絶好調「校閲ガール」今夜4話。本田翼と江口のりこのファッションも読み解いてみた
石原さとみがファッション大好きな出版社の校閲部員に扮した水曜ドラマ『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』。放送開始前後からいろいろ騒がれていたが、先週放送された第3話の視聴率はググッと回復して12.8%を記録、依然として絶好調だ。
第3話のテーマは、「好きなことをいかに仕事にするか」だった。物語の中心になるのは、超地味ながら実直な仕事ぶりで信頼されている校閲部員・藤岩りおん(江口のりこ)だ。
河野悦子(石原さとみ)が所属する景凡社校閲部には、あるルールがあった。それは「好きな作家や好きな分野の作品は担当しない」というものだ。作品に対して感情的になったり、のめり込み過ぎたりするとミスが発生するからである。
クールな藤岩も当然の如くルールを守りながら校閲作業を行っていたが、実は女性作家・四条真理恵(賀来千香子)の十数年来の大ファンだった。表向きは四条の作品の校閲を断る藤岩だったが、悦子も気付かなかった部分をこっそりと指摘して四条を感動させる。これは藤岩の持っていた“好き”の力だ。
それでもルールを盾に校閲を引き受けない藤岩に悦子が語りかける。
「あの指摘は、先生の作品を心底好きな人じゃないとできなかった指摘です。藤岩さんにしかできない校閲だったんです。なのに、ルールだからって、他の人が担当するなんておかしいですよ」
校閲部長の茸原(岸谷五朗)は校閲のルールを見直すことを明言し、あらためて藤岩に四条の作品の校閲を依頼する。好きだからこそ、できる仕事もあるということだ。
四条に招待されて文学賞受賞“待ち会”に出席することになった悦子と藤岩だが、藤岩のダサさを見かねた悦子はメイクも服もすべて大改造。藤岩に“鉄パン(鉄のパンツを履いていそうな女)”とあだ名をつけて嘲笑するファッション誌の女性編集者たちを一喝し、待ち会へと向かう――。
“好き”を仕事にするか否かは、よく語られるテーマだ。好きなことを仕事にして、それを存分に楽しめている人は幸せな人だが、世の中全体からしてみれば多くはないだろう。
『校閲ガール』でも、主人公の悦子はファッション誌の編集者を目指していたが、校閲部に配属されて不満タラタラ。藤岩も実は文芸編集者志望だったことが明かされている。悦子の後輩・森尾(本田翼)はファッション誌『LASSY』の編集者として活躍しているが、編集者になりたくてなったわけではないらしい。
みんな、“好き”を仕事にできているわけではない。しかし、藤岩は今回、自分の仕事に自分の“好き”をうまく接続することができた。悦子も好きなファッション誌をむさぼるように読んだときに身につけた力(異様な記憶力など)が校閲に役立っている。
以前の記事で書いたように、「自分の居場所はここなのだろうかと悩みながら、小さな仕事でも一生懸命やっている人たちを応援するドラマ」が『校閲ガール』というドラマのテーマである。今の自分の仕事について悩んでいる人に対する『校閲ガール』からの一つの回答が、仕事に“好き”を接続することなんだと思う。
さて、先週の記事で好評だったファッションからみたドラマ『校閲ガール』の読み解きに今週もトライしてみよう。
ドラマの冒頭、幸人(菅田将暉)に招待されたファッションショーのシーンで悦子が着ているのは、IRENEのビーズレーストップスとビースレーススカートのセットアップ。丸い玉をつなげた特徴的な服で、実はワンピースではない。
上下合わせて20万超えという安アパート住まいの悦子にしてみれば、かなり頑張った価格帯の服で、ファッション業界とイケメンの幸人という憧れがダブっている場所へやってきた悦子の張り切り具合がよく表れたファッションだ。
カラフルでファッショナブルな悦子に対して、ファッション誌編集者のわりに意外と地味なのが本田翼演じる悦子の後輩、森尾である。
ファッションショーで森尾が着ているのは、FRAY I.Dのカシュクールコンビネゾン。コンビネゾンとはいわゆる「ツナギ」の一種で、本田翼にはバッチリ似合っているのだが、悦子の張り切り具合と比べるといかにも地味だ。値段も悦子の服の10分の1程度。ショーでは裏方の仕事もあるので、森尾にとっては“おしゃれな作業着”ということなのかもしれない。
また、編集部にいるときに着ているのは、URBAN RESEARCHのヘリンボンオーバージャケット。ヘリンボンとは“にしんの骨(herringbone)”という意味の織りの名称の一つで、厚手で丈夫なことからワークウェアによく使われる。つまり、このジャケットも“おしゃれな作業着”と言うことができるだろう。
