5月14日と15日、北京では「一帯一路」国際サミットが華々しく開催された。ロシアのプーチン大統領をはじめ、「現代版シルクロード」の沿線国の首脳が29人も集まり、総勢1500人の参加者という、習近平国家主席の面子をかけた大イベントであった。

 紛争の火種を抱えるパキスタン、トルコ、カザフスタンなどの大統領も出席したため、北京では1カ月前から厳重なテロ対策と警備体制が敷かれた。筆者もこの間、中国に滞在していたが、至るところで検問にあい、往生したものである。

 4年前から準備を始め、アジアとヨーロッパ、そしてアフリカや南米にまで新たな経済圏を誕生させようとする遠大な構想は、まさに「中華帝国の復活」を印象づけるに十分なものといえよう。

 シルクロード基金やアジアインフラ投資銀行など、中国政府が26兆円の資金を提供し、道路、鉄道、パイプライン、港湾、通信インフラを整備するという計画は、資金不足に苦しむ途上国にとっては願ってもない話であろう。

 ベトナムやフィリピン、インドネシアなどは南シナ海の領有権を巡って中国と対立する状況ではありながら、この「一帯一路」計画には無視できない魅力を感じているようだ。

 すでに60近くの国々とインフラ整備に向けての協力文書の交換が行われたという。とはいえ、プロジェクトの具体化は「ラクダの歩み」の如くで、目立った進展はない。

 日本からは自民党の二階幹事長が安倍総理の親書(3枚の毛筆文)を持参し、習近平主席に直接手渡した。会見後、興奮気味の二階氏曰く「中国と日本が協力すれば、できないことはない」。

 尖閣諸島の問題ひとつを取っても解決の糸口が見出せない状況で、そんなに簡単にいくとは思えない。さっそく、麻生財務大臣からは慎重を求める声が出た。

 二階氏は日中友好議員連盟の会長だが、中国が進めるメコン川流域の経済開発計画に暗雲が垂れ込めていることをご存知ないようだ。

 中国南部の雲南省からラオスやタイを流れる890kmのメコン川を新たな物流ルートにしようという「ミニ一帯一路計画」なのだが、早くも暗礁に乗り上げている。

 メコン川に関しては、中国の国営企業が中心となり、河川を広げる工事を地元の同意なしに開始。その結果、流域全体で環境破壊が進み、魚類の収穫が激減している。これに下流域の漁民や農民が猛反発。「メコン川が殺される」と、国際的な環境保護団体からも反対運動が起きた。

 中国とすれば、自国製の商品の販路拡大にメコン川を最大限に活用したいとの考えだが、タイを中心とする下流域の国民の間には、中国式の開発に反発と不信の念が広がっている。

 実は、中国は上流に6カ所のダムを建設しており、更に11ものダムを建設するという。下流域では水量を上流でコントロールされるため、従来のような農業や漁業が成り立たたなくなる恐れが出てきた。タイにとっては死活問題である。

 しかし、話し合いの場は持たれないまま、一方的に中国による河川拡張とダム建設が進んでいる。

 ひとつの大河でこの有様なのだから、ましてや陸と海にまたがる「現代版シルクロード」となると、関係国の利害調整は困難を極める。一事が万事。中国式の札束外交には危険な落とし穴が待ち構えていそうだ。

(国際政治経済学者・浜田和幸)