米スポーツバイクメーカーのTREKが2018年初頭に発売予定の電動アシストクロスバイクの「VERVE+(バーブプラス)」。独ボッシュのモーターユニットを搭載する(写真:トレック・ジャパン)

米国のスポーツバイクブランド「TREK(トレック)」やイタリアの老舗自転車ブランド「Bianchi(ビアンキ)」など欧米4ブランドが2018年以降電動アシスト自転車を日本市場向けに初投入する。トレックは最大航続距離が約100kmのクロスバイク、2011年設立の米国の新興自転車ブランド「Tern(ターン)」は20インチの折り畳み自転車を発売する。独の「corratec(コラテック)」もクロスバイクとMTB(マウンテンバイク)を1車種ずつ投入する。いずれのモデルも価格は20万円を超える。


米の新興自転車ブランド「Tern」が日本で2018年3月頃の発売を予定する「Vektron(ヴェクトロン)」。折り畳み自転車に電動アシスト機能搭載は日本では珍しい(写真:アキボウ)

それらのモーターユニットを供給するのは自動車部品で世界トップの独ボッシュだ。日本ではほとんど知られていないが、同社は電動アシスト自転車向けのモーターやバッテリーでも世界のマーケットリーダーだ。とはいえ、ヤマハ発動機やパナソニックなどの国内メーカーが圧倒的なシェアを誇る日本の電動アシスト自転車市場に飛び込むのはなぜか。

欧州では電動アシスト自転車が大人気

「毎年5%成長している日本市場はとても魅力的だ」
ボッシュの電動アシスト自転車用ユニットのアジア太平洋地域統括を務めるフアド・ベニーニ氏はこう話す。日本の電動アシスト自転車の販売台数は2016年に約55万台。その8割はいわゆる「ママチャリ」と呼ばれるシティサイクルや幼児乗せ自転車だ。


ボッシュの電動アシスト自転車用ユニットのアジア太平洋地域統括を務めるフアド・ベニーニ氏。持っているのは日本市場に投入する自社製品。自身もMTBの愛好家だが「今ではEバイクのMTBにしか乗れない」と話す(撮影:尾形文繁)

一方、クロスバイクやマウンテンバイク(MTB)、ロードバイクといったスポーツタイプはまだ品ぞろえが少ない。これらの自転車が大半を占める高価格帯(15万円超)の電動アシスト自転車の販売比率はわずか6%だ(2016年、自転車産業振興協会調べ)。

そこにボッシュは商機を見出す。ニッチな市場だが、まだ競争相手が少ない分、のびしろがあると見る。

同社のお膝元、欧州ではこの5年ほどで「E-Bike(Eバイク)」と称される電動アシスト自転車市場が急拡大。2016年には約170万台が売れ、前年比2割増ものハイペースで成長を続ける。今や自転車販売全体の1割に迫るEバイクの伸びを牽引するのはスポーツタイプだ。

同社が2012年にEバイク用モーターユニットを市場投入した時には「若い人はEバイクのそばに立っているのも恥ずかしい」(ベニーニ氏)というのが市場の受け止めだった。従来のEバイクは脚力のない高齢者が主な顧客層で、デザインも洗練されておらず、イメージを変える必要があった。

ボッシュはサイクリングを楽しくすることにこだわった。従来の他社製品では自転車の速度が遅い時はアシストが強く、速度が速い時にはアシストが弱くなるため、サイクリストからは「坂道を速いスピードで登っている時こそアシストが欲しい」という要望が出ていた。

そこで自動車の電動パワーステアリング用モーターや電動工具で培ってきた技術を製品開発に活かした。低速域だけでなく、高速域でも強いアシストを可能にした。アシストの強度も「エコ」から「ターボ」まで4段階で細かく設定。結果、ボッシュ製品は「ユニークなサイクリング体験ができるというサイクリストの評価を勝ち取った」(ベニーニ氏)。

同時に、自転車メーカー各社がバッテリーをフレームと一体型にするなどしてデザインを磨き上げた結果、サイクリストだけでなく、流行に敏感な若年層もEバイクに飛びついた。Eバイクが売れ出すと、自転車メーカーは車種を増やし、それがまた新しい顧客層を取り込むという好循環が生まれた。

この流れに乗り、ボッシュは世界のEバイク市場の7割を占める欧州で電動自転車向けモーターユニットのトップサプライヤーに登りつめた。今では70ものブランドに供給する。最大市場のドイツでは25%を超えるシェアを持つ。ボッシュのモーターユニットは自転車ブランドにとっても性能をアピールする武器にもなっている。同社が欧州で製品を供給するEバイクの最低価格は30万円で50万円を超える高級モデルも珍しくない。

