フランスの女性は職場での服装の気品への意識がすごく高いそう。職場での服装のフランスと日本での違いとは?(写真:RossHelen/iStock)

フランス人は10着しか服を持たない』などのヒットで、日本では「フランス人=少ないワードローブでおしゃれができる人たち」のイメージがつきつつあります。しかし、例えばフランスの大企業に勤める幹部クラスの女性に目を転じると、実情はかなり違うよう。

今回は、フランスに住む日本人女性のくみと、日本に住んだ経験を持つフランス人男性のエマニュエルが、日本とフランスの「仕事着」について語り合いました。

天井までうずたかく積まれたブランド品の山

エマニュエル:今回は、軽い話題ということで職場での服装のフランスと日本での違いについて話してみようか。それじゃあまず、今から話す場面がどこで行われているか、当ててもらいたいんだけど、いいかな?

4人の30代から60代の女性がいて、何人かは座っていて、何人かは立っている。彼女たちはにぎやかに話し合いをしている最中だ。1人目の女性は白く光沢のある靴に赤いヒールというブランド物の靴を履き、エレガントな青いロングワンピースを着ている。2人目はヒールはないが流行の質のいい靴を履いて、白いシャツにスキニージーンズをはいている。3人目は高級なオーダーメイドの服にピンヒールのパンプス。4人目は、胸のポケットにいかりのモチーフが刺繍してあるブルーマリンのジャケットにショートパンツ、靴は高級ブランドのスニーカーを履いている。

この4人の女性はどこにいると思う? ファッションショーの会場か、社交界のサロン? あるいは、サンジェルマン・デ・プレにあるカフェ?

くみ:そうね、みんなそれぞれおしゃれに気を使って、お金もかけているようだから、安定した、お給料のいい職業に就いている女性という印象ね。

エマニュエル:そのとおり、正解は、フランスの大企業の会議室。何が言いたいかというと、フランスの女性は職場での服装の気品への意識がすごく高いってことなんだ。とくに30代から60代の大企業で高いポストに就いている女性にその傾向が強い。

僕が子どもの頃の話なんだけど、両親の寝室にたくさんの箱が積み重なっていて、天井に届きそうなピラミッド状のものが部屋の3分の2ぐらいを占めていた。それがいったい何なのか小さい頃は気に留めていなかったんだけれど、10歳ぐらいになったときにそれが母親の大量のブランド物の靴やカバンの箱だったと気がついたんだ。


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休日に家族で過ごすときには、母はそんなブランド物なんてほぼ身に着けないのだけれど、職場のためだけにあれほど大量に購入していたのには驚いたよ。職場でエレガントな格好をしたり、そのための出費を惜しまない、というのは30代から60代の社会的地位の高いフランス女性特有のものなんじゃないかな。

エマニュエル:日本でその傾向がそれほど見られないのは、まずそもそも高いポストに就いている女性の割合がフランスより低いこともあるし、職場での服装についてはそれほど自由がなく、どちらかというと華美じゃないほうが好まれたり、職場全体の統一感を重視しているためじゃないかな。

あと、フランス女性が職場で洗練された服を着る理由として、一般職員には買えないような高級な洋服やカバンや靴を身に着けることで、それだけ上のポストは給料が高いことを示して、職場での上下関係を強調する目的もあるだろう。

メイクにはそこまで関心がない?

くみ:そうね、1950〜1960年代生まれで、組織で幹部レベル以上まで昇進して活躍している女性は日本では相当少ないはず。それに、それぞれが一匹狼というか、職種から活躍の経緯から意識まで異なる部分が多かったと思うので、活躍していた女性たち全員が自分で買えるだけの高級ブランドに身を固めて仕事に行っていたと想像するのは難しいね。

一方、今は職種にもよるけど例えばモード業界やラグジュアリー関係、あと女性起業家やアーティストなど個人で活動している女性は、多少奇抜、派手であっても自分の好きなスタイルを追求している人は多いかも。でもそれ以外のいわゆる一般的な働く女性の格好は、男性よりは自由とはいえ、無難なスタイルであることが一番大切で、さりげないおしゃれや個人差は認められても、あまり目立ちすぎないように心がけている気がする。

エマニュエル:でもこうやって30代から60代の大企業の管理職といった経済力の高い女性たちがそろって職場のために洗練された服装を買い求めることで、フランス国内に大きな経済市場が生まれて、洋服やカバン、靴などのファッションを扱う高級ブランドが拡大されるようになり、それが世界中へと輸出されることになる。マクロ経済的には大きな結果をもたらしたといえるだろうね。

一方、職場でのメイクに関してはフランスよりも日本のほうが強調されているよね。だからフランスでの洋服と同じように、化粧品の日本企業が多く形成され、その技術が海外にわたり日本の化粧品が世界各国に輸出され広まる。僕の母親がいつも使っていた化粧品はシュウウエムラだったしね。

くみ:なるほど! サン・ジェルマン大通り沿いにも路面店があるよね。日本だと、靴のことが今話題にもなってるけれど、オフィスワークなら基本的なメイクはしたほうがいい、などと会社側が言うところもあるって聞くわ。フランスでは野暮ったく見られることもある、肌色のストッキングも日本では必需品だったりね!

