列車内での痴漢を疑われた人が、逃走中にビルやホームから転落死するケースが相次いでいます。もしも自分が疑われた場合、どのように行動するのがよいのでしょうか。

対処法をめぐって「諸説」入り乱れる

 列車内での痴漢行為を疑われた人が、逃走中にビルやホームから転落し、亡くなるケースが最近、多くなっています。

 2017年5月12日(金)未明、列車内で痴漢をした疑いを持たれた40代の男性会社員が、上野駅で降ろされたあとに逃走。その後、駅近くのビル脇で死亡しているのが発見されました。ビルから転落死したと見られています。

 5月15日(月)夜には、東急田園都市線青葉台駅で、女性から「痴漢行為をした」と訴えられた男性がホームに降ろされたあと、線路に落ちて電車にはねられ、亡くなるという事故も発生しました。


痴漢を疑われて線路を逃走するケースが増えている。写真はイメージ(画像:photolibrary)。

 こうした事態を受けて、メディアやネット上では、「痴漢を疑われた際の行動」に関する議論が過熱していますが、その「正解」をめぐって諸説入り乱れているようです。

「逃走する」はデメリットが大きい

 痴漢を疑われた場合の正しい対処法として諸説あるなか、「逃走する」という見解がありますが、これについて弁護士法人アディーレ法律事務所の吉岡一誠弁護士は「さまざまな意見はありますが、メリットよりもデメリットが大きく、オススメできません」と話します。

 吉岡さんによると、逃走のメリットとしては、現行犯逮捕後に勾留されて長期の欠勤を余儀なくされる、といったリスクの回避を期待できる点があります。しかし、通勤時間帯は逃走が困難であるほか、逃走中に他人を突き飛ばすなどして、ほかの犯罪で逮捕される可能性や、ホームなどから転落して死傷する恐れもあります。

「さらに、駅構内やホームの監視カメラ、IC乗車券の履歴などから特定され、後日逮捕されてしまう可能性も。その場合、『やましいことがあるから逃げた』と判断され、現場にとどまった場合よりも、裁判官の心証が悪くなる可能性があります」(吉岡さん)

 そこで吉岡さんが推奨するのは、あくまでも現場にとどまり、潔白を粘り強く主張すること。その際には、以下のような行動が有効です。

・自分に有利な証言をしてくれる目撃者が現場近くにいないか探してみる。
・被害を受けたと主張する女性に被害状況を具体的に語らせる(認識の食い違いを指摘し、証拠として会話を録音する)。

現場にとどまる? それとも、立ち去る?

 一方で、「逃走」ではなくても、その場を「立ち去る」方法もあります。たとえ無実だとしても、現場にとどまると駅務室に連れられていき、警察に引き渡される可能性があるからです。

「現場にとどまる」と「立ち去る」。そのどちらがよいのか、境界線は非常にあいまいだといいます。

「その場にとどまって無実を主張し、先述のように行動することで、裁判になった場合に役立つ証拠や証言を確保できる可能性があります。しかし、立ち去ってしまえば、それ以上責任を追及されない可能性もあります。ケース・バイ・ケースとしか言いようがないのです。ただし、立ち去る場合は、逃げるつもりがないことを示すために名刺を渡して身分を明かしましょう」(吉岡さん)

 その場を立ち去ったとしても後日、警察から任意の事情聴取を求められることがあります。また、立ち去り際に、被害を受けたと主張する女性や駅員に制止された場合は、無理に振り払ったりしないことが大切だそうです。

【写真】死亡した会社員が降ろされた上野駅


死亡した会社員は上野駅で降ろされ、その後、付近のビルから転落死したとみられる。写真はイメージ(2017年5月2日、乗りものニュース編集部撮影)。