欧州戦闘機が米露とひと味違うワケ 前翼+三角翼、なぜこの組み合わせが多いのか
アメリカやロシア製の戦闘機は、主翼の後方に水平尾翼も持つスタンダードなスタイルの戦闘機が主ですが、現在、ヨーロッパ製の戦闘機はカナード(前翼)にデルタ(三角)翼というスタイルが多くなっています。なぜ、その組合せが主流なのでしょうか。
クルマのような「欧州テイスト」が戦闘機にも?
2018年現在、EUに加盟する国々はヨーロッパもしくはアメリカ製の戦闘機を保有しています。かつて米ソ冷戦時代にワルシャワ条約機構に参加していた国々では、未だ旧ソ連製の戦闘機を保有している国もありますが、いまでは減少しつつあるようです。
ヨーロッパで採用されているアメリカ製の戦闘機はF-16が大半を占めており、ベルギー、オランダ、ギリシャ、ポーランドなどで使用されています。
カナードを持つフランスの主力戦闘機「ラファール」(2017年、石津祐介撮影)。
そしてヨーロッパ製の戦闘機ですが、イギリス、ドイツ、イタリア、スペインの4カ国共同開発による「ユーロファイター」、フランス製の「ラファール」、スウェーデン製の「グリペン」の3機種が代表的な戦闘機となります。
「ユーロファイター」は、開発した4カ国とオーストリアが、「ラファール」はヨーロッパではフランスのみですが、インドやエジプトなどほかの地域の国々でも採用されています。「グリペン」は開発国スウェーデン、そしてチェコとハンガリーが採用しています。
イギリス、ドイツ、イタリア、スペイン4か国共同開発の「ユーロファイター」(2016年、石津祐介撮影)。
そのヨーロッパ製の3機種は、すべて「カナード(前翼)」と「デルタ(三角)翼」を組み合わせたスタイルです。アメリカ、ロシアの戦闘機や、そのほかの軍用機、そして民間の旅客機も含め、およそ航空機は主翼と垂直尾翼、水平尾翼という組み合わせが主流ですが、なぜ現代のヨーロッパ製戦闘機にはこのような偏りが見られるのでしょうか。
「ユーロファイター」前夜、なにゆえデルタ翼なのか?
1950年代頃、高速で侵入してくる爆撃機を迎撃するため速度性能の向上を追求した超音速戦闘機が開発されるなか、空気抵抗が少なく、より高速が出せる水平尾翼を持たない無尾翼デルタ機が登場します。当時のアメリカやソ連に比べて、推力が弱いヨーロッパ製のエンジンでも速度性能が発揮できたので、フランスのダッソー「ミラージュIII」などで採用されました。しかし水平尾翼を持たないため離着陸の性能は劣りました。
CCV設計の無尾翼デルタ機ダッソー「ミラージュ2000」(2016年、石津祐介撮影)。
一方スウェーデンでは国土が攻撃を受け滑走路が破壊された場合に、高速道路などから離陸し反撃が出来るよう、この無尾翼デルタ翼にSTOL性能(短距離離着陸)を持たせた戦闘機を開発します。
翼を重ねたダブルデルタ翼の「ドラケン」、そして後継機種としてカナード(前翼)にデルタ翼を組合わせた「ビゲン」を開発します。この翼の組合せは「クロースカップルドデルタ」と呼ばれ、STOL性能と機動性に優れており、のちに「ビゲン」の後継機種として開発された「グリペン」や、「ユーロファイター」「ラファール」でも採用される事になります。日本の防衛庁技術研究本部(当時)でも、練習機T-2にカナードを取付けて、CCV(運動性能向上機)の研究を行っています。
CCVの技術研究のためにカナード翼を取付けたT-2(1985年、後藤丈志撮影)。
やがて、ソ連に対抗できる戦闘機を開発するため1980年代にフランス、西ドイツ(当時)、イギリスによって「ユーロファイター」の共同開発計画が持ち上がり、1983(昭和58)年にはイタリアとスペインも加わり開発がスタートします。
ところがフランスは、開発機に艦上機の性能を持たせることと自国製のエンジンの使用を要求したため、仕様の相違を理由に1985(昭和60)年に共同開発から脱退します。そして自国での開発を進めた結果、完成したのが「ラファール」です。1986(昭和61)年に初飛行を行い、2000(平成12)年には実戦配備されました。「ユーロフファイター」と外見がよく似ているのは、共同開発のデーターを活用したからだといわれています。
かくて欧州機は独特の形状へ
一方の「ユーロファイター」ですが、1994(平成6)年には初飛行を行い2003年には引き渡しが開始されます。イギリスとスペインでは「タイフーン」とも呼ばれますが、イタリアとドイツでは第二次世界大戦で攻撃を受けたホーカー「タイフーン」を連想させるため、単に「ユーロファイター」と表記しています。
水平尾翼を持たないスタイルの「ユーロファイター」(2016年、石津祐介撮影)。
そしてスウェーデンでは、「グリペン」が1988(昭和63)年に初飛行を行い、1996(平成8)年には運用が開始されます。
こうしてヨーロッパでは、アメリカやロシアの大型戦闘機とは異なる、この独特の戦闘機の形状が主流となりました。
ただしアメリカやロシアでもカナード翼機の研究はなされており、ロシアではSu-27に通常の水平尾翼とカナード翼を備えたSu-35を実用化しています。一方のアメリカでは実験機は作られたものの、カナードがステルス性を損なうという理由で実用化はされていません。
新機種開発の動向は…?
カナード+デルタ翼が主流を占めるヨーロッパですが、これからはどのような戦闘機が開発されていくのでしょうか。
スウェーデンの「グリペン」。「ユーロファイター」や「ラファール」とは異なりエンジンは単発(2016年、石津祐介撮影)。
まずいまの主力機に足りないステルス性能ですが、これは順次F-35の導入が進められています。
そして各国の新機種開発ですが、もともとヨーロッパの戦闘機開発は共同開発が多く、政治的な利害関係が影響しており、イギリスとフランスが共同開発した「ジャギュア」、イギリスと西ドイツ、イタリアの共同開発した「トーネード」などが一例だといえます。また、スウェーデンのように軍事的中立を保つ国は独自開発に力を入れています。
イギリスがEUを脱退するため、フランスとドイツが共同開発を検討しており、これによりイギリスはアメリカとの新たな提携を結ぶのではといわれています。
今後、どのようなコンセプトが提案されるのか注目したいところです。