1個でお腹いっぱいになる『豚まん』は170円。カラシも自家製

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 1日に、なんと17万個が売れる『551蓬莱』の『豚まん』。関西以外ではテークアウト専門店だと思っている人も多いが、大阪府内の3店は、本格中華レストランとして店を構えている。

【写真】清潔感あふれる戎橋本店の様子

『豚まん』創業価格は10円

「『海鮮焼そば』や甘酢を使った料理はすごく人気です。『小籠包』や『叉焼まん』、あんまんは、戎橋本店でしか(温かい状態で)提供していません」

 とは、営業部の八田実紀さん。さらに、空港や百貨店内などの14店舗にはカウンターが併設され、豚まんはもちろん、レストランで人気の麺物や飯物などがメニューに並んでいる。

「創業は昭和20年10月。終戦のわずか2か月後です」

 羅邦強(ロー・パンチャン)前会長が台湾出身の仲間2人とともに、大阪・戎橋でオープンさせた『蓬莱食堂』が前身。食糧難の中、ひと皿10円のカレーが評判になるも、その人気が陰り始め、新メニューを模索する。安くて、おいしくて、お腹いっぱいになるものーー。ある日、羅氏が仕入れのため神戸・元町を訪れると、饅頭が売られていた。

「“これだ!”と。饅頭は自分が故郷で食べていたもの。大阪の人の口に合うようにアレンジし、『豚まん』として10円で売り始めたのが、2年目の昭和21年です」

 これが徐々に評判に。2度の火事に見舞われるも、2週間後には店を開けていたというパワフルさ。1957年には心斎橋のそごう(現・大丸)に出張売店をオープン。軌道に乗ったタイミングで3人は『蓬莱』『蓬莱本館』『蓬莱別館』の3店に分かれたという。

「ケンカ別れじゃないですよ(笑)。蓬莱がウチです。ほかとの差別化を考えていたとき、羅邦強が吸っていたタバコ『State Express 555』が目にとまったそう。数字は子どもからお年寄りまでわかるし世界共通。

 当時の電話番号は“64―551”で、“ここが1番”という語呂合わせも書いていたので、改めて、それを目指そうという思いから『551蓬莱』ブランドは誕生しました」

 いまやテークアウト専門店も含め全59店舗。大阪はもちろん、兵庫、京都、奈良、和歌山、滋賀に広がっている。関西以外に出店しない理由を尋ねると、

「自社工場(桜川)からトラックで150分以内に生地を届けられるところだけなんです。ウチの生地はすごくデリケートなので」

 店舗には、1日に3〜5便のトラックがやってくる。届いた生地は店舗で2度目の発酵をさせ、人の手で丁寧に包み、蒸したてのホカホカを販売している。各店舗で、その日の客足を見ながら、常にできたてを提供できるよう、生地はすぐに発酵する“スグ”、発酵に時間がかかる“オサエ”、その中間の“フツウ”の3段階に分けて使うこだわりよう。

「できたてが絶対においしいので、作り置きは一切しません。常にベストの状態で出しているので割引はしないかわりに、ずっと庶民価格です」

 大阪人の足である、大阪メトロの初乗り運賃(現在は180円)を超えない価格を守り抜いている。

「無理はせずに、目の届く範囲で精いっぱいやらせていただきたい。私たちには、大阪に育てられたという思いがやっぱりあります。関西の人たちがずっと買ってくれて、私たち以上に“この豚まん、おいしいんやで”って口コミで宣伝をしてくれたからこそ、全国に知っていただけるようになりました。

 前社長の口癖は“ビッグカンパニーよりも、グッドカンパニー”。大阪人として、自分の地元で食べられるものを守っていきたいという気持ちは、ものすごく強いんです」

※表示価格はすべて税込みです