森尾のファッションは雑誌編集者の激務ぶりを表しているのかもしれないが、他の『LASSY』の編集者たちは華やかな服を着ているので、彼女の飾らない性格や「ファッション誌の編集者になりたくてなったわけではない」という経緯と関係しているのだろう。今はまだ目立っていないが、今後、森尾がどのようにドラマに関わっていくのか注目である。
もう一つ注目したいのは、大変身を遂げた藤岩りおんのコーディネートだ。鮮やかな色のオフショルダーのトップスに、花柄があしらわれた大胆なストライプのパンツが印象的だった。
色鮮やかなトップスのニットは、(たぶん)BannerBarrettのAWマロンニットオフショルプルオーバー。こちらは2014年の秋物なので現在は品切れ中。
パンツはh.t.maniacのストライプワイドパンツ。ネットのファッション探偵たち(ドラマに登場する女優さんの服を特定するのが好きな人たちが大勢いる)も探しあぐねていた様子だが、なぜファッション好きの人たちが探せなかったのかというと、実はこのパンツ、メンズだからだ。
思い返してみれば、藤岩りおんの勝負服はクラシカルロリータ(ブランドはたぶんInnocent World)だった。Innocent Worldのブランドコンセプトはその名のとおり「無邪気な世界」「汚れなき世界」で「いつまでも天真爛漫な少女の心を持つ女性」のための服とされている。
少女小説出身(原作の設定)の四条の長年のファンであり、両親の言うことを守って「汚れなき世界」で過ごしてきた藤岩には、ある意味ぴったりな格好だ(親から「おしゃれをするとバカになる」と言われてきた藤岩が、なぜこんな服を持っているのかという矛盾はあるが)。
そんな藤岩にメンズのパンツを履かせるのだから、悦子は藤岩の大幅なイメージチェンジ、ならびに本人の価値観の転倒を図ったと考えることができる。実はh.t.maniacのコンセプトは「かわいい男子」で、このパンツのように花柄やドット柄をモチーフにした服も多い。藤岩も案外、抵抗なく履けたのではないだろうか。
h.t.maniacの親会社であるLois CRAYONのブランドコンセプトは「知的で健康的、可愛く楚々とした女性」に似合う服なので、そのメンズラインを藤岩に着せた悦子の選択は理にかなっている。藤岩役の江口のりこは170センチの長身なので、メンズのパンツも十分履きこなせるところもポイントだ。
悦子の目論見どおりに藤岩が変わっていくのか、それとも変わらないのかは今後のお楽しみというところ。
さて、今夜放送の第4話は、悦子が校閲を担当する女優の自叙伝に関するお話。悦子と幸人と森尾の関係にも進展が見られるかも。
(大山くまお)
参考→「地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子」の原作を絶対読むべき理由
第3話のテーマは、「好きなことをいかに仕事にするか」だった。物語の中心になるのは、超地味ながら実直な仕事ぶりで信頼されている校閲部員・藤岩りおん(江口のりこ)だ。
河野悦子(石原さとみ)が所属する景凡社校閲部には、あるルールがあった。それは「好きな作家や好きな分野の作品は担当しない」というものだ。作品に対して感情的になったり、のめり込み過ぎたりするとミスが発生するからである。
それでもルールを盾に校閲を引き受けない藤岩に悦子が語りかける。
「あの指摘は、先生の作品を心底好きな人じゃないとできなかった指摘です。藤岩さんにしかできない校閲だったんです。なのに、ルールだからって、他の人が担当するなんておかしいですよ」
校閲部長の茸原(岸谷五朗)は校閲のルールを見直すことを明言し、あらためて藤岩に四条の作品の校閲を依頼する。好きだからこそ、できる仕事もあるということだ。
四条に招待されて文学賞受賞“待ち会”に出席することになった悦子と藤岩だが、藤岩のダサさを見かねた悦子はメイクも服もすべて大改造。藤岩に“鉄パン(鉄のパンツを履いていそうな女)”とあだ名をつけて嘲笑するファッション誌の女性編集者たちを一喝し、待ち会へと向かう――。
“好き”を仕事にするか否かは、よく語られるテーマだ。好きなことを仕事にして、それを存分に楽しめている人は幸せな人だが、世の中全体からしてみれば多くはないだろう。
『校閲ガール』でも、主人公の悦子はファッション誌の編集者を目指していたが、校閲部に配属されて不満タラタラ。藤岩も実は文芸編集者志望だったことが明かされている。悦子の後輩・森尾(本田翼)はファッション誌『LASSY』の編集者として活躍しているが、編集者になりたくてなったわけではないらしい。
みんな、“好き”を仕事にできているわけではない。しかし、藤岩は今回、自分の仕事に自分の“好き”をうまく接続することができた。悦子も好きなファッション誌をむさぼるように読んだときに身につけた力(異様な記憶力など)が校閲に役立っている。
