国土交通省が日本貨物航空に事業・業務改善命令を下した7月20日、大鹿仁史社長ら経営陣が記者会見し、不適切整備について謝罪した。今後は役員報酬の自主返納などを含め、対応を検討するという(編集部撮影)

「もはや整備能力がないとみなさざるをえない」――。

国土交通省は20日、日本郵船傘下で、国際貨物の空輸を専門とする日本貨物航空(NCA)に対し、事業・業務改善命令という行政処分を下した。運航する航空機の損傷に対する不適切な整備、組織的な整備記録の改ざん・隠蔽など複数の法令違反が発覚したため。

国内の航空会社では初めて、飛行に必要な検査を毎年受けなくてよいという「連続式耐空証明」の取り消しという“厳罰”が下された。

2016年以降、不適切な整備が相次いだ

NCAは郵船など海運大手4社と全日本空輸(現ANAホールディングス)が20%ずつ出資して1978年に設立。2005年に、海運一本足打法からの脱却を目指した郵船が子会社化して現在に至る。

NCAは大型機材であるボーイング「747」型の貨物専用機を11機保有している。旅客便では運べない半導体製造装置や航空機エンジンといった大型貨物の輸送や運送時間を短縮したい需要を取り込んでいる。直近2018年3月期の業績は売上高978億円、経常利益18億円だ。

今回処分の対象になったのは、2016年12月以降に発覚した航空法違反に当たる不適切整備9件、整備記録の改ざん・隠蔽2件だ。不適切整備のうち航空事故に該当する2件では、国交相への報告遅れもあった。

不適切整備については、たとえば2017年1月にシカゴ発の飛行機で、鳥が衝突するバードストライクで損傷した部分を、修理マニュアルに沿った対処を行わずに運航。そのうえ、整備の際には修理区分を「大修理」とすべきところを「小修理」として扱っていた。社内認定資格のない整備士だけで操縦機能に関する試験を行ったケースもあった。

改ざん・隠蔽では、2018年4月に主翼の一部であるフラップを駆動する装置への潤滑油補給で、補給量を点検・交換が必要とならない量へと整備記録を改ざんし、航空局へ報告しなかった事案などがある。

NCAは2016年10月にエンジンのボルトに関する不適切な整備作業に関して国交省から厳重注意を受けた際、再発防止に全力を挙げて取り組むとしていたが、2年も経たずに同様の法令違反を重ねていたことになる。

事業・業務改善命令を受けて記者会見したNCAの大鹿仁史社長は「航空会社の最大の使命である安全運航に影響を及ぼしかねない法令違反があったことを深くおわびする。厳重注意に対する認識が甘かったと反省している」と語った。NCAは弁護士を交えた調査委員会を設置し、今後原因究明を行う方針だ。

今回の命令で、NCAは当面の間、自社による機体整備を禁じられたほか、飛行に必要な検査を毎年受けなくてよい連続式耐空証明が取り消された。これにより、機体整備は他社に委託せざるをえないうえ、検査に備えて機材のやり繰りも逼迫する。

NCAは今回の行政処分を受ける前の6月中旬、整備記録の確認等のために全11機の運航を一時中止している。今月に入って2機の運航を再開したが、残りの機体は「安全性を確認した後に順次再開する」(大鹿社長)というが、現時点ではメドはたっていない。


日本貨物航空が運航するボーイング「747-400」型の貨物専用機(撮影:尾形文繁)

そのため、NCAでは他社から機体をチャーターするなどの対応を行っている。大手半導体製造装置メーカーも「代替の航空会社への切り替えができておりほぼ影響はない」(東京エレクトロンなど)としている。とはいえ、運航再開が長引けば顧客離れは避けられない。

定時運航のプレッシャーはなかったのか

親会社の日本郵船にしても今回の事態は大きな誤算となる。NCAが手掛ける航空運送事業は今2019年3月期に経常利益15億円を見込んでいたが、運航停止による減収や整備費などのコスト増により黒字確保も難しい状況になりつつある。

NCAは長らく赤字で低迷していた。2008年3月期〜2010年3月期は100億〜200億円単位の経常赤字を垂れ流し、その後も何度か赤字に転落する年度があった。当時の損失を引きずり、2018年3月期末は856億円の債務超過だ。

ただ近年は航空貨物の荷動きが活発化。郵船全体の経常利益予想400億円に占める割合は小さいとはいえ、主力の船舶事業は市況変動の影響が大きい。NCAが担う航空貨物事業は安定収益源として期待されていた。

こうした好業績もあり、整備現場が定時運航を優先したことが今回の事態を招いた遠因ではないのか。大鹿社長は「その可能性は考えられる。現場整備に対しては運航を止めることを躊躇するなと言ってきたつもりだが、結果としてそういうプレッシャーがあったなら浸透していなかったと言わざるをえない」という。

整備人員も十分ではなかった可能性もあるだけに、現場への重圧が“忖度”につながったとすれば安全運航、法令順守に対する徹底は経営陣のみならず営業現場を含めた組織全体に必要となる。

大事故につながる前に発覚したことを幸いとして、NCAは一から出直す姿勢が問われる。