日本でも8月23日に発売となるHomePod。iPhoneを近づけると自動的に認識し、自分のApple IDを通じてApple Musicアカウントやカレンダーなどの情報を、音声アシスタントSiriを通じて利用できる(筆者撮影)

アップルはアメリカで2018年2月に発売したスピーカー「HomePod(ホームポッド)」を日本で8月23日に発売する。これに先駆けて、HomePod2台使いをレビューする。

筆者は現在、自宅のオーディオ環境をSONOSで構築している。テレビに組み合わせるサウンドバー「Playbar」や、ステレオモデルの「Play 5」などを2017年頃にそろえ、移動させながら「Play 1」も利用している。

また外出先では、電車や徒歩などでの移動中はアップルの「AirPods」、座って作業をする際には遮音性が高い完全ワイヤレスヘッドフォン、ゼンハイザー「MOMENTUM True Wireless」、飛行機移動ではノイズキャンセリングに対応するParrot「Zik 3」を使い分ける。

音楽ソースはApple Musicのほか、Spotify、Podcast、大量に持っているCDをデジタル化した音源などさまざまだが、基本的には完全にデジタル音楽に移行しており、すでに自宅にはCDプレイヤーがなく、パソコンからもDVDドライブはなくなってしまった。

セットアップは「自動的」で極めて簡単

HomePodは7つのツイーター、6つのマイク、1つのウーハーを搭載する、重さ2.5キロの円筒形スピーカーだ。白とスペースグレーの2色展開で、柔らかに落とされた角の造型をメッシュのファブリックで包み込む様子はいかにもオーディオ製品のアップル的解釈を感じる。

布巻の電源ケーブルを差し込むとHomePod上部に光が点り、セットアップのモードに入る。AirPodsをペアリングするように、手元のiPhoneをHomePodに近づけると自動的にHomePodを認識してカードが画面に表示され、数タップするだけで自分のApple IDと紐付けるセットアップが完了する。

HomePodは音声アシスタントSiriに対応しており、「Hey Siri」のおなじみのフレーズで呼び出すと、音楽再生中でもリクエストをクリアに認識して応えてくれる。その音声認識の声の吹き込みも、セットアップの工程の中に含まれていた。

セットアップ工程では、実際にSiriでリクエストして音楽を再生するプロセスがある。実はこれも、HomePodにとって重要なセットアップの手段となっている。

HomePodは最初の1曲目を再生する際、全方位を向いている6つのマイクを用いて、自分が再生した音の反射を測定する。これによって、壁までの距離や部屋の広がりなどを認識するという。

スピーカーを設置する際、最適な環境を得るには、その部屋に合わせた位置や向きなどを正しく行う必要があった。しかしHomePodの場合、好きな場所に置けば、その部屋を最適な音で満たしてくれる簡単さがある。

スピーカー自体に「正面」という概念はなく、ボーカルや主旋律などの音を際立たせる「スイートスポット」が、部屋のより広い部分に設計される。HomePodは音楽を分析して、直接届ける音と、壁などの反射を使って間接的に届ける音を分離し、1台でステレオ再生を実現するだけでなく、音像を正しく作り出そうとするそうだ。

Siriがリクエストに応えてくれる

Siriは自分のApple IDの情報を用いて、さまざまなリクエストに応えてくれる。

例えば「90年代のロックを再生して」と頼めば、自分のApple Musicのアカウントを用いて、適切なプレイリストを再生する。「お気に入りを流して」「モーツァルト」「リラックスできる音楽」といったざっくりとしたリクエストもできるし、アーティストや曲名を指定したリクエストも可能だ。


HomePod上部にはタッチセンサーがあり、ボリューム調整や中央部分の長押しでSiriの起動、タップで音楽のストップなどの操作ができるが、基本的には「Hey Siri」での音声による操作か、iPhoneから選曲して利用する(筆者撮影)

HomePodに対する選曲は、Siriを通じたものだけでなく、iPhoneなどの「ミュージック」アプリを用いることもできる。お気に入りのプレイリストをiPhoneから選曲し、出力先をHomePodにしておけば、音楽を再生し続けてくれる。

音楽再生中にミュージックアプリを終了したり、音声通話が入った場合は音楽は止まるが、HomePodは自分でApple Musicから音楽を再生し続けてくれるため、BGMが途切れることはない。

HomePod登場以前からApple MusicをサポートしていたSONOSスピーカーでも同様のことは実現できていた。ただしSONOSは最新モデルでもSiriに対応しておらず、スケジュールなどをiCloudで管理している場合、HomePodを用いた音声アシスタントによる活用に利便性を感じた。

またHomePodはHomeKitデバイスのコントロールにも対応する。部屋の電気やブラインド、空調などを声でコントロールできるが、設置されている部屋を中心に考えられているため、リビングルームのHomePodに「この部屋の電気を暗くして」という指示ができる。

HomePodを1台で使っている場合、音楽を細かく聞く、というよりは部屋全体を音楽で満たす「最適化」を担ってくれる存在という意味合いが強かった。

気軽にSiriで音楽をリクエストして流しっぱなしにすることができ、スピーカーの位置を感じさせず、わりとどこでもいいバランスで音楽を聞くことができる点が優れた点だった。これは360度全方位に7つのツイーターを配置しているHomePodのデザインによるものといえる。


