加藤浩次

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 世の中を騒がせた事件やスキャンダル、はたまたちょっと気になることまで、各分野のエキスパート“セキララアナリスト”たちが分析(アナリティクス)! ニュースの裏側にある『心理』と『真理』を、解き明かしてご覧にいれます。

【写真】加藤浩次を慕う矢作兼と山里亮太

感情的に見える狂犬の行動
しかし終始一貫して、“まじめでまっすぐ”?

 宮迫博之と田村亮の記者会見に端を発した吉本興業のお家騒動。7月22日に放送された『スッキリ』(日本テレビ系)でMCの加藤浩次が「経営陣が変わらなければやめる」と啖呵(たんか)を切った直後、ネット上では称賛の声があがった。しかし“加藤の乱”ともいわれている一連の騒動は、本人が矛を収める形で収束に向かいつつある。どうしてこんな行動に出たのだろうか、加藤のパーソナリティーに迫る。

「一部、『感情的な行動が男気』など懐疑的なコメントもありましたが、むしろそのネガティブな言葉こそが、今回、加藤さんの“男を上げた”キーワードです。吉本芸人は会社に雇われているわけではない“弱者”であり、自らの進退をかけて噛みついた加藤さんは、保身で嘘をついた宮迫さんらとは真逆の言動で対照的。また世の風潮として、無駄に波風を立てる人は迷惑ですが、白い目で見られるリスクも背負った。暗黙の圧力に“感情的”に噛みつき、不満をぶちまけた加藤さんの姿に、視聴者はつい感情移入をしてしまったのではないでしょうか」

 こう語るのはメディア研究家の衣輪晋一さん。“狂犬”とも評される加藤さんだが、実は極めてまじめな人物であると語る。

「曲がったことが許せない性格で、正しいことのためには迷惑を顧みず、上だろうが何だろうが噛みつく。こうした人は一般社会では迷惑な人と思われがちですが、実は世の人にはヒロイックで好まれる傾向があります。今回の騒動をマンガのようなエンタメととらえる人が多く、また、メディアもエンタメとして派手に報道しました」

 “加藤の乱”と騒ぎ立てられたのもその一環だろう。しかし加藤さんはトーンダウンし、痛快な展開とはいえなくなりつつある。とはいえ衣輪さんによると、その行動原理は終始一貫しているという。

「加藤さんは自身が吉本のお家騒動というエンタメに巻き込まれたことに気づいたのではないでしょうか。熱く感情的な方ですが頭のいい人でもあるので、本質の『反社会組織とのつながり』から視聴者の目が逸らされないよう矛を収めたと考えられます。また、自分の言葉を引っ込める矛盾というリスクを冒してまで、自身の正しいと思った道を貫く、逆説的な加藤さんの狂犬ぶりを表しています」

不発に終わったかに見える加藤の乱。
世間と芸能界に、どんな影響を与えたのか?

 こういった姿勢から、芸能界では加藤さんを慕う声は多い。今回の騒動で援護射撃が多数見られた点からもあきらかで、その点は加藤さんの美点でもあるとか。

「『おじゃMAP!!』(フジテレビ系)でも香取慎吾さんとお互い信頼し合う関係であることが明かされたほか、7月25日のラジオ番組『おぎやはぎのメガネびいき』(TBSラジオ)では、矢作兼さんが“いま疲れているだろうな。徒党を組むのが好きじゃないから”“一匹狂犬だから。吉本は向いてない!って言ってるの”と加藤さんを気遣っていました。

 また南海キャンディーズの山里亮太さんが24日深夜放送の『山里亮太の不毛な議論』(TBSラジオ)で、“加藤さんの言葉ですよ。本当に覚悟を決めた人間の言葉。あれすごいね。もう、ビンビン届いちゃってさ。これはすごいなって。俺は何もできないから、すげーな、加藤さんって。この声はちゃんと(会社に)届くかなって思った”と、加藤さんへの思いを口にしました」

 さらに、自身の進退に言及した24日放送の『スッキリ』の平均視聴率は10・8%を記録。狂犬ぶりを発揮しても、しっかり数字という結果につなげる姿は『めちゃイケ』時代から変わっておらず、プロらしい姿勢からもすごさが感じられるという。とはいえ、これら加藤さんの言動は、“騒がれた”こと以外に何か影響を与えたのだろうか。

「現状ではメディアや芸能界に強いインパクトを与えたとはいえず、消費される一過性の話題になってしまったように見えます。メディアや芸能界の文化はそれほどヤワではなく、人々の興味も残酷なまでに儚(はかな)いもの。しかし総合的に見れば、メディアや芸能界が変わる一助にはなったかもしれません。

 加藤さんの言動がよくも悪くも注目されたため、ユーザー側から『そもそもこの件は反社会組織とのつながりが問題』『テーマが反社会から芸能界の圧力問題にすりかわっている』などの批判が相次いだことで、メディアと人々との間で“乖離(かいり)”があることが浮き彫りになりました。今後は冷静な報道が増えるのではないでしょうか」

 また芸能界にも与えた影響は大きそうで、芸能事務所が最も強いという日本独自の特殊な体制が変化するひとつの布石となった可能性があるともいう。

「加藤さんのトーンダウンにより鎮火したようにも見えますが、現状に不満を持つ(立場の弱い)芸能人の心に、『これではいけない』という“種火”を根づかせられたはず。くすぶる炎がいつか大きな炎となって燃え上がる未来はないとはいえないでしょう」

 一見すると腰くだけにも見える加藤さんの言動だが、筋も通っているし与えた影響は小さくない。一挙手一投足が注目を集める“狂犬”の動向を見守りたい。

<今回のセキララアナリスト>
衣輪晋一さん
メディア研究家・コラムニスト・コピーライター。サブカルライターを経てインドネシアでボランティア。帰国後は文芸批評と民俗学の「フィールドワーク」をメディア研究に取り入れエンタメ記事を作成。『TVガイド』などの雑誌、新聞、Web、ドラマ公式HPなどで執筆。Twitter(https://twitter.com/shinichikinuwa)

<文/雛菊あんじ>