福田正博 フットボール原論

 3月22日(金)のコロンビア戦、同26日(火)のボリビア戦に向けた日本代表メンバーが発表された。アジアカップの23人から13人を入れ替え、W杯ロシア大会メンバーから若手まで幅広く招集され、各選手は森保一監督の指揮下でどんなプレーを見せてくれるのか。元日本代表FWの福田正博氏が招集メンバーから監督の狙いを読み解く。

 今回の顔ぶれは、日本代表が6月にコパ・アメリカへ出場するため、そこに向けたメンバー招集と捉える向きもあるが、森保監督としては、手もとに置いて見ておきたい選手を呼んだに過ぎないのだろう。アジアカップが終わって、現在は日本代表チームの候補選手の集団をより大きくしていく作業を進める時期と言える。


6月のコパ・アメリカへ向けてチーム強化を進める森保監督

 今回の選考で森保監督らしいと感じたのが、FWの鈴木武蔵(北海道コンサドーレ札幌)、左右のSBとMFでプレーできる安西幸輝(鹿島アントラーズ)、CBの畠中槙之輔(横浜F・マリノス)の招集だ。

 彼らの招集は、Jリーグで活躍すれば日本代表に入るチャンスがあることを示しているが、過去を振り返ると外国人監督が率いた頃はこうしたケースは多くはなかった。

 外国人監督はチーム強化の観点からメンバーを選考し、所属クラブで出番に恵まれていなくても海外組を優先的に招集していく監督が多かった。それは海外組がJリーグ時代に国内トップだった選手がほとんどで、Jリーグ組よりも能力が高いという理由だった。

 しかし、森保監督は日本サッカーの全体像を捉え、日本サッカー界がレベルアップしていくために、Jリーグの底上げは必要不可欠と考えている。だからこそ、国内組にも門戸を開き、Jリーグで活躍した選手を招集する。こうした活性化ができるのも、森保監督ならではと言える。

 武蔵、安西、畠中に加え、ベルギーリーグで得点能力を開花させた鎌田大地(シント・トロイデン)の4選手は初代表になるが、私は以前から森保監督には安西を試してもらいたいと思っていたので、彼がどんなプレーを見せるのかとくに注目している。

 安西は、サイドバックでもサイドハーフでも左右両方でプレーできるユーティリティーと推進力がある。インテンシティの高さも備え、国際舞台でもしっかりプレーできるだけの力がある。サイドバックは人材難なだけに、安西が結果を残せれば、森保監督にとってはプラス材料になるはずだ。

 今回の招集メンバーでFW登録は武蔵と鎌田の2選手。彼らには、「大迫勇也の代わり」を求める声もあるが、プレースタイルが大迫とはまったく異なるだけに、同じ役割は求められないだろう。

 森保監督の基本布陣は4−2−3−1と思われているが、アジアカップでは、実際は大迫と南野拓実(ザルツブルグ)がツートップになる4−4−2に近かった。武蔵はスペースに飛び出すことでよさを発揮できる選手で、鎌田にしても南野にタイプが近い。彼らが2トップで起用されたときに、どうやって特徴を発揮しながら、ゴールにつなげるのかをチェックしたい。

 そして、最大の注目は香川真司だ。トルコリーグのベジクタシュ移籍後のパフォーマンスは、復調を印象づけている。30歳になった香川が、その経験と技術を発揮できれば、日本代表の攻撃陣の中心に返り咲くチャンスはあると考えている。これまで南野がやってきた1.5列目的な位置で出場した場合、香川が右の堂安律(フローニンゲン)、左の中島翔哉(アル・ドゥハイル)らと、どんなコンビネーションを見せ、攻撃を織りなしていくのか楽しみだ。

 このほか、宇佐美貴史(フォルトゥナ・デュッセルドルフ)や小林祐希(ヘーレンフェーン)など、若手からベテランまで幅広く招集された。これは3年後のW杯に向けて、多くの選手に森保監督のサッカーがどういうスタイルかを伝えたいという狙いに加え、ピッチ内外での選手個々の振る舞いなども見たいということだろう。

 合宿でスタイルを確認しながらチームに浸透させることが大切である一方、選手個々のパーソナリティーを把握することも重要になる。代表チームというものは、上から順番にうまい選手にポジションが与えられるわけではない。スタメンでもベンチでも、常にチームのために働ける選手なのか、サブ組になったとき、不協和音の原因にならないかなど、さまざまな観点から選手の特徴を掴んでおくことも監督の仕事になる。

 新たな選手を多く招集した今回の親善試合では、「全員使いたい。ひとつのポジションに2人いる。1、2戦目でメンバーを入れ替えたい」と森保監督は発信しているが、実際に試合が始まってみれば予定どおりにいかないこともある。

 もちろん、試合を経験させることが大切であるものの、それがすべてではない。若くて才能のある選手たちを順調にステップアップさせていくためには、試合に使わなくても、日本代表チームの空気に触れさせることで、その後の成長を促すことになる。

 私が現役の頃、浦和レッズに長谷部誠(フランクフルト)が高卒ルーキーとして入団してきた。新人だった長谷部は、試合に出るどころか、ベンチメンバーにも入れなかったが、当時監督のハンス・オフトは、毎回遠征に長谷部を連れて行った。長谷部は「遠征に行きたくない」と拒否したが、オフトはそれでも毎回帯同させた。

 オフトの狙いは、長谷部に「主力選手が試合前日や試合当日にどういう行動をし、どう準備するのかを学ばせる」ことだった。長谷部に期待しているからこそ、また、将来必ずクラブの中心になると確信していたからこそ、試合には出さなくてもトップチームの雰囲気を体験させる手法を取ったのだ。その後、長谷部がどう成長していったかはご存知のとおりだ。

 日本代表でも同じことが言える。メディアからもサポーターからも注目される日本代表は、注目されることに慣れていない初招集の若手にとっては、疲れにつながるケースもある。そうした若手が、欧州組やベテランの振る舞いを見ることで成長し、Jリーグに戻った時の意識の変化にもつながる。代表監督は選手を直接的に育成することはできないものの、代表に招集することで、選手に気づきのきっかけやモチベーションを与えることができる。そうしたマネジメントもあるということだ。

 今回の対戦相手であるコロンビアもボリビアも、アジアカップでの対戦相手よりも高いインテンシティがあり、したたかさも持ち、個の能力も高い。簡単に勝つことはできないだろう。

 さらに、コロンビアはW杯ロシア大会に続いて日本代表に2連敗はしたくないというモチベーションの高さもあるはず。W杯ロシア大会で香川が「10回戦って1回勝てるかどうか」と言っていた強豪と対戦できる機会は、そうそうあるものではない。

 そうした相手に対して、森保監督がどういう選手の組み合わせを試すのかは楽しみな点だ。チームとしての規律やコンセプトを守りながら、ひとりでもふたりでも、自分のよさを発揮してくれる選手が現れてくれることを期待している。