「美坊主」に頼らざるをえない寺業界の苦悩
今年で第3回目となる美坊主コンテスト。とてもユニークだが、いったいどのような目的があるのか(撮影:梅谷秀司)
2017年8月、「美坊主コンテスト」というイベントが開催された。はたして、東京ガールズコレクションのごとく、イケメン僧侶たちがランウェイを歩くのだろうか――。実際、『美坊主図鑑』という書籍も2012年に発売され、全国の見目麗しいイケメン僧侶がずらりと登場、一部では話題になった。期待に胸を膨らませながら、会場となる東京ビックサイトに足を運んできた。
イケメン坊主がランウェイ、ではなかった
美坊主コンテストは、毎年行われる「エンディング産業展」のイベントの一つとして行われ、今年で第3回目を迎える。今年は326の葬儀関連会社、寺院関連などの終末関連企業、団体がブースを出展。今年は、人型ロボットのPepperが読経をする「Pepper導師」の登場や、VR(バーチャルリアリティ)葬儀などが話題になった。
食事の作法を披露する応募者(撮影:梅谷秀司)
いよいよコンテストが始まると、イケメン僧侶がランウェイ――ではないことが判明。実際は、振る舞い、所作に加えて、10分間の自由アピールが審査の対象になる。食事の作法を披露したり、過去には瓦割りを披露したお坊さんもいたそうだ。最後に観客が投票し、その場で開票されて優勝者が決まるという仕組みだ。なお、エントリーは宗派や国籍、性別を問わない。
2017年の美坊主コンテストで見事優勝に輝いたのは、高野山真言宗龍源山功徳院の僧侶、松本勇真(ゆうしん)氏だ。受賞理由は、誠実さが伝わり、自分の葬儀でお経を上げてほしい」という意見が多かったことだ。
2017年のグランプリに輝いた、松本勇真氏。不慮の事故で亡くなった母を供養するために出家した(撮影:梅谷秀司)
松本さんは、若い頃にかなりやんちゃをし、24歳のときに不慮の事故で母親を亡くした。親孝行どころか親不孝ばかりのままで母を失った後悔が、出家への道を決意させたという。
「お坊さんになって母親を供養していこうと思い、仏門に入って18年になります。お坊さんは道徳の基本であるべき存在。善行のすべてはわれわれの仕事です。これからのお坊さんはお経をあげるだけでなく、皆さんが求めるニーズに合わせていくことも必要でしょう。
いまやロボットでもお経をあげられる時代、お坊さんの存在価値が問われる時代になってきていると改めて実感しましたが、これも時代のニーズ。われわれは共存の道を探っていくのでしょう」(松本さん)
在家から仏門に入り、この業界で理不尽に思うことも山ほどあるという松本さん。しかし、よいことも、そうでないこともあるのが当たり前。すべてを受け入れると不安や迷いは解消でき、必ず人間の成長があるという。
「迷いや苦しみは自分に与えられた修行だと思えばいい。いいことばかりは続かないし、悪いことばかりも続きません。辛抱ではなく、受け入れる。それは“糧”なのです」(松本さん)
このコンテスト、いったいどのような目的で開催しているのだろうか。主催者である、株式会社おくりびとアカデミーCEOの木村光希さん(彼もイケメン)に話を聞いた。ちなみに、おくりびとアカデミーは納棺士を育成する学校を運営しており、木村さん自身も納棺士。木村さんの父は、映画『おくりびと』で技術指導を行った納棺士の第一人者、木村眞士氏である。
美坊主コンは、寺離れ時代の起爆剤
木村さんは、「多くのお寺の課題は、地域の人々とのご縁をつなぐことですが、寺離れが加速している現代社会において、このような花火を打ち上げることは、お寺に目を向けていただくことのひとつの方法です」と開催の目的を語る。
コンテスト主催者CEOの木村光希さん。当初は、美坊主=イケメンと誤解されて、批判も多かったという(撮影:梅谷秀司)
「エンディング産業展の来場者の多くは終活業界の関係者です。しかし、せっかくこのような大きな展示会を開くわけですから、一般の方々に、展示会もお寺にも注目していただきたい。そう思って美坊主コンテストを始めたのです。実際、『美坊主』という言葉で女性のお客様にも多数来場いただき、立ち見が出るほど大盛況になりました」(木村さん)
ただ、「美坊主」という言葉に誤解も多く、2015年の初回開催時には「お坊さんを見た目で評価するのか」という批判が殺到したという。
だが、このコンテストは決して見た目のみを問うものではない。「立ち居振る舞いや、僧侶としての姿勢、人間性、心の美しさなどを、総合的に審査するものです。とはいえ、やはりキャッチーなコピーをつけたほうが、注目されるのも事実。だから、美坊主=イケメンと解釈されるのは仕方がないのかもしれません」(木村さん)
そして、さらに聞いていくと、お寺業界が抱える深刻な悩みが浮かび上がってきた。「寺離れの理由のひとつに、お坊さんへの不信感というものもあると思います。私も納棺士の仕事を通し、多くのお坊さんにお会いする機会がありますが、人間的にすばらしいお坊さんもいれば、正直、そうでない方もいらっしゃいます。
『自分の葬儀を行うときに、このお坊さんにぜひともお経をあげてほしい!』と思えるお坊さんに会ったことがありますか? 中には、心が震えるような法話をしてくださるお坊さんもたくさんいらっしゃいます。そのような立派な僧侶の方々に、もっと世に出てほしい。それもこのコンテストを行う理由のひとつです」(木村さん)
確かに、僧侶のセクハラや暴力事件などのニュースは度々耳にする。法要で高額なお布施を要求された、という話も聞く。
今、「生臭坊主になど、葬式は頼まない」「坊さんの話なんて興味がない」と思っている人が多いのは、すばらしいお坊さんに出会う機会がないからともいえる。僧侶として尊敬できる “美坊主”に出会うのは、確かに至難の業だ。そうしたお坊さんを発掘し、世の中に紹介するのが美坊主コンテストの一つの大きな使命なのである。
お寺や(心ある)お坊さんたちは、われわれの苦しみに寄り添える方法を、手を替え品を替え、日々考えてくれている。一般人がお寺に注目するきっかけになるなら、たとえそれが前代未聞な手法でも温かく見守ってほしい、というのが筆者の思いである。人間的にすばらしい僧侶としての美坊主でもいいし、さらにイケメン僧侶のランウェイでも悪くはないと思う。
ちなみに、2017年の美坊主グランプリ、松本勇真さんは、東京・巣鴨にある龍源山功徳院でお勤めをしている。出張や法要がないかぎりは、実際にお会いしてお話を聞くことができるはずだ。美坊主に会いに行ってみてはどうだろうか。