エマニュエルフランス以外の国では、イタリアも職場での女性の服装にエレガンスを求めるけれど、イタリアもまた高級ブランドの洋服の輸出国だよね。イギリスはとくに男性の職場での服装に気品を求めるため、男性向けの高級ブランドが多い。

くみ:そうだね。でも管理職ではない、一般的な女性社員はこんなふうに高級ブランドの洋服を職場に毎日着ていくことはないんじゃない?

エマニュエル:ファッションにそんなにお金をかけられるほどの経済的余裕がないから、高級ブランドなんてバーゲンの時期とか、シーズンオフで値段が下がったときぐらいじゃないとなかなか買えないだろうね。

一般職員の女性は、エレガントな装いを追求するというよりも、自分の好きな洋服を着るというスタンスかな。だからまったく統一感がなくてバラバラな感じ。フェミニンな格好をしている人もいるし、カジュアルな人もいる。もちろん、大企業かどうか、公務員か民間企業かによってある程度服装の傾向も変わるけどね。よく見かける例としては、シャツに細身のパンツやジーンズにフラットシューズみたいな恰好。堅苦しくなく、快適であり、そこそこまじめな感じ。

パリではスーツの男性をあまり見かけない

くみ:そういう格好は本当によく見かけるね。ただ日本だとジーンズやフラットシューズという時点で、相当カジュアルな職場か、あるいは働いていないのかな?と思わせるような規範みたいなのはやっぱりフランスと違うね。

エマニュエル:じゃあ、くみは日本とフランスの男性の職場での服装の違いについて何か感じたことはあった?

くみ:私がパリで暮らし始めて驚いたことの1つが、まさにそれで、東京では見かけない日がないほどスーツにネクタイ姿の男性はよく見かけるのに、パリではとても少ないということ。東京ではオフィス街に行かなくても、繁華街、電車、駅前、どこでも普通に見かけるんだけど、パリではオフィス街でもスーツにネクタイまで締めている人はそこまで見かけないから、「え、仕事してる人がそんなに少ないの?」って違和感があったくらいだった。

だけど、普通に会社勤めしている男性も、下はジーンズやチノパンにスニーカー、上は色付きや柄シャツにカラーセーター、リュックとか手ぶらとかで、ジャケットも着てない人がいくらでもいるということがだんだんわかってきた。まるで休日のカジュアルな街着みたいな印象だから、私はそういう格好の男性がまさか普段の会社勤めだとは思っていなかった、というわけ。

エマニュエル:確かにフランスだと、省庁だとかそういった一部の企業を除いては、全員がスーツを着る習慣はなくなった。ただ、直接顧客と面と向かって仕事をする、例えばコンサルタントとか弁護士なんかはスーツの割合が高い。最近は多くの企業で「カジュアルフライデー」といって金曜日はカジュアルな服装で仕事をしようという取り組みがされている。僕の職場でも実施されているんだけど、朝に着ていく洋服を選ぶのが面倒くさくて結局スーツを着てしまうんだ。でも、こういう理由でスーツを職場に着ていく男性も結構いると思う。

男性のほうは女性のように、大企業の管理職だからといって特別服装に気品を求めるなんてことはないから、管理職と一般職との違いがそれほど顕著じゃないかもね。

スーツが日常的な日本では、そのためのビジネスも進化

くみ:一方、日本はスーツで通勤する人が大半だから、そのためのビジネスも進化していると改めて感じる。ワイシャツのクリーニングがとにかく早くて安いのもその一つ。安いところは即日仕上げで1枚300円未満というところも珍しくないみたい。フランスはドライクリーニングを発案した国らしいけど、クリーニング代がとにかく高くて時間もかかるから、ワイシャツは基本クリーニングに出す日本とはだいぶ違うよね

エマニュエル:そうだね、こういったサービスは一般的にどれもフランスのほうが高いだろうね。ワイシャツだと1枚4ユーロはするし、仕上がりも翌日以降だったり。家事代行の人を呼んでワイシャツの洗濯・アイロンがけを頼んでいる人もいるけど、自分の家でやっている人がほとんどじゃないかな。

くみ:あとは、日本は量販で比較的安いスーツ専門店があちこちにあるのも驚き。同じ型のジャケットもズボンも、女性はさらにスカートも、ほぼ全サイズそろっていて自分のサイズに合わせて組み合わせて2万円ほどで買える。もちろん、日本にいながらにして、ヨーロッパやイギリスのブランドで、オーダーメイドで作る人もいるけれどね。

エマニュエルフランスでは、オーダーメイドは本当に高収入の人しかしないかな。既製品の安いスーツもあるけど、一般的でちゃんとした品質のスーツを買うなら400〜800ユーロくらいで、買ったら自分で仕立て屋にもっていってプラス50ユーロぐらいで調整してもらう。

くみフランスは乾燥してるから、夏でも猛暑のときでなければジャケット着ていてもちょうどいいくらいよね。日本はこれから湿度も上がって、クールビズであっても大変だよね。

エマニュエル:僕も日本で研修していたときは、真夏にスーツとネクタイで外を歩き回るのがすごくつらかったのを覚えてる。当時の写真を見返しても、髪の毛がびしょぬれの写真ばかりだし。

フランスで猛暑日にスーツなんて着ていたら、逆に印象が悪かったり、どんだけ気取ったやつなんだってバカにされるだろうね。日本も夏の間くらいは気候に合ったもうすこし涼しい格好で仕事できるようになればいいんだけどね。