安価でもMRを存分に楽しめる軽快な走り

 世のなかには、走りのパフォーマンス、コンセプトはよかったのに、人気が伸び悩み短命で消えて行ってしまったクルマというのがいくつかある。トヨタのMR-Sは、まさにそうした一台だった。

 MR-Sは、1999年にMR-2(SW20)の後継車として登場。トヨタとしては三代目のミッドシップスポーツカーであり、トヨタの豊富な車種バリエーションのなかから必要なコンポーネンツをかき集め、168万円〜という安価な価格で製造販売できた点は特筆できる。

 スペック的には、四輪ストラットサスペンションで、140馬力と比較的非力な1.8リッター直列四気筒の1ZZ-FEエンジン(NA)といささか寂しい内容だが、車重は970kgと非常に軽く軽快感はトップクラス。1200kg以上あった先代のMR2(SW20)に比べても圧倒的に軽く、当時のライバル、マツダ・ロードスター(NB)よりも、60kgも軽かった。

 また全長3895mmのコンパクトなボディに対し徹底的にオーバーハングを切り詰め、2450mmのロングホイールベースというパッケージにしたことで、ミッドシップとはいえそれほどピーキーさはなく、ブレーキ、コーナリングともに、スタビリティは高めのセッティングになっていた。

 しかも車高に対しトレッドが広め(車高はNBロードスターと同じ1235mm、トレッドは1467.5mm。NBは1427.5mm)なので、FFのエンジン+ミッション流用でエンジンの重心高が高い割に、ロールモーメントが少ないのが美点だった。

 絶対的なパワーや速さは特別光るものはなかったが、車体が軽く、ハンドリングが素直で軽快感がありアンダーパワーとスタビリティの良さという長所を生かした、アクセルの全開率の高い「どこでも踏んでいける」クルマとして、その走りっぷりは高く評価できた。

 安くてミッドシップでオープンで、走りのいいMR-S。ライトウエイトスポーツカーとして完全無欠、欠点などないように思えるが、総生産台数7万7840台で2007年に生産終了。トヨタはスポーツカー冬の時代に突入してしまう……。

なぜMR-Sはこれだけの条件がそろっていたのにヒットしなかったのか

 MR-Sがヒットしなかったのは時代のせいではなく、カッコ悪かったから。ポルシェのボクスターの影響を受けたと思われるそのスタイリングは、運動性能のためにオーバーハングを切り詰めたおかげで、どうにも「寸づまり」な、スポーツカーらしくないボディデザインになってしまった。

 物理的には、スポーツカーとして正しいカタチを採用したのだが、感性の部分では不正解のカタチになってしまったのがMR-Sの悲劇。国産量産車で、はじめてのセミAT=シーケンシャルマニュアルトランスミッション(SMT)を搭載するなど意欲的なクルマだっただけに、今考えても惜しい一台。

 中古車相場では平均66万円ぐらいと、意外に高値なのも希少性と走りの良さが絶版車になってから評価されているからではないだろうか。主観的な問題だということは重々承知しているが、もう少しカッコさえよければ、スポーツカーとして名車の殿堂入りができたはず。そういう意味で本当に惜しい一台だ。

【画像ギャラリー】