北欧の気鋭小説家が来日 直木賞作家に語った「作品の原点」
来日中のフィンランドの作家、トンミ・キンヌネンさんが21日夜、東京・神楽坂の「la kagu」で、同じく作家の中島京子さんとのトークイベントを行った。
キンヌネンさんのデビュー作『Neljäntienristeys(日本語で「四つ辻」)』は、本国のベストセラーランキングで13週連続1位となる大ヒットとなり、世界16カ国で翻訳出版が決定、このほど邦訳版が『四人の交差点』(古市真由美訳)として新潮社から刊行された。
今回のイベントでは、海外文学に造詣の深い中島さんとの対話を通して、作品の筋立てはもちろん、その構想や、土台にある文化的な背景が明かされていった。
『四人の交差点』は、19世紀後半から約100年間のフィンランドを舞台に、ある一家の営みと交錯する人間の運命を描いた壮大な物語。
キンヌネンさんの曾祖母がモデルになっているという、助産師をしながら自分の家を次々に建て増ししていくことに執心するマリアと、その娘のラハヤ。そしてラハヤの夫・オンニと、彼らの息子の妻であるカーリナの四人の視点からストーリーが語られる。
元々家族であったマリアとラハヤ。そして家族の「外」の視点も持ち合わせるオンニとカーリナでは、同じ出来事でも捉え方や感じ方が異なる。その「ズレ」が組み合わさり、重層的な小説世界が立ち上がる。
この作品で、中島さんが強く印象に残った点として指摘したのは「家」と「女性のたくましさ」だ。
マリアだけでなく大工であるオンニも、必ずしも必要に迫られたといったわけではなく家を建て増ししていく。日本人からするとやや奇妙な印象を受けるが、キンヌネンさんによると、これはある時期のフィンランドの流行だったようだ。
「住み古した家に、新しい建物をくっつけていくから、格好悪い見た目のものが多かったです。元々あった建物が増殖していくことから“cancer(がん)”なんて呼ばれていたり」(キンヌネンさん)
また、この小説で強く印象に残るのは、助産師であるマリアや写真技師となったラハヤなど、自立したタフな女性の存在である。
特にマリアが生きた19世紀後半のフィンランドは、キンヌネンさんいわく「女性が手に職を持つなら教師か助産師という時代。ただ、教師は結婚したら職を離れなければならないという風潮がありました」。
こうした女性たちを物語の中心に置いた理由として、「強くて自立した男性を書いた小説はフィンランド文学にたくさんあり、そうした作品の中では、女性はあくまで男性の周りで何かを感じるだけでした。だから、“誰かの妻”としてでも“誰かの母”としてでもない、自分自身として生きる女性を書きたかったんです」と語った。
キンヌネンさんの英語が平易なものだったこともあり、通訳を介す前に冗談の意味を理解した客席から笑いが起こるなど、会場は終始和やかだったが、後半でキンヌネンさんが母語であるフィンランド語で作品を朗読すると、独特の美しいイントネーションにため息が漏れる場面も。
作品の舞台となった時代のフィンランドの写真も紹介されるなど、訪れた人が楽しさと新鮮な驚きを感じることができるイベントだった。
最後に。イベント中、中島さんは終始作品のあらすじに触れることにかなり慎重になっていたのだが、それはこの物語の最後に残された大きな謎のネタバレにならないようにしていたためだという。その謎の正体とは……。
気になる人は、ぜひ本を手にとって確かめてみてほしい。
(新刊JP編集部・山田洋介)
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『四人の交差点』は、19世紀後半から約100年間のフィンランドを舞台に、ある一家の営みと交錯する人間の運命を描いた壮大な物語。
キンヌネンさんの曾祖母がモデルになっているという、助産師をしながら自分の家を次々に建て増ししていくことに執心するマリアと、その娘のラハヤ。そしてラハヤの夫・オンニと、彼らの息子の妻であるカーリナの四人の視点からストーリーが語られる。
元々家族であったマリアとラハヤ。そして家族の「外」の視点も持ち合わせるオンニとカーリナでは、同じ出来事でも捉え方や感じ方が異なる。その「ズレ」が組み合わさり、重層的な小説世界が立ち上がる。
この作品で、中島さんが強く印象に残った点として指摘したのは「家」と「女性のたくましさ」だ。
マリアだけでなく大工であるオンニも、必ずしも必要に迫られたといったわけではなく家を建て増ししていく。日本人からするとやや奇妙な印象を受けるが、キンヌネンさんによると、これはある時期のフィンランドの流行だったようだ。
「住み古した家に、新しい建物をくっつけていくから、格好悪い見た目のものが多かったです。元々あった建物が増殖していくことから“cancer(がん)”なんて呼ばれていたり」(キンヌネンさん)
また、この小説で強く印象に残るのは、助産師であるマリアや写真技師となったラハヤなど、自立したタフな女性の存在である。
特にマリアが生きた19世紀後半のフィンランドは、キンヌネンさんいわく「女性が手に職を持つなら教師か助産師という時代。ただ、教師は結婚したら職を離れなければならないという風潮がありました」。
こうした女性たちを物語の中心に置いた理由として、「強くて自立した男性を書いた小説はフィンランド文学にたくさんあり、そうした作品の中では、女性はあくまで男性の周りで何かを感じるだけでした。だから、“誰かの妻”としてでも“誰かの母”としてでもない、自分自身として生きる女性を書きたかったんです」と語った。
キンヌネンさんの英語が平易なものだったこともあり、通訳を介す前に冗談の意味を理解した客席から笑いが起こるなど、会場は終始和やかだったが、後半でキンヌネンさんが母語であるフィンランド語で作品を朗読すると、独特の美しいイントネーションにため息が漏れる場面も。
作品の舞台となった時代のフィンランドの写真も紹介されるなど、訪れた人が楽しさと新鮮な驚きを感じることができるイベントだった。
最後に。イベント中、中島さんは終始作品のあらすじに触れることにかなり慎重になっていたのだが、それはこの物語の最後に残された大きな謎のネタバレにならないようにしていたためだという。その謎の正体とは……。
気になる人は、ぜひ本を手にとって確かめてみてほしい。
(新刊JP編集部・山田洋介)
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