動画のキャプチャー画像(WESTE & Co.提供)

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児童虐待の様子を子ども目線で再現した動画コンテンツ「児童虐待体験VR」の試作版がネット上で公開され、大きな反響を呼んでいる。

虐待を身近に感じてもらい、意識の向上や早期発見につなげようと、映像制作会社「WESTE & Co.(ウェスト アンド カンパニー)」(横浜市鶴見区)が作った。同社代表取締役の西江祐哉氏(36)は、J-CASTニュースの取材に「少しでも現実味を持って体験できるコンテンツであれば」と語る。

「いいから早く食べなさいよ!」「母ちゃんと一緒にマジ殺すぞ」

試作版動画は、2019年9月27日に一般向けに公開した。同社の社会活動プロジェクトの第1弾として、動画を試作。「最も心を痛める社会問題」である児童虐待を扱った。

長さは、6分54秒。2018年に横浜市で起きた幼児虐待事件を再現している。3つのシーンで展開。最初のシーンは、両親役の2人から「いいから早く食べなさいよ!」「お前も一回外出ろ!」などと大声で怒鳴られる。2つ目では、父親役からベランダで手にタバコを押し付けられたり、「母ちゃんと一緒にマジ殺すぞ」などと脅され、「ここにずっといろ」と命じられたりするシチュエーション。3つ目には、両親役から「おいしいよ」「飲んでみ」などと言われ、洗剤を飲まされる場面が続く。

ヘッドマウントディスプレー(HMD)を使って視聴すると、「両親」が実際に「威圧」してくるような動画が目の前で再生される。

記者もHMDを装着してみると、スマートフォンで見るのと比べて奥行きを感じた。目の前に迫る「親」の立体的な映像や耳を突き刺すような「怒鳴り声」が相まって、見る側に「恐怖」を感じさせ、「親」の顔から思わず眼をそむけたくなる。もちろん、本当の虐待体験はもっと悲惨で想像は及ばないと思うが、目の前にいる「親」が攻撃的に迫ってくるような圧迫感は受けた。

ネット上に公開された動画は大きな反響を呼び、「VRのヘッドセットつけて見たけど怖くて3分持たなかった」「めっちゃ怖かった」などの声が寄せられた。

子ども目線にした「2つの狙い」

J-CASTニュースでは10月3日、西江氏に話を聞いた。

「世の中の負を引き上げる」を大きな理念として、同社をほかのメンバーらと一緒に19年1月に設立した。西江氏は、「マイナスをフラットにする幸福に価値を感じる」と説明。「マイナスの捉え方は人それぞれですが、ぼくが感じるマイナスをフラットにする幸福はものすごく大きい」と語る。「例えばわかりやすいところだと、病気が治る、貧困が改善される、普通の生活に戻れるなどに価値を持っているところが理念として大きい」。

18年に横浜市で起きた虐待事件の関係者にも話を聞いた。実例を扱ったのは、「自分事として捉えてもらえる狙い」からだ。

実際にVRで動画を見ると、両親役の人物が「迫ってくるような」感覚を覚えるのも特徴。「怒鳴りつけたりする時も(演者さんに)カメラに近づいてもらって表情を見せるような、圧迫感を持たすような仕掛けはしています」。

コンテンツの狙いは、「惨事の早期発見」。西江氏は、子ども目線にした狙いを2つ挙げた。

「1つは、実際に虐待をしている当人の周りの人にインパクトを与え、虐待を気づかせるところ。もう1つは、虐待行為の通報や(子どもたちに)手を差し伸べる一歩を踏み出せるように、そんな思いを込めています」

「実際に起きている虐待事件は、こんなものでは体験できない」が...

動画公開後、メールなどをもらうこともあったという。「直接、虐待防止の活動をしている個人の方や積極的にしている方からメールを頂いたり、『本当にうれしかったです』みたいなメッセージを頂いたりしています」と明かした。今後については、「虐待問題に関する知見は正直、専門ではないですし、そういった(専門家の)方にも直接会ってお話を聞くなどして、今後の活動に役立てていきたい」と触れた。

西江氏は、「(横浜の事件も含め)実際に起きている虐待事件は、こんなものでは体験できない、本当に悲惨なものだと思う」としつつも、狙いの1つである「気づき」に触れた上で、「意識を高めて気づかせやすくするところがある」などと語り、VRという形を選んだ理由として次のように述べた。

「一番は自分が体験することだと思っている。『客観』ではなく、自分が体験することで植え付けられる意識は大きい。そういった意味でVRは最適だったかなと思っています」

動画コンテンツの趣意書は、同社の公式サイトから閲覧できる。。動画再生は、HMDである「Oculus Go」推奨だが、スマートフォンでも可だという。

今回公開されたのはテスト版だが、完成版の動画公開は、予定していない。西江氏は、「ある程度(動画に対する)反応を見て慎重に、ということを考えています」としている。

(J-CASTニュース編集部 田中美知生)