勤務先からもらった源泉徴収票とを合計し、給与所得として確定申告をすることになる。源泉徴収されている金額が多すぎる場合は、還付になるかもしれない。
「副業」の所得金額が20万円を超えない場合は申告しなくてもよいのだが、収入金額が相当な金額の場合は、申告する方がいいかもしれない。
仕事をしてお金をもらったということは、お金を払った人や会社があるはずだ。お金を払った人や会社は、誰にいくら払ったのかを帳面にあげている。調査官は税務調査があったときには、どこの誰になんのために払ったのかを確認する。本当に払ったのかどうか、払った先に調べに行くという調査がある。反面調査だ。
個人に対する支払いは、不正に繋がる可能性が高いため裏をとることが多い。ざっとの計算で所得金額が20万円以下になると思った場合でも、
また、住民税は申告が不要な金額を定めていない。そのことを考えれば、
■「還付された=内容が認められた」ではない
「副業」をした場合、支払調書が送られてきたという方がいるのではないだろうか。この用紙が送られてきた場合は、どこにどんな数字が記入されているかよく見てほしい。
源泉徴収税額の欄に数字が入っていたら、それは、確定申告書の上で清算する必要があるからだ。
収入から必要経費を差し引きすると、源泉徴収税額がいくらか還付されるという結果になるかもしれない。還付金は、申告書の提出時期やその税務署の忙しさの具合にもよると思うが、1カ月程度で還付されるだろう。
お金が戻ってくると、申告した内容全てが認容されたと思いがちだがそうではない。
「ラッキー、臨時収入だ!」と思ってすぐにお金を使ってしまってはいけない。確定申告書の縦計が合っていれば、とりあえず還付するという仕組みになっているからだ。
税務署では、収支の内容については確定申告が終わってから確認している。
ピンポイントの間違いについては、「『扶養控除』年86万円のバイトで14万円の追徴を科された親子の勘違い」で紹介した「事後処理」をすればよい。だが、「本業」プラス「副業」を申告し、毎年、所得税の還付を受けているとなると話は違ってくる。収入は数百万円あるのに、ほとんど所得がないような申告を毎年提出していると、3年くらい経ってから税務調査に選ばれるかもしれない。
■確定申告はあくまで自主申告だ
「副業」をしてみて生活が楽になったとか、潤っている感がある場合は、課税ベースに乗せるくらいの儲けがあったと思うべきだ。そういった人は、手元にある領収書を合計してみて、経費が収入金額より多くなったと思って安心していてはいけない。
その中に、生活費としての出費は含まれていないだろうか。友達との楽しみのために使ったお金が入ってないだろうか。
税理士の資格を持ってもいない人が、領収書さえあれば何でも経費で落とせるという本を書いているようだが、鵜呑みにしていないだろうか。著者の主張通りに申告しても、その著者は税理士でなければ何ら責任を問われるものではない。
確定申告はあくまで自主申告なのだ。その責任は、申告した納税者自身にある。ひとつひとつの経費について、その収入を得るために直接必要だったのかどうか検討する必要がある。
国税庁のHPには、税務訴訟資料というページがある。「副業」が事業所得なのか雑所得なのかについての判決が公表されているので、一読されるとよいだろう。
上に紹介した事例では、「副業」を事業所得と考えて青色で確定申告をしていた納税者に対して、事業所得には該当せず雑所得とする判決が出ている。形式基準ではなく、実質的にどうなのかということが判断材料になったようだ。
■「副業は事業所得」と勘違いしていると…
「副業」はあくまで「本業の傍らで行うもの」という考え方によるものだと思う。「本業」だけでは心もとないので、「副業」で利益を得ようとしているのだから、そこからマイナスが発生することは認めないということだ。
事業所得は青色申告控除や損益通算といった恩恵がある。「副業」は「業」がつくから事業所得だろうと安易に考えると、後々の税務調査の際に誤りを指摘されて追加の税金を支払うことになる。
冒頭で、「副業」は事業所得だと早合点すると“後で”痛い目に合う可能性があると書いた。それは、確定申告の時点ではなく数年後の税務調査でツケが回ってくるという意味なのだ。
「副業」の確定申告を安易に考えてはいけないということがおわかりいただけただろうか。「副業」の確定申告をして、還付金が戻ってきたことがあるという人へ。
重ねて言うが、お金が還付されたことで安心してはいけない。
後になって税務署から連絡があるかもしれない。
「税務署は3年泳がせる。」のだから……。
■確定申告の不明点は税務署に聞けばよい
では、「副業」をしている人は、確定申告のやり方などについて誰に相談すればいいのだろうか。「副業」を始めたからといって、お金を払って税理士に相談しているという人は少ないのではないだろうか。必ず儲かるかどうかもわからないのに、税理士に対する支払いが発生するというのも合点がいかないだろう。
実は、国税庁では、記帳指導を行っている。
なお、税務署では、事業所得等を有する白色申告の方に対し、記帳に関する説明会を開催し、記帳・記録保存制度の概要や具体的な記帳の仕方等についての説明を無料で行っています。
【国税庁HPより引用】
そもそも国税庁は、行政サービスを司る機関だ。税務調査をすることだけが仕事ではない。税務署に問い合わせをするのは、ちょっと勇気がいるかもしれないが、やり方がわからないときは記帳指導のサービスを利用してみるとよいだろう。税務署から依頼を受けた税理士が自宅まで来て、丁寧に指導してくれるはずだ。
今後、働き方改革もあいまって、「副業」をする人はますます増えていくのではないだろうか。国税当局も、「副業」をしている人の確定申告のガイドライン等を示す必要が出てきていると思う。
いずれにせよ、確定申告は自主申告だ。税理士に助言を求めることはあっても、最後決断は申告する本人なのだ。当然のことだが、自分の経営方針は自分で決めなければならない。
経営方針なんてそんな大層な……。と思われた人もいるだろう。
まずは、自分自身の手で書いた記録を残しておくことをこころがけてはどうだろうか。
調査官の間では「原始記録」と呼んでいるが、領収書、請求書、仕事の段取りを書いたメモなどは、捨てずに保存しておくことだ。
それらの書類はタダの紙切れではない。ヒト、モノ、カネ、の動きを証明しているからだ。「原始記録」から自分の経営の在り様が見えてくるかもしれない。
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飯田 真弓(いいだ・まゆみ)
税理士
元国税調査官。産業カウンセラー。健康経営アドバイザー。日本芸術療法学会正会員。初級国家公務員(税務職)女子1期生で、26年間国税調査官として税務調査に従事。2008年に退職し、12年日本マインドヘルス協会を設立し代表理事を務める。著書に『税務署は見ている。』『B勘あり!』『税務署は3年泳がせる。』(ともに日本経済新聞出版社)、『調査官目線でつかむ セーフ?アウト?税務調査』(清文社)がある。
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(税理士 飯田 真弓)