iPhone SE新版は2017年に登場しない? Appleの狙いを考察
●iPhone販売は2017年まで2年連続低調となる予想
「iPhone SEの新版は2017年中には登場しない」というニュースが話題になっている。基となったのはAppleの最新情報では定評のあるKGI SecuritiesのアナリストMing-Chi Kuo氏の最新報告だが、2016年春に登場したiPhone SEの新版は2017年には登場せず、その理由として「利益の最大化」と「iPhone 7とiPhone 7 Plusの販売への影響」を挙げている。登場直後から人気を博し、特に小型端末が好まれやすい日本では人気商品となったiPhone SEだが、何が起こっているのだろうか。Kuo氏の分析の背景から、Appleの狙いまでを考察してみる。
Kuo氏のレポート内容については9 to 5 Macのまとめが詳しいので、こちらを参照しつつ読み砕いていく。同氏はiPhoneの売上は2年連続で減少傾向を見せると予測しており、その理由として挙げている最大の原因が中国での弱い需要で、特に2017年第1四半期での4.7インチ版iPhoneの出荷台数減少を指摘している。この「2017年第1四半期」がAppleの会計年度(FY)か、あるいはカレンダー通りの表記(CY)なのかは不明だが、「2016年第1四半期のiPhone出荷台数が5,120万台」との表記がみられることから、おそらく後者の「CY」が正解だろう。つまりKuo氏は、2017年第1四半期(1〜3月期)の出荷台数が前年を下回る4,000〜5,000万台程度に収まると予想している。そして2017年のiPhone出荷台数をさらに下げる要因となるのは「iPhone SE」の不在で、2016年第2四半期(4〜6月期)の出荷台数はiPhone SEの登場を受けて予想を上回ったものの、2017年はそれがないために年全体としてiPhone販売が低調に収まるというのが同氏の予想だ。なお、2017年第2四半期における出荷台数は2016年の4,040万台を下回る3,500〜4,000万台程度の水準を見込んでいるという。
この状況に対して、Appleは2つの施策で乗り切る意向のようだ。1つは「コスト削減」で、部品メーカーに対してさらに圧力をかけることで製造原価を下げ、結果として利幅を確保する作戦だ。すでに11〜12月のタイミングでこの納入原価引き下げ要請は部品メーカーに伝えられており、交渉が成立した場合は2017年第1四半期の出荷分から反映されてるとみられる。価格引き下げ要請は部品メーカーにとっては死活問題だが、Appleの調達力の大きさや昨今のスマートデバイス市場全体の伸び率鈍化を考えれば工場の稼働率低下は部品メーカーとしても避けたく、結果として要求を呑まざるを得ないのが実情のようだ。一方で、主要部品であるメモリを提供するSamsungなど、こうした圧力をはね除けることが可能な部品メーカーの存在も指摘されており、どこまでコスト削減効果を引き出せるかは不透明だ。
もう1つは「iPhone SEよりもiPhone 7」ということで、より利益率の高いiPhone 7を販売の主軸に据えることで「売上は減っても利益率改善」を目指す作戦のようだ。iPhone SEは登場時、iPhone 6sの最低価格モデルと比較しても100ドル低い値段での販売が行われていたが、実質的な原価はiPhone 6sとそれほど大差がないため、利益率が低下する要因となっていた。後述するが、いくつかの理由でAppleはiPhone SEを積極的に販売したいと考えていたフシがみられ、そのうちの1つがこの利益率にあったと考えている。おそらく現行のiPhone SEは登場から1年後もそのまま販売が継続されるとみているが、実質的に世代落ちした旧製品とのことで緩やかな幕引きを狙っている可能性もある。
●iPhone SEのそもそもの狙いとは? 今後の動向は?
iPhone SEの興味深い点は、例えば日本では発売直後からバックオーダーが積み上がるほどの人気状況だったにもかかわらず、これを改善する気配がまったく見られたなかった点だ。ある国内の携帯キャリアの話によれば、3月末の発売開始から3カ月近くが経過した6月時点でもバックオーダーがたまる一方で減る気配が見えなかったとのことで、普通の商品であればすでに商機を逃していてもおかしくない。この話から1つ考えられるのは、「AppleはそもそもiPhone SEを積極的に販売するつもりがなかった」という仮説だ。
Appleは「iPhone 6/6s/7 Plus」の在庫が逼迫状態でも、積極的に在庫を積み上げるような動きは見せず、基本モデルである「iPhone 6/6s/7」を優先する傾向を見せていた。予想だが、この基本モデルでの販売台数比率を7〜8割程度に設定して、残りの2〜3割程度をPlusシリーズと前述SEのような派生モデルで埋めるような形で、このスタンスを極力崩さないようにしているのではないかとみている。派生モデルはユーザーの意見を広く汲み取るためのイレギュラー的な存在で、あくまで基本モデルありきの考えではないだろうか。
iPhone SEの登場背景の1つは、従来の4インチモデルを好むユーザーのほか、iPhone 5cに見られたような「廉価モデル」を望む層をある程度取り込む意図があったのだろう。一方で廉価モデル投入はiPhoneのビジネスモデルを崩す恐れがあり、「廉価」部分をあまり強調したくなかったと思われる。実際、性能的には同世代のiPhone 6sと同等であり、正直いって値段の割にはお得感が高い。Appleが利益率を下げる「iPad mini」を極力シリーズからフェードアウトさせたかったのに似ている。
iPhone SEが値段の割にスペック的に高機能だったのには政治的背景もあると予想する。iPhone 6sが予想を下回る低調となったことで、「前年比1割増し」程度のオーダー増加を見込んでいたと報じられたiPhone 6sシリーズだが、結果として早期の生産調整と在庫整理を余儀なくされたとみている。とはいえ、1割程度の増加を見込んで発注された部品の取り扱いと在庫調整の兼ね合いもあり、その当面の行き先として選ばれたのがiPhone SEだったといわれている。iPhone SEは複数の分解レポートから、その構成部品はiPhone 5sとiPhone 6sのハイブリッドであることが判明しており、ディスプレイなどのモジュールは5sから、SoCなどの部品は6sからやってきている。つまり、すでにあるiPhone 5sの筐体や部品を流用しつつ、コアの部分ではiPhone 6sで余った部品を組み合わせて最新世代と引けを取らないスペックとなっている。
ここからいえるのは、すでに翌年のiPhone需要を以前よりも高い精度で読めるようになったAppleが同じ轍を踏む可能性は低く、前年の事情から誕生したiPhone SEのような製品がそのままの形で2017年も登場する可能性も低いこと、そして利益面からもiPhone SEを出す理由は薄いという点だ。出す必然性も低く、リフレッシュもなしでゆっくりとフェードアウトしていきたいというのがAppleの本音なのかもしれない。
Appleにとってのはプレッシャーは、次のナンバーモデルといわれる2017年秋登場が見込まれる次期iPhoneだ。有機ELディスプレイ(OLED)を採用してデザイン面で大きな変更が加えられるといわれており、現行で4.7インチと5.5インチというラインナップ構成にも変更が加えられる可能性がある。以前にiPhoneの将来について予測記事を出させてもらったが、成長の止まった現状をAppleが受け入れるのであれば今後しばらくの大きな変化はなく、一方で今後の拡大を本当に望むのであれば予測記事にもあるように大胆なラインナップ拡大を模索する必要があり、2017年はその同社の判断結果が判明する重要な年となるだろう。
(Junya Suzuki)