脳が半分以下なのに公務員として働き2児の父親として普通に生活していたフランスの男性
by Ksenusya
最近の研究により、胃腸は脳と並び思考や感情をつかさどっている「第2の脳」だといわれるようになったり、「脳は肉体を支配しているのではなく調整している」のだという考えが唱えられたりと、これまで考えられていたほどには脳が重要ではない可能性がたびたび指摘されるようになりました。さらには、脳が半分もないにもかかわらず公務員として勤務していたフランスの男性や、数学で優秀な成績を収める大学生を調べたら実は脳がほとんどないことが判明したといった事例も報告されています。
https://www.reuters.com/article/us-brain-tiny/tiny-brain-no-obstacle-to-french-civil-servant-idUSN1930510020070720
Brain of a white-collar worker - The Lancet
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(07)61127-1/fulltext
2007年、フランスで公務員として働いていた当時44歳の男性が足に軽いしびれを感じたため病院にかかりました。そこで医師がこの男性の脳をCTスキャンとMRIで調べたところ、なんと脳の大半が液体で、正常な脳組織は通常の半分以下になっていたことが判明したとのこと。
以下の画像が実際の検査結果で、左上がCTスキャン、右上と右下が脳全体のMRI、右下が側脳室と第三および第四脳室のMRIの画像です。黒く映った液体の部分が脳のかなりの部分を占めていることが見てとれます。
健康な人でも頭蓋骨の内部がすべて脳細胞で満たされているというわけではなく、脳の中には脳室と呼ばれ、脳脊髄液という透明な液体で満たされた部分があります。検査の結果、男性はこの脳室が極端に肥大化しており、脳の組織を強く圧迫していました。
実は、この男性は生後6カ月のころに水頭症の診断を受けており、シャントと呼ばれる管状の器具を脳に挿入して脳脊髄液を排出し、脳が圧迫されないようにするシャント手術を受けていました。このシャントは14歳のころに摘出されましたが、その後も脳は圧迫され続け、44歳になるころには、正常な脳の組織は頭蓋骨の内側に薄く張り付いた部分しか残っていない状態になっていました。
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しかし、男性は足に軽いしびれがあること以外は正常そのもので、公務員として普通に働き、2児の父親として普通の結婚生活を送っていました。IQテストの結果は75と、平均スコアの100よりもやや低めの結果となりましたが、特に障害などの認定は受けていなかったとのこと。その後男性の足のしびれは、再度受けたシャント手術により解消し、無事に退院する運びとなりました。
こうした例はほかにもあります。イギリスでは、小児科医のジョン・ローバー氏により脳が数mmの厚さしかないにもかかわらずIQ126を記録し、数学で第一級優等学位の成績を収めていた大学生の事例が報告されています。この報告は1980年のもので、当時はCTスキャンの精度も高くなかったことから、「脳の厚みがわずか数mmしかなかった」かどうかについては疑問の余地があると指摘されていますが、脳が損傷を受けても高い知能を保っていた事例のひとつではあります。
アメリカ国立ヒトゲノム研究所で小児の脳欠損について研究しているマックス・ミュンケ氏はロイター通信の取材に対し、「脳の損傷が数十年単位でゆっくりと進行した場合、脳は失われた部分のはたらきを別の部分で代替することができることがわかっています」と述べています。