以前の記事で書いたように、「自分の居場所はここなのだろうかと悩みながら、小さな仕事でも一生懸命やっている人たちを応援するドラマ」が『校閲ガール』というドラマのテーマである。今の自分の仕事について悩んでいる人に対する『校閲ガール』からの一つの回答が、仕事に“好き”を接続することなんだと思う。
今週の『校閲ガール』ファッションチェック
さて、先週の記事で好評だったファッションからみたドラマ『校閲ガール』の読み解きに今週もトライしてみよう。
ドラマの冒頭、幸人(菅田将暉)に招待されたファッションショーのシーンで悦子が着ているのは、IRENEのビーズレーストップスとビースレーススカートのセットアップ。丸い玉をつなげた特徴的な服で、実はワンピースではない。
上下合わせて20万超えという安アパート住まいの悦子にしてみれば、かなり頑張った価格帯の服で、ファッション業界とイケメンの幸人という憧れがダブっている場所へやってきた悦子の張り切り具合がよく表れたファッションだ。
カラフルでファッショナブルな悦子に対して、ファッション誌編集者のわりに意外と地味なのが本田翼演じる悦子の後輩、森尾である。
ファッションショーで森尾が着ているのは、FRAY I.Dのカシュクールコンビネゾン。コンビネゾンとはいわゆる「ツナギ」の一種で、本田翼にはバッチリ似合っているのだが、悦子の張り切り具合と比べるといかにも地味だ。値段も悦子の服の10分の1程度。ショーでは裏方の仕事もあるので、森尾にとっては“おしゃれな作業着”ということなのかもしれない。
また、編集部にいるときに着ているのは、URBAN RESEARCHのヘリンボンオーバージャケット。ヘリンボンとは“にしんの骨(herringbone)”という意味の織りの名称の一つで、厚手で丈夫なことからワークウェアによく使われる。つまり、このジャケットも“おしゃれな作業着”と言うことができるだろう。
森尾のファッションは雑誌編集者の激務ぶりを表しているのかもしれないが、他の『LASSY』の編集者たちは華やかな服を着ているので、彼女の飾らない性格や「ファッション誌の編集者になりたくてなったわけではない」という経緯と関係しているのだろう。今はまだ目立っていないが、今後、森尾がどのようにドラマに関わっていくのか注目である。
もう一つ注目したいのは、大変身を遂げた藤岩りおんのコーディネートだ。鮮やかな色のオフショルダーのトップスに、花柄があしらわれた大胆なストライプのパンツが印象的だった。
色鮮やかなトップスのニットは、(たぶん)BannerBarrettのAWマロンニットオフショルプルオーバー。こちらは2014年の秋物なので現在は品切れ中。
パンツはh.t.maniacのストライプワイドパンツ。ネットのファッション探偵たち(ドラマに登場する女優さんの服を特定するのが好きな人たちが大勢いる)も探しあぐねていた様子だが、なぜファッション好きの人たちが探せなかったのかというと、実はこのパンツ、メンズだからだ。
思い返してみれば、藤岩りおんの勝負服はクラシカルロリータ(ブランドはたぶんInnocent World)だった。Innocent Worldのブランドコンセプトはその名のとおり「無邪気な世界」「汚れなき世界」で「いつまでも天真爛漫な少女の心を持つ女性」のための服とされている。
少女小説出身(原作の設定)の四条の長年のファンであり、両親の言うことを守って「汚れなき世界」で過ごしてきた藤岩には、ある意味ぴったりな格好だ(親から「おしゃれをするとバカになる」と言われてきた藤岩が、なぜこんな服を持っているのかという矛盾はあるが)。
そんな藤岩にメンズのパンツを履かせるのだから、悦子は藤岩の大幅なイメージチェンジ、ならびに本人の価値観の転倒を図ったと考えることができる。実はh.t.maniacのコンセプトは「かわいい男子」で、このパンツのように花柄やドット柄をモチーフにした服も多い。藤岩も案外、抵抗なく履けたのではないだろうか。
h.t.maniacの親会社であるLois CRAYONのブランドコンセプトは「知的で健康的、可愛く楚々とした女性」に似合う服なので、そのメンズラインを藤岩に着せた悦子の選択は理にかなっている。藤岩役の江口のりこは170センチの長身なので、メンズのパンツも十分履きこなせるところもポイントだ。
悦子の目論見どおりに藤岩が変わっていくのか、それとも変わらないのかは今後のお楽しみというところ。
さて、今夜放送の第4話は、悦子が校閲を担当する女優の自叙伝に関するお話。悦子と幸人と森尾の関係にも進展が見られるかも。
(大山くまお)
参考→「地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子」の原作を絶対読むべき理由