人工知能は「道具」か、「仲間」か？
今年3月の、Googleの囲碁プログラム「AlphaGo」が世界トップクラスのプロ棋士を破ったというニュースは衝撃的でした。しかもAlphaGoは単に強いだけじゃなく、プログラム的には囲碁の定石はおろかルールも組み込まれておらず、人工知能が自分で学習してそこまで強くなったというから驚きです。今回はそんな「人工知能」の歴史と未来について、TOKYO FMの番組の中で詳しい方々に教えてもらいました。
（TOKYO FM「ピートのふしぎなガレージ」6月25日放送より）
◆「人工知能は道具か仲間か」
〜電気通信大学大学院情報システム学研究科教授/人工知能学会理事 栗原聡さん
「人工知能」という言葉に定義はありません。人工臓器や人工雪など「人工○○」はいろいろありますが、普通は「○○」の部分がよくわかっていて、それを人工的に作り出します。ところが「知能」が何かということがあいまいなので、人工知能もコレという定義がないんです。最近は将棋や囲碁で人間に勝つ人工知能が話題ですが、実は立って歩くとか物を取るとか、人間にとってあたり前のことを再現するほうが人工知能にとっては難しいと言われています。たとえば人間は何気なく会話をしています。でも現在の人工知能にちゃんと息の合った会話ができるかというと、意外とできていないんです。
人間にできるのに人工知能にできないということは、何か足りないものがあるはず。コンピュータは人間よりもはるかに多くの知識を持つことができるのでQ&Aのような対話は得意です。でもその場を楽しんだり、相手を気遣ったりするような対話はなかなか難しいでしょう。「大人の人工知能と子供の人工知能」という言葉があるのですが、大人のように論理的に考える人工知能は実現しやすい。しかし子供のように感情的に話す人工知能は難しい。そして人工知能を人間らしくするためには後者が重要だと考えられています。
ちなみにハリウッドには「ターミネーター」など人工知能が登場する映画がたくさんありますが、総じて暗い雰囲気で、最後は人工知能が人間と戦うお話だったりします。ところが日本では「ドラえもん」のように人工知能が普通に人間社会に溶け込んでいるんです。これは人工知能が「道具」なのか「仲間」なのかという認識の違いだと思います。欧米は一神教で、人間は特別な存在とされます。それに対して日本は八百万の神で、あらゆる存在が協力し合うことで社会ができているという考え方が根底にある。その中のひとつに人工知能が入ってきたと考えれば、人工知能もすんなり社会に入っていける可能性があるのではないでしょうか。
◆「チャットボットが世界を変える!?」
〜フリーライター 佐野正弘さん
人間の代わりに何かをしてくれるプログラムをボットと呼びます。ロボットを縮めてボットなんですが、それを LINEやFacebook Messengerなどのチャットサービスに応用したのが「チャットボット」です。航空会社のチャットボットに「○月○日の飛行機は空いているか？」と話しかけると、ボットがデータベースを検索して答えを返し、空いていれば予約もしてくれる……こんなサービスで将来はウェブやアプリを置き換えるのではないかと注目を集めています。
今のところチャットボットで多いのは娯楽系です。日本ではLINEの「りんな」が有名ですが、これは女子高生風の会話を楽しめるチャットボットです。そのりんなのベースになっているのは「シャオアイス」というマイクロソフト中国が開発した人工知能で、シャオアイスはチャットに限らず幅広い用途に活用されています。たとえばYouTubeのような動画サイトで普段見ている動画からオススメ動画を探してきたり、ネット通販で過去の履歴からオススメ商品を提案したり。こんなボットが中国のウィーチャットというサービスの中で提供されているんです。ただ、そのアメリカ版「Tay（テイ）」はTwitterのボットだったんですが、差別的な発言を学んで問題を起こし停止されたことで話題になってしまいましたが。
