1

by Sarah Horrigan

抗生物質のきかない「スーパー細菌」の報告が近年増加しており、イギリス政府の発表した報告書によると、2050年にはスーパー細菌が3秒ごとに1人を殺すかもしれないとのこと。耐性を持ったスーパー細菌に対抗するため、新たな抗生物質の開発も行われていますが、ある博士課程の学生が、全く別のアプローチでスーパー細菌に対抗する技術を開発しています。

Combating multidrug-resistant Gram-negative bacteria with structurally nanoengineered antimicrobial peptide polymers : Nature Microbiology

http://www.nature.com/articles/nmicrobiol2016162

How to Kill Antibiotic-Resistant 'Superbugs' Without Antibiotics - Edgy Labs

http://edgylabs.com/2016/10/17/kill-antibiotic-resistant-superbugs-without-antibiotics/



抗生物質は人間の寿命を大きく延ばすことに成功した、20世紀最大の発明の1つと言えます。しかし、近年はペニシリンの発見者であるアレクサンダー・フレミングがノーベル賞の受賞スピーチで語った「無知な人間が細菌を殺すのに十分でない量の薬を服用することで、細菌に抵抗力を持たせてしまう危険があります」という言葉が現実となりつつあり、抗生物質のきかないスーパー細菌の報告が増加しています。バクテリアは繁殖スピードが速く、攻撃力を残したまま弱点を除去して進化していくため、抗生物質は本質的に「より強い」バクテリアを作り出してしまうのです。

また、現在効き目を発揮している抗生物質であっても、体に侵入してきた有害な細菌を殺す際に、細菌の周囲にある人間の健康な細胞にまでダメージを及ぼしてしまうという欠点があります。さらに、胃腸内には消化を助けたり免疫系を強化したりなど、体によい影響をもたらす細菌も多く存在しますが、抗生物質はこれらの細菌が繁殖する環境を破壊してしまいます。



by Gerolf Nikolay

メルボルン大学で博士課程にあるShu Lam氏は、これらの状況を鑑みて、抗生物質を使わないでスーパー細菌を殺す技術を作り出しました。

Lam氏が編み出した方法とは、細菌に生物物理学上のストレスを与えて「自殺させる」というもの。この方法だと、スーパー細菌を殺しても、周囲の健康な細胞にダメージを与えずに済むとのことです。

Lam氏は2つのアミノ酸(ペプチド)から構成されるポリマーを束ねて特殊なナノ粒子を作成。星形をしたこの粒子が細菌の細胞膜を突き破り、最終的に破壊するとのこと。2種類のポリペプチドを合わせることで、ナノ粒子が1つのポリペプチドを使用した時とは異なる特性を得るそうです。

この技術はまだマウスを対象に、6種類のスーパー細菌に対して実験されたという段階ですが、今のところスーパー細菌は、この方法に対して抵抗性を持たなかったとのこと。臨床試験を行うまでにはさらなる実験が必要ですが、スーパー細菌に対抗する大きな可能性を秘めていると見られています。



by Polygon Medical Animation

現在行われている「新しい抗生物質を開発する」という方法は短期的な解決手段にはなり得ますが、結局のところいたちごっこになり、スーパー細菌に対抗するための抜本的な方法にはなり得ません。Lam氏の編み出した方法は、実際にスーパー細菌に対して効力を発揮するという点だけでなく、これまでとは全く異なる革新的アプローチであるという点が高く評価されています。