CX-5「爆売れ」のマツダが米国で大苦戦の事情
マツダの主力SUV「CX-5」。米国販売の4割以上を占めるが、奨励金の上昇が課題だ(撮影:梅谷秀司)
「為替の追い風といっては変だが、円安メリットでの増益。米国の販売台数減少については厳しく受け止めている」
マツダの2017年度第3四半期決算説明会。増収増益でも、出席役員の表情には明るさはなかった(記者撮影)
2月7日、2017年度第3四半期(2017年4~12月期)決算を発表したマツダ。財務担当の藤本哲也常務執行役員の表情は冴えない。売上高は前期比8.5%増の2兆5479億円、営業利益は同5.1%増の1071億円と”額面”は順調に見えるが、その内情が苦しいからだ。
円安メリットを打ち消す米国の苦境
第3四半期累計の営業利益は前期比で51億円増となったが、円安メリットゆえの増益だ。以前に比べ、為替感応度は下がったとはいえ、国内で生産する約100万台のうち、8割以上を輸出するため、円安は業績にプラスに作用する。米ドルは前期比で5円、ユーロは11円などと各通貨が軒並み円安方向に振れたことで315億円利益を押し上げた。為替メリットを差し引けば、実質的には26%の減益になる。なぜここまで苦しいのか。
それは収益柱であるはずの北米で稼げない状況に陥っているからだ。以前からマツダは、「『CX-5』『CX-9』などのクロスオーバー系(SUV)車種が、今後収益を牽引していく」と説明。確かに、この2車種は北米で急速に販売台数を伸ばしてきた。にもかかわらず、第3四半期累計の北米の営業利益は156億円と前期比37%もの大幅減となった。不振の元凶が、北米の販売台数の7割近くを占める米国だ。
米国の販売台数は対前年比マイナス1万台(5%)の22万台に着地。マツダは販売台数減の主要因にフリート(法人向け)販売を意識的に抑制したことを挙げる。米国では目下、ブランド力強化に向け、「販売店改革」を進めている。まとまった台数が出るフリート販売に頼ることをやめ、個人向け販売に力を注ぐ。また、マツダの考えを共有してくれるディーラーに多く投資するため、609店から586店へと店舗数を4%近く減らしたことも、台数減少に繋がったという。
では販売台数を犠牲にしている分、収益は向上しているのかというと、そうではない。競争激化で他社が売れないセダン系への販売奨励金を積み上げるため、それに対応してマツダも金額を増やさざるをえないからだ。
マツダの主力セダン「マツダ3(日本名:アクセラ)」。米国販売を長らく牽引してきたが、2017年は前年比で2割以上も減った(編集部撮影)
米国市場では安定した労働市場、原油安や低金利を背景に、セダン系の乗用車からピックアップトラックやSUVといった大型車に乗り換える人が急増。2017年の新車販売は、2016年に比べて、大型車が45万台(4.1%)増えた一方、セダン系は77万台(10.9%)も減少した。
セダンの競争激化にのみ込まれる
かつてはマツダで一番の売れ筋だったセダン「マツダ3(日本名:アクセラ)」も状況が一変。2017年の販売台数は約7万5000台。2016年に比べ約2万台、2割以上も販売を減らした。米調査会社オートデータによると、2017年12月時点でマツダ3の在庫日数は100日に達し、1台当たり約2500ドルのインセンティブ(販売奨励金)を積んでいる。業界平均の約4000ドルから見れば低い水準だが、1年前の2016年12月からは4割以上も増加。販売台数減にインセンティブ増という2重苦にマツダ3はあえぐ。
さらに深刻なのはCX-5だ。「これ以上、セダンにインセンティブを積んでも意味がない」(藤本常務)という判断で、セダン向けは減額傾向にある一方、足元では最も売れ筋のCX-5向けインセンティブが、この1年で24.8%も増えているのだ(2017年12月、1台当たり2806ドル)。業界平均のインセンティブの伸び幅5.7%を大幅に上回る。CX-5は2017年に米国で前年比13.7%増の12万7000台余りが売れ、米国販売の44%を占める。販売店改革の途上であるとはいえ、基幹車種に多額のインセンティブを充てていては、せっかくの収益性を損ねかねない。
インセンティブの上昇で苦しんでいるのは、トヨタ自動車や日産自動車など、他メーカーも同じだ。競合他社が上げればそれに合わせざるをえず、額を下げるタイミングが難しい「チキンレース」状態だ。マツダにはトラウマもある。2017年3月期は、ブランド力向上を優先してインセンティブ引き上げを後回しにしたが、他社の値引き競争にのみ込まれ販売台数を大幅に減らした(「マツダの悩みは『トランプリスク』より深刻だ」)。2017年12月のマツダのインセンティブは全車種平均で2016年12月と比べ3割増と、日系他社と比べても突出した伸び率になっている。
