写真=iStock.com/Boris_Kuznets

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相談者は手取り月収45万円のグラフィックデザイナー。不倫した妻との離婚後、私立中学に通う娘2人を育てていますが、共働き時代の浪費意識が抜けず、家計は月5万円の赤字。最大の要因は月15万円の「デパートでの定価買い」でした。そんな家計を「月8.5万円の黒字」に転換させたファイナンシャル・プランナーの秘策とは――。

●家族構成(3人家族)
グラフィックデザイナーのMさん(42)/私立中高一貫校の長女(中3)、次女(中1)/妻とは離婚
●手取り収入(月) 45万5000円
●貯蓄 300万円


■妻がいた頃は月79万円を使い放題「節約意識ゼロ」

「妻と離婚した後の家計が火の車状態で……」

おしゃれな服装のMさん(42)は昨秋に離婚し、私立中高一貫校に通う2人の娘(中3、中1)と3人で都内のマンションに暮らしています。

Mさんは広告から出版まで、幅広く活躍する売れっ子グラフィックデザイナー。現在の平均手取り月収は約45万円あります。妻が慰謝料を払うことを条件に離婚をしたといいますが家計が火の車とは一体どうしたのでしょうか。

まずは、離婚前の家計の状況を確認しました。

「妻はダブル不倫の果てに家を出たので、(裏切られた自分としては)以前の暮らしを思い出すのはちょっとツライのですが……」と言いつつポツリポツリと話してくれました。

▼離婚後も贅沢三昧 月収45万円なのに家族3人で50万出費

離婚前の手取り月収はMさん約45万円、前妻のK子さん(40)は約34万円。世帯月収79万の高収入家計だったせいか「節約の意識は家族全員がゼロ」でした。住宅ローン12万円と、水道光熱費や保険料などの口座引き落とし分約4万円、子どもの授業料10万円はMさんが担当。一方、K子さんは生活費を負担し、小遣いや貯金は夫婦それぞれの収入から出していました。相手のお金の状況は全くわからず、お互いの貯金がいくらあるかも知らなかったそうです。

離婚の際、子どもたちはMさんと暮らすと言ったそうです。Mさんは「うれしさで心の傷もだいぶ癒えた」と話します。子どものために毎日張り切って仕事をし、平均手取り月収は以前と変わらず45万円ほど。しかし、毎月5万円も赤字が出ているのです。親子3人、毎月の支出が50万円を超えるというのは、ちょっとひどい状態と言わざるをえません。

また、今まで夫婦で計画的に貯金をせず、離婚により慰謝料と貯金から住宅ローンを完済したこともあり、現状、Mさんの貯金は普通預金の300万円のみ。これでは将来に大きな不安が残ります。

■「デパートでの定価買い」15万超、食費は外食込みで14万

Mさんは「食費や日用品費にいくらかかるのかなど全くわかりません。細かいことは苦手なので、とにかく赤字にならないコツを教えてほしいんです」と、すぐに結論がほしい様子でした。

私は家計相談に見える方によくお話しするのですが、一瞬で家計を再生させる「魔法」はありません。まずは何にいくら使っているのかを知り、その中で何を削れるかを考え、できることから実行する。この過程を自分自身で行うことでしか、家計の再生はありえません。

よってMさんにも、まずは「何にいくら使っているのか」を洗い出してもらいました。「実はよく覚えていない」とのことでしたが、仕事柄、レシートや領収書は必ず取っておくそうで、私と一緒にレシートを1枚1枚チェックしながら、費目ごとにまとめてみました。

▼低価格ファッションチェーン店での買い物はみじめな気分

すると、離婚前も現在も続く、大きな「こだわり浪費」が姿を現したのです。

「こだわり浪費」で一番大きかったのは、「洋服からお総菜まで、デパートの定価買い」。これが毎月15万円以上の出費になっていました。MさんもK子さんも裕福な家庭で育ったうえに、自分たちも高収入を得ていたので、週末にデパートへ出かけ、洋服などの買い物をして、ランチやティータイムを楽しみ、晩ご飯のお総菜を買って帰る、という生活パターンが当たり前のことだと思っていたのです。

長年染みついた浪費習慣は、離婚というショッキングな出来事のあとも変えられませんでした。

「近所の安いお総菜屋さんや、低価格のファッションチェーン店などで買い物をすると、何だかみじめな気分になりそうで……。K子とその相手に対して、知らないうちに見栄を張っていたのかもしれません」

