「俺は、社会からの信用を失った!」「俺は、家族を失った!」――。ギャンブルで失ったものを書き上げた紙を大声で叫ぶように読み上げ、一枚ずつゴミ箱に入れていく人たち。そこは、依存症の更生施設のある日の光景だ。

7月30日の「NNNドキュメント」(日本テレビ系)が放送したのは、ギャンブル依存症の闇から抜け出そうと必死でもがく人たちの姿だ。東京都交通局に勤める公務員だったHさん(43歳)は、遊びで始めたパチンコにのめり込み、金も仕事も住む場所も失った。しまいにはパチンコする金欲しさに路上で恐喝し、現行犯逮捕までされてしまったという、まさに"落ちるところまで落ちた"人物である。(文:みゆくらけん)

ギャンブルに負けて幼い子どもに暴力をふるう母親

一見マジメそうに見えるHさん。しかし更生施設に1年以上入所している今も、パチンコ店の前を通ると衝動が溢れ、ギリギリのところでなんとか自分を抑えつけている状況だ。

ギャンブル依存症の人は、なぜ身を滅ぼしてまでギャンブルにハマってしまうのか。番組でもその主な原因はストレスや心の闇によるものとの施設代表者の説明があった。実際に入所者はこう話す。

「けっこうプレッシャーのかかる仕事をしていて忘れたい、蓋をしたいことがたくさんあってどんどん(ギャンブルに)ハマっていった」
「夫婦関係も悪かったのでギャンブルに逃げ場を求めていった」

つまりは、現実逃避である。中には、「夫が忙しく自分ひとりで育児することに寂しさを覚え」ギャンブルにハマっていったという50代女性もいたが、この女性はギャンブルに負けた時の悔しさやストレスを息子にぶつけ、何度も殴る蹴るを繰り返していたという。まだ幼児用のイスに座る我が子を、である。

「座イスに座っている息子を思いっきり蹴飛ばすんです。息子は怖がっていましたね。殺されるんじゃないかって」

涙ながらに語るこの女性は、世間的にいえば「最悪な母親」なのだろう。しかし、筆者にはこの女性に対し、「たかが"寂しさ"でそんなひどいことを!」と糾弾しきれない思いもある。それは、実は依存症は誰もが陥る可能性のある、身近な疾患だと捉えているからである。自分だって、何かのきっかけでいつそっち側にいってしまうかわからない。

ストレスをため込む前に自分のケアを

ギャンブルもアルコールも薬物もそうだが、どの依存症も根本原因は同じで、それはいわゆる"ストレス"に他ならない。無意識に人はストレスを解消(または向き合わないことで現実逃避)しようと、快楽にのめり込んでしまうのだ。

ここで怖いのは「ストレスなど、誰もが多かれ少なかれ抱えているもの」というところだ。当然、心の闇やストレスの深さは人によって違いはあるのだろうが、依存症に陥る人たちは自分の抱えるソレに、うまく対処しコントロールすることができない傾向にあるのかもしれない。

治療については、依存症になってから手を打つというやり方では難しいといわれている。依存症は心の病気であり、ある日突然にこの病気になるのではない。根っこにはストレスや心の闇があり、それを無意識に解消しようとする(または現実逃避することで自分と向き合わない)過程を経て病気につながる。そして、そのような負の過程を食い止めることが、実は重要なのではないかと思う。

そしてそのためには、趣味やストレス発散法などで、こまめに自分をケアする必要がある。ストレスをため込まないように、美味しいもの・楽しいことなど「ちょっとした幸せ」で、ある意味自分を「ごまかす」ということも大切なのかもしれない。依存症は、誰もが陥る可能性のある身近な"落とし穴"だと思う。