スバルのSUV「フォレスター」。モデル末期だが、米国でも好調な販売を維持する。2017年12月のインセンティブはマツダ「CX-5」の半分の1400ドル台と抑えられている(撮影:尾形文繁)
そんな中、比較的インセンティブを抑えられているのがホンダとSUBARU(スバル)だ。このテーマでは「スバルさんはダントツ低いと思いますが」と藤本常務が語り出すことからも、マツダがスバルを意識していることがうかがえる。米国への依存度が高い中、2017年12月の1台当たりインセンティブは1257ドルと前年同月比7%増に抑えた。
販売店改革への取り組みで明暗分かれる
スバルは、米国で顧客満足度を上げるための販売店改革を一足先に済ませ、雪の多い北部(スノーベルト)などでSUVの性能の高さが浸透していることを背景に、インセンティブに頼らない販売をこの10年ほどで確立できた。
マツダが米国で導入を進める新世代店舗。白と黒を基調にした高級感ある内装が特徴の一つだ(写真:マツダ)
「米国市場は大きく、収益は捨てがたい」。マツダの毛籠勝弘専務執行役員は2016年から北米統括会社のトップとして米国の販売店改革に意欲を燃やす。「SKYACTIV技術」や「魂動デザイン」で商品力が引き上がった今、インセンティブを抑えるためのブランド力構築には販売店改革が不可欠と訴える。顧客との間により深いつながりを築き、値引きではなく、商品の価値で車を買ってもらうのが狙いだ(「マツダ、最重要の米国で挑む『ブランド改革』」)。
そのために、マツダ車だけを取り扱う専売店化の促進や、大幅値引きをするディーラーとの契約解除もいとわず進めている。店舗へのインセンティブには新基準を導入した。顧客へのアンケート結果に加え、店舗の内外装や設備、ホームページのデザインも評価し、インセンティブ全体の半分が新基準によって決まる。ただ、現時点ではインセンティブに依存した販売から脱却できておらず、販売店改革の成果発現は、一朝一夕では難しいのが現実だ。
1月11日、トヨタとマツダは2021年に稼働する合弁工場の建設地をアラバマ州に決めたことを発表した。マツダにとって米国での現地生産は2012年に撤退以来、9年ぶりになる(写真:トヨタ自動車)
マツダが米国で販売の足元固めをしなければならない理由がもう一つある。アラバマ州ハンツビル市で2021年に稼働する、トヨタとの合弁工場だ。
現在、米国向けのCX系3車種(CX-3、CX-5、CX-9)はいずれも日本で生産している。昨年8月と10月に設備を改造し、CX系の生産体制を強化したばかりだ。だが、世界的なSUVブームもあり、CX系は近い将来、需給が逼迫することが想定される。そこでマツダは15万台の生産拠点を米国に新設し、次世代のCX系車種を生産する計画だ。藤本常務は「新工場も控えているので、米国での販売体制を整えなければいけない」と強調した。
NAFTA再交渉にも翻弄される
新工場の調達網については計画がまだ見えてこない。NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉がどのように着地するか次第で、どこで生産した部品を使うかも変わってくる。NAFTAでは自動車部品の関税をゼロとする条件は域内調達率が62.5%。米国はこれを85%に引き上げ、米国製部品の比率を50%以上にすることを提案している。仮に米国の提案どおりになれば、マツダのメキシコ工場周辺に進出しているマツダ系サプライヤーが、米国の新工場向けに部品を供給できなくなる可能性もある。
業界には、トヨタ、ホンダ、ヒュンダイが工場を持つアラバマ州にはすでに多くのサプライヤーが進出しており、マツダはそこからの調達を行うのでは、という見方が強い。実際、同州に工場を持つヨロズ(足回り部品)や小糸製作所(照明部品)は、マツダの現地生産開始を商機とみている。
「頑張っていると思うんですけど・・・・・・。来期は反転攻勢したい」――藤本常務はため息交じりに漏らす。来期からはSKYACTIV技術や魂動デザインを深化させた次世代製品の量産準備が本格化する。2021年稼働の新工場向けの投資も今後増えていく。米国の収益性が改善できなければ、マツダは次のスタートに安心して立つことができない。