1台でも部屋を自動認識してステレオ再生が楽しめる。7つのツイーター(高音用スピーカー)、6つのマイク、1つのウーハーが搭載された円筒形で、2.5キロとずしりと重い(筆者撮影)

HomePodは、手元のiPhoneやiPadから音楽をコントロールすることができ、各部屋で別々の音楽を鳴らしたり、家全体で同じ音楽を再生することもできる。

ただ、複数台のHomePodを手に入れる予定があるなら、ぜひ1つの部屋に設置すべきだ。HomePodは2台1組の「ステレオペア」を設定することができ、その部屋の音楽環境を大きく進化させるからだ。

HomePodを同じ部屋で2台目のセットアップを行うと、すでに設置されているスピーカーとペアリングをするかどうか尋ねられる。ここでペアリングするよう設定すると、右・左と設置場所を設定して、左右1組のステレオペアが完成する。

そのうえで音楽を再生し始めると、再びマイクを用いて部屋の反響に加え、双方のスピーカーが鳴らしている音を分析し、その部屋に最適なステレオ再生環境を設定してくれる。この作業はHomePod2台が自動的に行ってくれるため、ユーザーが手を施すことはなにもない。

ステレオペアに設定されたHomePodが流す音楽は、それまでとはまったく別世界となる。

それまでは部屋で音楽を満たす、という目的が強く感じられていたが、ステレオペアのHomePodはより音楽を真剣に楽しむモードにスイッチしたような印象を受ける。

単にスピーカーが増えたことで音が大きくなったり音位が明確に分かれただけでなく、ボーカルや主たる楽器の音がより際立ちながら、音の広がりがより拡大していくような印象を受ける。同じ製品を2つ使って、異なる目的を満たしてくれる点は、意外だった。

A8プロセッサーで音をデザインする

アップルによると、HomePodにはiPhone 6で用いられていた64ビットプロセッサー「A8」が搭載されており、iOSが動作しているという。

しかしながらiPhoneのように直接画面をタッチして操作することはできず、本体でできる操作はボリュームコントロールと、画面上部のインジケーターに触れてSiriを起動したり、音楽を止めたりするだけだ。

A8はiPhoneのように、Siriをはじめとする音声アシスタントや個人の情報に基づいた応答を行ったり、Apple Musicから音楽をストリーミングするだけではない。

例えばモーションセンサーは、スピーカーが設置されたり場所が移動したことを検知して部屋に合わせたキャリブレーションを行うトリガーとして用いられている。

加えて、音楽を解析して、ボーカルなど主たる音声と背景にある音声を分離し、7つのツイーターに対して直達波と反射波で振り分ける仕事もしている。HomePodのハードウェアを環境に最適化して最大限に生かす処理を、A8が担っているのだ。

ステレオペアにした場合でも、必ずしも右チャンネルが右のHomePodのみから流れるのではないという。右チャンネルに収録されている背景の音を、左のHomePodの反射波に振り分けて再生することで、より自然で正しいステレオ再生を実現しようとするそうだ。

デジタル時代に再設計されたユニークなスピーカー

HomePodはインテリア性を高めながら、これまでとは異なるアプローチで部屋のオーディオ環境を再設計する製品と言える。

大きな音で再生すると、1つのHomePodでも、直達波・反射波を使い分けてステレオ再生を行う特性を体験できたが、さすがに常時その音量では、日本の集合住宅での利用は現実的ではないと感じた。それほどパワフルな存在と言える。

その分、ステレオペアリングで2台を用いた音楽再生を行うと、より小さい音でもHomePodが奏でる音像を感じることができる。ただしそのためには3万2800円×2台分の金額を支払う必要がある。

スマートフォンで音楽を聞く若いユーザーにとって、Apple Musicに完全に対応する点はメリットと言えるが、その金額を出すならより高性能のワイヤレスヘッドフォンを選んでもおつりがくる。

一方、それまでハイエンドのオーディオをそろえてきた人にとっては、自分のこだわりを一切排除することをよしとするなら安く感じるかもしれない。iTunesだけでなくApple Musicでも24ビットデジタルマスターの音源「Apple Digital Masters」での配信が始まり、これを7万円のシステムで楽しめる点は、より手軽な日常の音楽の楽しみとして満足できるのではないだろうか。

なにより、Wi-Fiさえ通じていればどこにでも設置できる自由さは、インテリアの配置の面でも有利に働く。これは住宅の中だけでなく、店舗などの空間でも同様といえる。

HomePodは、デジタル時代に再設計されたユニークなスピーカーとして、今後評価が高まっていくのではないか、と予想できる。その一方で、日本の小さな部屋には若干持てあますことになるし、屋外に持ち出したり、鼻歌が心地よいお風呂などの空間に持ち込むことも難しい。

スマートスピーカー、Bluetoothスピーカーはすでにたくさんの製品が登場しているが、音声アシスタントをサポートして、Wi-Fi対応で自律的に音楽を再生でき、より小型・軽量・防水といった機能性を持つ製品はまだ空白域と言え、後発のHomePodもその領域を埋めていないといえる。