VTuberがネットとリアルを融合させる? 新たなエンタメが誕生する可能性

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ドワンゴは“平成最後”となる「ニコニコ超会議2019」(以下、ニコニコ超会議)を4月27〜28日、千葉県・幕張メッセにて開催した。
このニコニコ超会議は、同社が運営する動画サービス「niconico」の毎年開催しているイベントである。平成最後となる今回は、会場来場者数16万8,248人、ネット視聴者数666万3,612人を動員し、昨年の会場来場者数16万1,272人、ネット視聴者数612万1,170を上回る動員を記録した。

今年のニコニコ超会議も、ライブステージやトークステージ、企業ブースなど様々なエンタメが集合していたのは例年通りだが、バーチャルYouTuber、いわゆるVTuber関連のブースや出展に力を入れている点が大きな特徴だった。


NTTはVTuberとAIを組み合わせて会話が楽しめる展示を行っていた


VTuberを簡単に説明すると、CGキャラクターのアバターを使って動画配信を行う投稿者のことを指す。
現在VTuberは、YouTubeだけではなく、様々なライブ配信プラットフォームでも活躍している。

一般的な動画配信では、視聴数に応じて得られる広告収入のほかに、生配信において視聴者からの投げ銭による収入を得ることができる。そのため自分の趣味や特技、話術などキャラクター性を活かした配信者が多い。
しかし安定した収入を得られるのは限られた一部の配信者だけだ。

VTuberは、
・アバターによるビジュアルの魅力
・VTuber(配信者)の声
これらを総合したキャラクターの確立で、動画配信ビジネスで成功を獲得するための一つの方法となりつつある。
リアルなトークが苦手な人でも、それを逆手に取って独特の間や空気感を出せる配信者であれば、アバターのビジュアルの魅力と相まってカワイイと受け取れる、いわゆる萌え要素にすることが可能となることもある。また、話術をもつ配信者であれば、アバターの魅力をビジュアル以上に引き出し、エンターテインメント性を生み出すことも十分にできるのである。

少し前までは、VTuberとの接点はパソコンやスマートフォンの配信画面だけだった。
しかし今回のニコニコ超会議のイベント出展では、
・VTuberが来場者とトークをする
・イベントステージで歌を披露する
こうしたライブの取り組みにより、来場者同士が感動や興奮を共有できるのだ。




その中でも注目したのはVTuberと1対1で会話が楽しめる「VTuberおしゃべりフェス」だ。

「VTuberおしゃべりフェス」は、
目的のVTuberのレーンに並び、持ち時間内でおしゃべりを楽しむというシステム。
これは、リアルな人気アイドルイベントの特典会とほとんど変わらない。





出演するVTuberは、タイムテーブルにズラリと並ぶ。
まさに“フェス”感覚である。
出演時間の関係上、有料チケットで参加者を制限しているのだが、無料の時間枠もあるのでお試し体験することも可能であった。
当然のことながら、無料の枠も整理券は、あっという間になくなる。
VTuberに対する来場者の熱気を感じることができた。




VTuberとの会話はヘッドホンとマイクが一体になったヘッドセットを使う。
ニコニコ超会議が行われている賑やかなホール内でも、ヘッドホン越しにVTuberと周りを気にすることなくおしゃべりが楽しめる仕組みである。

通常のVTuber配信では、大勢いる視聴者の中のコメントをVTtuberが拾うというコミュニケーションが行われている。
このため、コミュニケーションのキャッチボールは間接的となり、視聴者個人とコミュニケーションできないことがジレンマだった。
しかし今回の「VTuberおしゃべりフェス」は、1対1でゆっくりと話せる。
つまりその時間だけVTuberを独り占めできると言うわけである。この価値に多くのファンが列を作ったのだ。

有料チケットも無料参加も、おしゃべりの持ち時間は1分間。その時間内に自由におしゃべりができるほか、VTuberによっては2ショット写真撮影を撮って楽しむことも可能だ。





ホール内では、VTuberおしゃべりフェスのほかに、さらに盛り上がりを感じたのが「IRIAM超バーチャル握手会」だ。

こちらはVTuberではなく、バーチャルライブアプリ「IRIAM」によるVライバーとの会話を楽しむというもの。
有料チケットではなく、整理券制であったため時間が許す限り「推し」のVライバーを見つけられるリアルイベントとして注目されていた。
こうしたショーケース的なイベントはファン獲得のチャンスに繋がるので、VライバーやVTuberのイベントと併設して欲しいと思う。

VTuberとの接点は、ニコニコ超会議だけではなく、ライブ配信元主催のイベントが開催されるなど、最近では増えてきている。
ネットでは経験できない、リアルな会場という場ならではの空気感を共有できるライブイベントならではの面白さがある。

ただファンも、主催者・制作者側も、まだ未体験、経験値不足が目立ち、ノウハウが少ない。
しかしだからこそ、これからの自由度、選択肢の多く、エンターテインメントとしての伸び代が大きいといえるだろう。


東京VTtuber劇場、柚子花(ゆずは)さんとのトークイベント


さらに「東京VTuber劇場」が8月からスタートした。
これはVTuberのトークライブや歌などのステージイベントと、チャットの特典会が楽しめる。

ステージイベントでは、会場に設置されたカメラとマイクにより、来場者とVTuberによる、生のコミュニケーションができる空間が作られており、リアルならではの化学反応が楽しめる。
この東京VTuber劇場は、2015年にスタートしたライブエンターテインメント「東京アイドル劇場」のノウハウを活かした新規事業で、VTuberとファンをつなぐフォーマットとして今後も期待したい。

最後に、VTuberのアニメキャラクターが苦手という人も、まだ多いと思う。
ビジュアルの好みといった面もあるが、アバターで表示されるVTuberの演者が誰だかわからない、といったことに距離をおいてしまうという人が多いからだろう。

最近、報道番組のキャスターやレポーターであるテレビ東京の相内優香アナウンサーが、番組内でVTuberを紹介し実際に体験する場面があった。

アニメ口調で話す相内アナとアバターが見事にシンクロしており、それがきっかけで現在はテレビ東京公式のVTuber「相内ユウカ」として番組を担当するなどしている。
舌っ足らずの口調と少し毒舌という塩梅がアバターとのギャップが絶妙で、好印象を持った。

このように“中の人”を知った上で、そこにアバターが乗ったことでVTuberに対して愛着がわくという体験ができたのは、エンターテインメントとしてのVTuberを深く理解するきっかけとなった。




ネット時代のエンターテインメントの特徴は、既存のテレビなどとは異なる。
自分に向かって来る新しい波を待つのではなく、自分から興味を持って、向かえにいくことで自分にシンクロする楽しみを発掘していく、大衆よりも個に向けたエンターテインメントの波が広がっている。

まだ周知されているとはいえないVTuberの世界だが、ネットとリアルの融合から、どのような化学変化を生み、どのような未来を創っていくのか、今後が楽しみである。

東京VTuber劇場


執筆  mi2_303