過去2年にわたってセフォラ(Sephora)は、静かに女性起業家によるビューティビジネスを彼らのプログラム「アクセレレート(Accelerate)」で支援してきた。セフォラが提供しようとしているのは資金以上にアクセスと教育である。

「私たちの長所をより大きな目標に活かすことに我々は情熱を傾けている。ビューティ業界においてすら、女性のリーダーシップが足りていないことに気付いたのだ」と語ったのは、セフォラのソーシャルインパクト責任者であるコリー・コンラッド氏だ。彼女はセフォラのソーシャル企画を成長させるためにGoogleから2015年に引き抜かれた。リーダー役職における男女の差はスタートアップの分野で顕著だ。ベンチャー投資の85%は男性に行く。

コンラッド氏のチームはその数字を変えるため、7カ月間のメンターシッププログラムを開発した。そこでは、女性のビジネスファウンダーたちに新しい資金やリテールにおけるパートナーシップを確保してあげることで、彼女たちのビジネスを次のレベルに引き上げるのだ。パートナーシップの相手にはセフォラも含まれるが、それはごく一部にすぎない。

補助金は2500ドルだけ



プログラムはサンフランシスコで行われる1週間の「ブートキャンプ」からはじまる。アクセレレート参加者を集め、仲を深め、それぞれのブランドのためのアイデアをブレインストーミングする。

航空費用はプログラムが負担をしてくれ、参加者はそれぞれ2500ドル(約28万円)の補助金を受け取る。プログラムの期間中、受け取るお金はこれだけだ。ほかの交通費や参加したことによるビジネス上の損失などもすべてこれに含まれることになる。

ほかのいわゆる「インキューベーター」プログラムが提供する補助金と比べると、この額は実に小さく思える。スタートアップ補助のYコンビネーター(Y Combinator)は、援助する会社にそれぞれ12万ドル(約1350万円)の投資をする。コンラッド氏によると、プログラムを通して提供される体験やコネクションこそがもっと大きな価値を持っているとのことだ(彼女のチームはこれまでアクセレレートのメンバーたちの支援に950時間を投資してきた)。

プログラムに資金が足りていないわけではない。コンラッド氏は具体的な数字はあげなかったが、プログラム全体、そして特にブートキャンプ施設と各種イベントには大きな予算がついていると述べた。

充実のプログラム内容



このプログラムに2017年参加したひとりにイブカー・モンペルース氏がいる。彼女はクレヨル・エッセンス(Kreyol Essence)というナチュラルかつ倫理的なヘアケア製品ブランドのファウンダーだ。彼女は「最初の1週間に注ぎ込まれている内容はディテールのレベルが本当に素晴らしい。最初からまるで我々がプレミアブランドであるかのように扱われた」。空港での運転手付のお迎え、豪華なディナーに毎日の市中心部への外出、そして滞在した豪邸、といった特典がプログラムにはついている。

しかし、これはバケーションではない。在庫マネージメントやストーリーテリングといったトピックについてのワークショップが行われる。またFacebookやGoogleといった会社への研修訪問もある。そして、グループ内での批判的な視点でのフィードバックの出し合いだ。「数カ月のように感じられた7日間だった」と、モンペルース氏は語る。自分とそのビジネスについてオープンに語ることで、悲しみ、怒り、喜びといったあらゆる種類の感情のジェットコースターを体験した、と彼女は言語る。

参加者一人ひとりにはメンターが1名つけられる。参加者のブランドのフォーカスに応じて、セフォラのエグゼクティブチームからメンターが選ばれるのだ。ヘアケアブランドならヘアケアの専門家、という具合だ。また参加者は前年の参加者から「お姉さん(big sister)」が担当としてつくことになる。彼女たちは相談役となる。

最終日にプレゼンテーション



7日間のブートキャンプのあと、参加者たちは定期的なオンラインセミナーや毎月のメンターとのコミュニケーションを続けることになる。またフォーマルでない形でのミーティングも設定することは可能だ。オンラインセミナーのトピックは、ブランデッドコンテンツやSEO戦略、資本獲得、資本管理といった分野にまたがる。ボナフィデ・ビューティ・ラブ(Bonafide Beauty Lab)のファウンダーであるパメラ・バクスター氏やミルク・メイクアップ(Milk Makeup)のCOOであるダイアナ・ルース氏といった業界の専門家たちによって、セミナーは行われる。

