躊躇して出した藤春(4番)右足に当たり、ボールは自陣のゴール方向へ。植田のカバーも間に合わず、オウンゴールとなった。写真:JMPA/小倉直樹

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リオ五輪グループリーグ第2戦]日本2-2コロンビア/現地8月7日/アレーナ・アマゾーニア
 
 65分、目を疑いたくなるような“まさか”の光景が起こった。

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 コロンビアのカウンターを受けた日本は、ドルラン・パボンに侵入を許したが、GK中村航輔が飛び出して足でシュートを弾き、ピンチを脱したはずだった。しかし、こぼれ球の先にいた藤春廣輝は、一瞬クリアするようなモーションを取ったがすぐに自重。転がって来たボールはそのまま右足に当たってゴール方向へ飛んだ。ゴールマウスに入った植田直通が懸命にかき出したが、ラインを割ったとの判定が下され、藤春のオウンゴールが記録された。
 
 1失点目からわずか6分、2失点目を喫した要因はどこにあったのか。まず、右SBの室屋成は次のように振り返る。
 
「(1点取られて)チーム全体が得点を取りに行こうとして、ちょっと前がかりになったなかでショートカウンターを食らってしまった。試合の流れをもう一回自分たちに持ってくることが重要だったので、あのなかで落ち着いて、正確に(パスを)つながないといけなかった。そこはチームとして反省しなきゃいけないところだと思います」
 
 では、ボールを掻き出しながら失点となってしまった植田はどのように思っていたのか。本人としては、藤春のミス云々よりも、自分がもう少し早く反応できていれば避けられたという。
 
「僕がもう少し早く判断できていれば、(ゴールを割らせなかった)というところでもありました。ちょっと悔いが残りますね」(植田)
 
 そして、最も気になるのが藤春本人の言葉である。試合後、ミックスゾーン(取材エリア)に姿を現わした背番号4は、目を真っ赤に腫らし、言葉を詰まらせながらやっとのことで答えを絞り出した。
 
「(失点の場面は)本当に覚えていないくらいの感じで。クリアしようと思った時には足に当たっていた……。迷いがあった? そうですね。みんなが『気にせんでいい』みたいな感じで言ってくれたし、何とか次につながったんで……」
 
 一瞬の迷いが、状況判断と動きを鈍らせ、思わず出した足に当たってしまった、というのが事の顛末である。もしこの試合で負けていたら、グループリーグ敗退が決定していただけに、決して犯してはいけないミスだった。しかし、幸いにも浅野拓磨、中島翔哉のゴールで同点に追いつき、第3戦に望みをつないだのは、藤春にとってはせめてもの救いだろう。
 
 あまり多くを語らず、会場を後にした藤春の気持ち、そしてチーム全体の気持ちを代弁するかのように、チーム最年長の興梠慎三が口を開く。
 
「(藤春が泣いていた?)えっ、そうなんですか? まあ、オーバーエイジという責任感がありますからね。でも、そんなに背負う必要もないのかなと。プレーにそれが出ているとはみなさんも見ていて思っているはずなので。チームのために何かしないといけない気持ちは、オーバーエイジ3人とももちろんある。ただ、それが裏目に出ることだけは避けたい。ハル(藤春)らしいプレーをしてくれれば、絶対チームの力になると思います」
 
 室屋も、今はとにかく前を向くしかないと話す。
 
「(オウンゴールは)チームの失点なので、そんなに気にすることじゃないかなと。特に、(短期決戦の)大会なのでひとつの失点で落ち込んでいる場合でもない。僕も前回(ナイジェリア戦で)失点に絡んでいるのもありますし、反省するのは大会終わってからでもいいと思います。まだ勝ち上がれるチャンスがあるので、今はとにかく前を向いて行くだけです」
 
 藤春はこの試練を乗り越えることができるか、彼の真価が問われようとしている。

取材・文:小田智史(サッカーダイジェスト特派)