社会学者の古市憲寿氏(2016年撮影)

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「プリンセス駅伝(全国実業団対抗女子駅伝予選会)」に出場した岩谷産業の2区・飯田玲選手(19)が、負傷により「四つん這い」でタスキを渡す事態となったことについて、社会学者の古市憲寿氏が2018年10月23日の「とくダネ!」(フジテレビ系)で駅伝の新ルールを提案し、賛否を呼んでいる。

古市氏は「選手が走れなくなった所から、次の選手にタスキをつなげばいい」と発言。飯田選手が走れなくなったのは残り200メートルで、次の走者がその地点から引き継げばいいとの考えのようだ。

駅伝ルールは「すごく古臭い」

21日のプリンセス駅伝では、飯田選手の異変に気付いた岩谷産業の監督が棄権を申し入れたが、審判部に伝達されるまで時間がかかった。その間に飯田選手は四つん這いで進行し、結局中継所に到達したが、右脛骨骨折で全治3〜4か月のケガを負った。チームのためタスキをつなぐ姿は「美談」としても語られることがある一方、負傷選手に競技を続行させる結果となったことには疑問も多い。

古市氏は「とくダネ!」で、「そもそも僕は駅伝のルール自体が気に食わない」と切り出すと、「だって一人の個人の失敗が集団全部の失格になってしまうわけですよね。個人の選手生命を犠牲にしてもいいという考え方が、すごく古臭いと思う」と駅伝のルールを批判。その上で、

「だったら、選手が走れなくなった所から、次の選手にタスキをつなげばいいじゃないですか」

と提案した。

プリンセス駅伝は42.195キロを6区間に分けて行う(2区は3.6キロ)。大会注意事項によると、ランナーが途中で競技を続行できなくなったり、中止させられたりした場合、審判長の指示で次の区間のランナーを出発させる。その際、無効区間以外の個人記録は残るが、チームの総合記録は公式として残らない。

また、「タスキを受け取る競技者は、前走者の区域(中継線の手前の走路)に入らない」というルールも定められている。こうした点でも、駅伝におけるタスキリレーは、選手にとってやりがいと同時に、重責でもあると言えるかもしれない。

区間の真ん中でリタイヤならどうすれば?

古市氏の意見に、小倉智昭キャスターは「それじゃあ駅伝の意味がないわけでしょう」と否定的。伊藤利尋アナウンサーは「『犠牲にしていい』とはおそらく考えていらっしゃらないと思うんですけど、程度の問題で」と指導者側にも微妙な判断が迫られていることに触れている。

ツイッターやインターネット掲示板でも古市氏の「走れなくなった所からタスキリレー」の考えは注目され、

「古市まったくの正論」
「古市氏が、選手が大事なら、棄権させて、次の選手に走らせればいいじゃん、と。スタジオではこの意見は流されたけど。ルール改正して次走者が選手が倒れた地点まで来れるようにしてタスキ渡せたらどうかしら。走る距離は同じだし」
「駅伝のルールが気にくわないという爆弾を放り込む古市氏。怪我する前提じゃないから怪我したらタスキを前から繋ぐっていうルールは有りにしてもいい」

といった賛同の声があがった。だが、

「古市ルールには難点があって、 『今回の四つん這い事案』みたいな感じで 中継所の直前でリタイアなら次のランナーが100Mなり200Mなり逆走すればいいだけなんだけど、 リタイヤしたのが区間の中間だったどうすんだ?って話になるんだよね」
「駅伝ってそういうスポーツじゃん スポーツの内容を改善点には出来ないでしょうよ」

と反対意見も出ている。

「心の傷も残るけど、体の傷も残っちゃう場合がある」

番組では、飯田選手のように棄権するか否かの状況に直面した過去の箱根駅伝ランナーを紹介した。02年の法政大学2区・徳本一善さんは、5キロ通過後にふくらはぎが肉離れ。監督に体をつかまれ、棄権した。番組の取材に徳本さんは「申し訳ないという罪悪感が大きかった。罪悪感は今でも残っている」と話しており、駿河台大学で駅伝部監督をつとめる現在、教え子が同じ状況に直面したら「止めない可能性もある」という。

一方、91年の早稲田大学2区・櫛部静二さんは、本番直前期に食中毒で入院しながら出場すると、区間終盤で意識が遠のき、最後は記憶がなくなったが、タスキリレーは果たした。櫛部さんは番組取材に「タスキをつながないと大変なことになる。(つないでいなかったら)もっと自分を責めていたと思う」としている。だが、城西大学男子駅伝部監督をつとめる現在、教え子を途中棄権させた経験もあるという。

小倉さんは「(タスキをつなげなかった場合)自分があそこでタスキを渡しておけば...と、ずっと(心に)残っちゃうよね」と無理してでも完走しようとする選手の心情を汲もうとしたが、古市氏は

「心の傷も残るけど、体の傷も残っちゃう場合があるわけじゃないですか」

と反論していた。