バンタム級準決勝でIBF王者エマヌエル・ロドリゲスと対戦するWBA王者・井上尚弥【写真:Getty Images】

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井上の米国での評価はさらに上昇?現地記者を直撃

 ボクシングのワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)バンタム級準決勝でWBA王者・井上尚弥(大橋)はIBF王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)と対戦する。鮮烈な70秒KOで初戦を突破。優勝候補筆頭に名を恥じぬパフォーマンスを披露したモンスターの今後の可能性を、本場米記者はどう見ているのか。「THE ANSWER」では米紙「ロサンゼルス・タイムズ」でボクシングを取材するディラン・ヘルナンデス記者を直撃した。

 準決勝はロドリゲスとの無敗対決。開幕前は井上の対抗格とみられたプエルトリカンとの一戦は事実上の決勝と見る向きもあるが、ヘルナンデス記者はこう断言する。

「イノウエは今までの相手に対しては体格面でのアドバンテージがあった。次は相手の方が背が高いからね。そこがどうなるかだけど、ただパンチもスピードもイノウエが上。ロドリゲスはKOされると思うよ」

 17勝のうち15KOを数える井上の普段通りの強打爆発に太鼓判を押した。ただでさえ軽量級離れしたハードパンチを持つ井上だが、ロドリゲスのファイトスタイルとはかみ合うだろうと分析する。

「(ロドリゲスは)ジャブを使うけど、前に進むのが好きだね。イノウエにとってカウンターのチャンスは大いにある。ロドリゲスはあまり頭が動かないんだ。今までは動かす必要がなかったんだろうね。それに、ロドリゲスはジャブを出してから戻すのが遅い。さらに頭が動かないからイノウエにとって狙いやすい」

 ロドリゲスの1回戦は圧倒的優位と見られながらも、ジェイソン・モロニー(オーストラリア)に大苦戦。12回判定の末、スプリットデシジョンでの勝利だった。この結果を受けて、同記者は「イノウエの有利は間違いないだろうね」と力強く言い切った。

 ボクシング取材歴の長いヘルナンデス記者は、かねてから井上のポテンシャルを評価してきたが、バンタム級転向後のさらなるパワーアップを認めている。

井上の多彩な攻撃はまるで「フリー・ジャズ」

「パワーがあって、パンチのバラエティが多い。上下にきっちり打ち分けられる。アッパー、ストレート、フック、パンチの引き出しが多いね。ジャズのミュージシャンみたい。フリースタイルができるんだ。118ポンド(バンタム級リミットの53.5キロ)のほうがパワーが上がっている」

 事実、バンタム級転向後は2試合連続で衝撃の瞬殺劇。新旧の王者経験者2人を計182秒で葬っているのだ。さらには派手なKO劇は米国でも受けるスタイルだと言い、井上のさらなる可能性にも太鼓判を押している。

「KOが多い選手のほうが世間には認められる。特にイノウエは何でもできる。前に出ても倒せるし、守りながらカウンターも打てる。基本的にはどんないい選手でも相手のスタイルによって、勝てない選手がいる。相性が悪い相手がいるものだ。ただイノウエはどんな相手でも対応できる」

 同記者は以前、近い階級にはスター不在で、バンタム級を制圧したとしても、本当の意味でのスターにはなれない、とコメントしていた。だが、今回は「勝ち進んだら、さらに評価は上がる」とも言った。例に出したのは32戦無敗のまま引退したアンドレ・ウォード(米国)だ。元WBA・WBC世界スーパーミドル級スーパー王者で、元WBA・IBF・WBO世界ライトヘビー級スーパー王者でもある、ウォードも今回のWBSSと同じようなトーナメント形式の階級NO1決定戦「スーパー・シックス」で優勝し、スーパーミドル級の2団体統一王者となった。

「ウォードはイノウエとはスタイルが違い判定までいくが、ほぼフルマークで勝ち続け頂点に立った。パウンド・フォー・パウンド(PFP)でもかなり上までいったよね」

 ウォードも決してスーパースターを撃破したわけではないが、圧倒的な力を見せ続けることで名声を手にし、PFPの1位まで上り詰めた。現時点ではライバル不在とも言われるモンスター。相手を圧倒し続けることで、そんな声もなくなるかもしれない。(THE ANSWER編集部)