「ウルトラマン愛」を仕事に惜しみなく注ぐ藤田浩さん。手に持つのは円谷プロとして初めて自社企画・制作するフィギュアの第一弾「ケムール人」(写真:風間仁一郎)(C)円谷プロ

「御社のオタクを紹介してください」と企業を訪ねていると、仕事を心から楽しんでいる人が意外といることに驚く。この連載では、オタク社員ならではの深い知識を教えてもらうとともに、“好き”を仕事にする秘訣に迫っていく。
今回インタビューしたのは、ウルトラマンで知られる円谷プロダクションに勤める藤田浩さん。自社キャラクターを用いた商品化・広告企画・イベントを担当するが、フィギュアコレクターでもあり、30歳ごろから20年間で集めたフィギュアはなんと、2トントラック用のコンテナ3台分。そして、彼が仕掛けるウルトラマン関連の仕事は大いに成功している。ウルトラマン好きが高じて数回転職をし、理想の仕事に近づいていった、藤田さんのキャリアとは――。

大好きだったウルトラマンをビジネスで仕掛け大成功

――集めたコレクションは2トントラック用コンテナ3台分と、すごい量だそうですね。


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15年くらい前に自宅に入りきらなくなって、今は知人の土地にコンテナを置かせてもらっています。日本の特撮をメインに集めていますが、ほかのフィギュアもあるので、こんな量になってしまいました。

今朝、歯磨きながら計算したら、20年間で少なくとも1200万円は使ってきたことに気がついて、愕然としました。これは家族には言えないなと。

――フィギュアを集め始めたキッカケはなんだったのでしょう?

子どもの頃は特撮をよく見ていましたが、普通に卒業し、車やファッションに興味が移りました。1990年代半ば、30歳ごろのことです。渋谷・代官山・原宿のセレクトショップに行くとスター・ウォーズやスパイダーマンといった海外のフィギュアが置いてありました。かっこいいなと買い始めたのが最初です。

――海外フィギュアから、どうしてウルトラマンに傾倒していったのですか?

1990年代当時、僕は外資系CDストアで働いていました。2000年前後からCDが売れなくなり、代わりに当時ニューメディアであったDVDを積極的に売るようになったんです。最初はスター・ウォーズなどのハリウッド映画を一生懸命売り出し、その次に売り始めたのがウルトラマンなど、日本の特撮作品でした。

そこで、僕がハリウッドのSF映画を好きになったのは、ウルトラマンが原点だと自覚したんです。なので僕たち1960年代生まれのルーツであるウルトラQやウルトラマンを、もう一度みんなで見よう、といったプロモーションを始めたんですね。


藤田さんの膨大なコレクションの中でも、とくにお気に入りのフィギュアたち(写真:風間仁一郎)(C)円谷プロ

――プロモーション、というとどのような……。

チェーンストアの販促担当として、円谷プロの方に会いに行って「僕らはウルトラマンや、ウルトラQ、ウルトラセブンを見て育った世代です。だから、その当時主役を務めていた俳優を呼んで、イベントを仕掛けたいです」という話をしたんです。

当時の円谷プロは、ウルトラマンガイアというウルトラマン最新作をやっていたので、古いウルトラマン作品を推すことに乗り気ではありませんでした。そこを「僕が会いたい、だから、お客さんも絶対会いたいはずだ」と熱量で説得しました。

――そこまで熱心に言われたら、じゃあやってみようかと心が動くでしょうね。イベントは成功しましたか?

当時、アーティストが来店するイベントをよくやっていました。マライア・キャリーや小室ファミリーといった人たちです。そこにウルトラセブンのモロボシ・ダンが来るわけです。これが見事に当たりました。その店で特撮のDVDを買う人がすごく増えたんです。

そうした経験から、円谷プロのようなコンテンツホルダーで働こうと決めました。でも、その前におもちゃメーカーに転職したんです。流通、メーカーと全体をわかる人間になりたいなと。ウルトラマンだけにこだわったつもりはないのですが、おもちゃメーカーでもウルトラの商品を作ってました。ウルトラ愛が強くて。

デザインはスター・ウォーズに負けない

――2012年に円谷プロへ入社されたそうですが、お仕事内容は。


コンバースとコラボして制作したスニーカーは売れたという(写真:風間仁一郎)(C)円谷プロ

ウルトラマンを使ったグッズの商品化と営業です。営業というのはウルトラマンをCMなど、広告のキャラクターとして使ってもらうなどです。グッズというと、コンバースとコラボレーションしたスニーカーや、グラニフとコラボレーションしたTシャツなどです。

ここでひとつ言わせてください。この連載は“マニア”がテーマだと思うんですが、僕はマニアではありません。コレクターです。僕の考えですが、マニアは世界観や作品の物語性にこだわる一方、コレクターはモノにこだわります。大事なのは、見た目のかっこよさや美しさ、キャラクターデザインのよさなんです。

――もしストーリーが好みでなくても、キャラクターがかっこよければ買ってしまうんですね。ウルトラマンを久しぶりに見ましたが、確かに立ち姿がかっこいいなあと。

現在、スター・ウォーズやバットマン、マーベルシリーズなど、さまざまなキャラクターが商品化されています。でも、デザインでいったらウルトラマンとかウルトラ怪獣は、絶対それら負けていないと思うんです。