参加者には定期的な宿題といったさまざまな義務が課されるが、それは自分のビジネスの日常業務の妨げにはならなかったとモンペルース氏は言う。「そもそも取り組んで改善したいと思っていたことを、義務としてやらないといけなくなっただけ」。

プログラムのフィナーレは「デモ・デイ」となる。グループはまたサンフランシスコに行き、そこで250人以上の観客の前で自分たちの活性化されたブランドをプレゼンテーションするのだ。この250人にはセフォラのリーダーシップたち、ベンチャーパートナー、また外部のリテーラーなどが含まれる。

コラボとコミュニティを優先



「善行はビジネスにも良い」と考えるコンラッド氏だが、プログラム自体はセフォラのソーシャルメディア上やサイト上ではそれほど宣伝されていない。さらには参加者たちは招待されないとプログラムに応募できないのだ。現時点では18歳以上のアメリカ大陸に住む女性に限定されているが、来年からはヨーロッパやアジアからの参加者も検討するという。

プログラム参加者たちによると、応募のプロセスもかなり詳細に渡ったもののようだ。ビジネスモデルやプロダクトの説明といった基本的な質問だけでなく、それぞれ個人の性格、成長するうえで邪魔になっている自分が抱えている個人的な悩みといったことまで探られる。

コンラッド氏によると、応募者は競争することよりもコラボレーションとコミュニティを優先させないといけない。これはセフォラにとって重要な要素のようだ。「優勝者を選ぶようなプログラムではない」と、彼女は説明した。

「もっとも自分を変えた体験」



とはいえ、プログラム参加ブランドでセフォラの店頭に並んだのは、昨年はひとつだけだった。オーガニックスキンケアのLXMIだ。今年はエッセンシャルオイルブランドのヴィトルーヴィ(Vitruvi)と香水ブランドのザ・セブン・ヴァーチューズ(The 7 Virtues)のふたつが店頭に並んだ。ザ・セブン・ヴァーチューズは紛争復興に取り組む国や地域からのエッセンシャルオイルを使用し、動物を使ったテストをしていない倫理的なブランドだ。ファウンダーのバーブ・ステージマン氏はグループでも2番目に年上の48歳だ。このプログラムが彼女を完璧に再活性させてくれたと語る。「まったく新しい世界を発見した」。

ステージマン氏は自身のブランドの香水をパッケージ、香りを変えてミレニアル世代によりアピールできるようにした。そしてソーシャルメディア戦略も「活性化」させた。「活性化」とはとどのつまり、存在していなかった戦略を新しく作り上げたということだ。「セフォラのコーチングがなければこの規模のお金を投資する勇気も専門知識も持っていなかっただろう」と、彼女は語る。

ヴィトルーヴィのファウンダーであるサラ・パントン氏にとってプログラムは、「これまでの人生でもっとも自分を変えた体験のひとつ」だという。GoogleやFacebookといった企業におけるセフォラ主催のミーティングは、特に価値があったという。「彼らの洞察のおかげで我々の意思決定をさらに成熟させることができた」。

セフォラの店頭には並ばなかったブランドの者たちも、それを敗北のように受け取っているとは限らないようだ。

つながるべき適切な人



モンペルース氏はアクセレレートに参加したあと、大手ホールフーズと全国パートナーシップ契約を結んだ。そして現在セフォラ・インターナショナルとも交渉中だ。またセフォラは彼女を社会正義にフォーカスを置く会社を求めている投資家とつなげた。それによって彼女は20万ドル(約2250万円)の支援金を得た。

「プログラムがなければこれはどれも起きなかった。自分がつながるべき適切な人を見つけられたことは本当に大きい」と彼女は語る。

Jessica Schiffer (原文 / 訳:塚本 紺)