日本人サイクリストのこぎ方を徹底研究


ボッシュが日本市場向けに投入する電動アシスト自転車用のモーター、バッテリー、サイクルコンピュータ(撮影:尾形文繁)

ボッシュは欧州での成功体験を活かし、日本でも高価格帯のスポーツタイプ市場を攻略したいところだが、欧州とはやや事情が異なる。それは日本固有の規制だ。電動アシスト自転車では時速10kmまでは人力の最大2倍(200%)でアシストができるが、10kmを超えると徐々にアシスト力を減らし、時速24kmでアシストをゼロにしなければならない。

欧州ではアシストをゼロにする速度は時速25kmで日本とほぼ同じだが、アシスト比率には規制がない。人力の3倍(300%)といった高いアシスト比率も可能なため、スポーツタイプが普及したという見方もある。しかし、一国の法規制を変えるのは容易なことではない。ボッシュは日本の法規制に適合させた上で、日本人サイクリストのニーズを徹底的に調べ上げた製品を投入することにした。


日本市場向けに投入するサイクルコンピュータのデモ画面。電動アシストのレベルを4段階で選べる(写真:ボッシュ)

ボッシュが展開するEバイク向けユニットは4種類。日本市場には3.2kgと小型軽量ながらも十分なパワーが出る2タイプの中から、トルクが大きいほうを選んだ。日本人特有の自転車のこぎ方があるからだ。

体格の違いからか、日本人はペダルをこぐのがヨーロッパ人に比べると遅い上、左右にぶれやすい。トルクが大きいほうがスムーズにこぎ出せると考えた。スムーズで自然な加速はストップ&ゴーが多い街中や急な上り坂でサイクリストの脚力をカバーできる。同社としては、通勤やレクリエーションなどを目的に、デザイン性の高い「Eバイク」を欲している若年層向けに訴求したい考えだ。


ヤマハ発動機の電動アシストクロスバイク「YPJ-C」。税込み19万9800円。2016年発売で年間販売目標は5000台。通勤や街乗り用に人気だ(記者撮影)

トレックはボッシュ製ユニットの供給を受けて欧米でEバイクを展開しているが、「日本でもスポーツEバイクが注目され始めた絶好のタイミング」(広報)として商品発売を決めた。第一弾となる新製品のクロスバイクは税込み23万0040円。「汗をかかずに通勤したい」という都市部の消費者が最大のターゲットだ。今後は日本市場向けにロードバイクやMTBといったよりスポーティーなEバイクの投入も視野に入れている。

迎え撃つ日本勢はどうか。実はこの数年、日本勢からもスポーツタイプの新製品投入が相次いでいる。電動アシスト自転車を1993年に世界で初めて発売したヤマハ発動機は、新スポーツブランド「YPJ」を2015年に発表。第一弾のロードバイクに続き、昨年発売したクロスバイクの「YPJ-C」はビギナーや女性の取り込みに成功し、販売は伸びているという。


パナソニックが9月1日に発売した電動アシストMTBの「XM1」。10段の変速ギアを備え、1回の充電で最大約78km走行できる。バッテリーとフレームを一体化してあるためデザイン性も高い(記者撮影)

パナソニックは電動アシストのMTB「XM1」を9月に発売した。税込み35万6400円と国内メーカーが販売する電動アシスト自転車では最も値段が高いモデルだ。

街乗りからから本格的なオフロードまで幅広く走れると触れ込む。「想定以上の注文が入り販売好調」(同社)だという。同社は電動アシスト自転車に占めるスポーツタイプの国内販売比率を2016年度の2%から2020年度メドに10%に引き上げたい考えだ。

普及には一般消費者の認知度向上がカギ

欧州のように日本でも「Eバイク」のブームは来るのか。電動アシスト自転車専門店の代官山モトベロではスポーツタイプの販売がこの数年で急拡大しているという。上総敏昭店長は「Eバイク市場が拡大するかは商品のデザインや品ぞろえに加えて、どれだけ一般消費者の認知度を上げられるかにかかっている」と話す。

欧州は元々自転車の盛んな地域だが、Eバイクの登場で従来の自転車に比べて乗る時間が2〜3倍になったり、スポーツとしてサイクリングをあらたに始める人が増えたりと、Eバイクはいまや新しいライフスタイルの一つになっている。ママチャリが席巻している日本では自転車のデザインもどこか画一的だ。オシャレでかっこいい「Eバイク」が広がり出すと、自転車カルチャーが変わるかもしれない。