家具大手・カリモクとコラボして制作したゼットンチェアも「かっこいい」仕上がり(写真:風間仁一郎)(C)円谷プロ

――言われてみれば……カネゴンなどのウルトラ怪獣のデザインは、スター・ウォーズのヨーダやジャバ・ザ・ハットなどに負けない魅力があるかもしれないですね。

海外からきたスター・ウォーズやバットマンはかっこいいけど、日本のウルトラマンはダサいというイメージを、消費者もメーカーもなんとなく持っていたと思います。

だから「ウルトラマンはかっこいいです」「御社でウルトラマンを出したら絶対に売れます」「僕も欲しいです」とメーカーに直談判するんです。そうすると、メーカーが僕の熱量に負けて商品化します。当初渋々だったとしても、本当に売れるので、やってよかったと言ってもらえるんです。

原型師の力でフィギュアは魅力的になる


懐かしいソフビ人形の数々。カネゴンが緑だったりデフォルメされたものも多かった(写真:風間仁一郎)(C)円谷プロ

――藤田さんがいちばん好きなウルトラマンのフィギュアは何ですか?

まずフィギュアについて説明しますと、ウルトラQやウルトラマンが放送された1966年当時に売られていたおもちゃはデフォルメされていて、テレビに出ている姿とは違ったものでした。1980年代後半にリアルなタイプが出てきます。そして、僕が最も気に入ってるウルトラマンのフィギュアは、原型師の解釈が入っているんですね。

――原型師の解釈?

フィギュアは粘土原型など、基本的に手作りです。今は、撮影で使ったスーツを3Dキャンして、そのデータから作ることも可能ですが、それではいいものは作れません。3Dスキャンしたものでも、僕らの脳内イメージにあるキャラクターの姿に手直しするほうがよいものになります。

僕は海洋堂というフィギュアメーカーの木下隆志さんという原型師が作るウルトラマンが自分の脳内イメージのウルトラマンに近くて最高に好きです。このウルトラマンはいろいろな意味で自分の原点なので会社の机に置いています。疲れたときに見て、ヨシと元気を出すみたいな。はたから見たらダサいだろうけど。

――藤田さんが手掛けるフィギュアが円谷プロから発売されることになったそうですね。

そうです。円谷プロが発売元のフィギュアが出ます。今までは、僕が知る限りですが、円谷プロは監修で、発売元はメーカーというものばかりだったので、画期的な取り組みです。

今、ウルトラQ、ウルトラマン、ウルトラセブンといった初期の作品を、若い世代につないでいく「ULTRAMAN ARCHIVES(ウルトラマンアーカイブス)」というプロジェクトを会社として始めています。その中で「フィギュアを出していいぞ」って言われまして。ウルトラQの第19話が『2020年の挑戦』という、まさに来年に向けたようなタイトルなんですが、そこに出てくるケムール人という怪人を第1弾として発売します(2019年1月17日予約受付終了)。

――ケムール人ですか。医学の発達で500歳まで生きられるようになったが、身体の衰えは避けられなかった宇宙人ですね。しかし、企画の第1弾からウルトラマンではなく、怪人とは……。

ウルトラマンがすごいのは、怪獣など敵のキャラクターも視聴者の記憶に残っていることです。初期のデザイン担当の成田さんと、造形担当の高山さんという黄金コンビが、時代を超えたすばらしいキャラクターを遺してくださいました。その高山さんが晩年にケムール人のミニチュアを作っていて、型が残っていた。その型を使うことができたので、高山さんの作家性がふんだんに出ているフィギュアが作れたんです。

結果がついてくるのは結局、自分が好きなこと


新旧のウルトラマン、どちらにも愛を注いでいる(写真:風間仁一郎)(C)円谷プロ

――藤田さんは50代ということですが、若いスタッフに対して感じることはありますか?

2018年に放送していた「SSSS.GRIDMAN」は、若手が中心にやっています。僕の感覚とは違う感覚ですごいことをやっていると思います。ウェブからどうニュースを流していったらいいかとか、ゲームとどうコラボしたらいいかとか、そうしたインターネットを使ったプロモーションに長けています。

――ゲームやウェブについていかなければ、なんて焦りを感じることはありますか?

流行に合わせて、僕が苦手なことを勉強しても、うまくいかないと思うんです。若い子がゲームが好きで日常的にゲームをやっているならそこで勝負すればいいし、僕は服だとかスニーカーとかグッズが好きなので、そこでやっていくかなって。僕の場合ですけど、結果がちゃんとついてくるのは、自分が好きなことでしかなかったですね。

ザ・モテオヤジ。そんな称号が似合うお方でした。ウルトラマンのTシャツに、ウルトラマンのコンバースという個性的なアイテムを、黒ジャケットでうまくまとめるオシャレなおじさまです。
「自分が欲しいモノにこだわれば、結果的に売れてきた」というお話でしたが、これは運だけではないと思うのです。コンテナ3台分にもなるほどの“モノ”を見てきたからこそ、得られた選球眼ではないかと思われます。
それにしてもすごい。使った金額はご家族にはバレていないと言っていましたが、そんなわけがない。だって、コンテナ3台分!そのフィギュアたちを奪ったら、仕事へのやる気も、生きる気力も失ってしまうと黙認されているのではないでしょうか。