また、「食費」の6万円だけではなく、「外食費」も約8万円とかなり高額でした。オープンしたての話題の店、有名な三ツ星レストランで食事をすることが、「仕事柄の常識」だと思っていたそうです。

「でも、よく考えればこれもまわりに対しての見栄ですね。レシートの金額は嘘をつかない。自分の現実が見えた気がします」

■「欲望を棚上げして“プチプラ”チェーンで購入します」

私は「こだわり浪費」の改善案として、被服費、食費、外食費を中心に支出を見直すことを提案しました。

家族の普段着は、“プチプラ(※)”チェーンで購入し、デパートを利用する場合もバーゲン期間を狙うようにアドバイスしました。Mさん本人も娘さんたちも、人生初の“プチプラ”ファッションは意外にも着心地がよく、親子とも大満足で出費カットに成功しました。
(※)プチ=小さい、プライス=価格の略語。安くて手に入りやすい、の意

また、「これまではバーゲンまで待ちきれなくて買っていましたが、これからはこの欲望をいちど棚上げしようと思います。娘たちにも協力してもらいます」と、これまでの消費スタイルにも変化が見えてきました。

食費はお総菜の購入をできるだけ控え、手作りでのコスト削減を提案しました。すると、長女が部活で料理部に入っていたことが功を奏し、週末に親子3人でおかずの作り置きに挑戦。家族の絆を深めながら、節約が実行できたそうです。

▼趣味で注文、ビンテージワインの頒布会も中止

懸案の外食費は、月4回の外食を月2回に減らし、注文するメニューの値段も抑えてもらうことで、外食費は半額にまで抑えることができました。

「いきなりゼロはさすがにつらいけど、月2回は行けるので、何とか実行できました。メニューの値段を気にするだけで、意外と出費は抑えられるんですね」(Mさん)

そのほか、3人分で毎月5万円近かった通信費は、格安スマホに変えることで1万5000円程度に圧縮。趣味で注文していたビンテージワインの頒布会(商品が月々自宅に届けられる通信販売)も中止し、近所の量販店での購入に切り替えてもらいました。

娯楽費は「娘たちにさみしい思いをさせていけない」という思いから、月2万円ほどかけていましたが、娘たちの年齢を考えて、「家族レジャー」の頻度は減らしてもいいと判断しました。

■「月5万円の赤字」を「月8万5000円の黒字」に転換

こうした結果、毎月13万5000円ほどの支出を減らすことができ、「月5万円の赤字」は「月8万5000円の黒字」に転換しました。まだ削減できるところはありますが、第一段階としてはよく改善できたと思います。

「月8万5000円の黒字」は貯蓄にまわします。年間100万円ほどになるので、長女が大学進学するまでに約300万円になる見込みです。それまでにさらに家計が改善できれば、もっと教育資金を増やせるでしょう。

「お金を使う習慣」は、なかなか変えられません。傍目から見れば、ぜいたくと思えることも、本人には「当たり前」で「常識」。その価値観を根底からひっくり返すのは至難の業です。

しかし、しっかりお金を残さないと、将来、ツラいのは自分たちです。教育資金、老後資金、住宅のリフォームなど、想定外の出費はどの家庭でも起こります。できることをできるうちに準備しておけるよう、油断せずにいきましょう。

▼【家計費コストカット額ランキング】

1位:外食費 −4万円
外食回数を月4回から月2回へ減らしコストは半額に
2位:通信費 −3.3万円
遅ればせながら家族3人のスマホ代を格安スマホに
3位:被服費 −2.2万円
デパートの「定価買い」をやめ、“プチプラ”ファッションに
4位:食費 −2万円
デパ地下のお総菜をやめ、近所のスーパーを利用。週末の「作り置きおかず」作りが父娘の結束を強める効果も
5位:娯楽費 −1万円
子どもを気遣い、娯楽費を多くとっていたが、年齢も上がり、それほど必要がないことが分かり半分に削減。
6位:嗜好品 −0.8万円
月8000円のヴィンテージワインの頒布会をやめ、近所の量販店での購入に切り替え
7位:水道光熱費 −0.2万円
つけっぱなし、出しっぱなしに気を付けてチリツモの2000円減

(家計再生コンサルタント、マイエフピー代表取締役、ファイナンシャルプランナー 横山 光昭 写真=iStock.com)