こんなチャットボットが盛んなのは中国です。中国はスマートフォンのメーカーが非常に伸びていて、研究開発にもどんどんお金を注ぎ込んでいます。しかも中国人は多少のリスクがあっても新しい物をどんどん使うので、新しいサービスが普及しやすいんです。先ほどのウィーチャットでも銀行口座を登録してQRコードを表示させるとお店で決済できるサービス「ウィーチャット・ペイ」がものすごい勢いで普及しつつあります。さらにそこに人工知能が絡んでくると大きな変化が訪れるでしょう。そういう意味で中国に注目が集まっています。
◆「自分で進化を始めた将棋プログラム」
〜将棋プログラム「Ponanza」開発者 山本一成さん
コンピュータが将棋やチェスをやる際に考えることは、極端に言えば2つだけです。ひとつは先を読むことで、1秒間に100万という手を計算します。そしてもうひとつが読んだ盤面を評価すること。この評価がコンピュータにとっては難しいんです。
将棋の優劣はなかなか言葉にしづらいのですが、これは「ボールを投げる」という動作を言葉で説明しようとしても、腕や足の角度やスピードなどでは説明できないのに似ています。人間がやっていることは必ずしも言葉になるとは限りません。特に職人芸は言葉にならないから職人芸なんです。将棋も「どうしてプロはそう考えたのか」を言葉にすることはできません。
そんな人間自身が説明できないことを人工知能にやらせようというのが難しいんです。人工知能はプログラム言語という数字と英語を足したような言葉で書かれています。プロの話を聞いたりしながら将棋の強いプログラマーが一生懸命にその言葉で将棋のことを書いたのですが、どうしても書き尽くすことはできませんでした。
そこで考えられた秘策が「機械学習」です。ある将棋の盤面を見れば、どういう思考過程を経たのかはわからなくても、プロはこう指すということは学べます。それを丸暗記するのではなく「王の横に金がいるといい」「飛車の周りは駒が少ないほうがいい」などのエッセンスを抽出して学習していく。これが機械学習です。
だから将棋の人工知能プログラムは膨大なデータベースを参照しているわけではありません。その時その時で先を読んで判断しているんです。プログラマーはコーチのように正しく学習できているかを調整する役割を担うのですが、コンピュータの指した手をプログラマーが理解できないこともあります。さらに最近のPonanzaはプロの手だけでなく、自分で探索した結果をフィードバックして、自分自身で成長を始めています。
TOKYO FMの「ピートのふしぎなガレージ」は、《サーフィン》《俳句》《ラジコン》《釣り》《バーベキュー》などなど、さまざまな趣味と娯楽の奥深い世界をご紹介している番組。案内役は、街のはずれの洋館に住む宇宙人（！）のエヌ博士。彼のガレージをたまたま訪れた今どきの若者・新一クンと、その飼い猫のピートを時空を超える「便利カー」に乗せて、専門家による最新情報や、歴史に残るシーンを紹介します。
あなたの知的好奇心をくすぐる「ピートのふしぎなガレージ」。7月2日（土）の放送のテーマは《ソーダ》。お聴き逃しなく！
【あわせて読みたい】
★「ももクロが、”音楽界のカレー王”に美味しいカレーの作り方を学ぶ！」（2016／6／26） http://tfm-plus.gsj.mobi/news/ormz8npSZE.html
★「ビニール傘」のルーツ、知ってますか？（2016／6／25） http://tfm-plus.gsj.mobi/news/630CRYtdoJ.html
★新婚生活「私は妻のコレにドン引きました」食生活編（2016／6／19） http://tfm-plus.gsj.mobi/news/a7DvTMq4uV.html
＜番組概要＞
番組名：「ピートのふしぎなガレージ」
放送エリア：TOKYO FMをはじめとする、JFN全国37局ネット
放送日時：TOKYO FMは毎週土曜17：00〜17：50（JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください）
番組Webサイト：http://www.tfm.co.jp/garage
（TOKYO FM「ピートのふしぎなガレージ」6月25日放送より）
人工知能は「道具」か、「仲間」か？
◆「人工知能は道具か仲間か」
〜電気通信大学大学院情報システム学研究科教授/人工知能学会理事 栗原聡さん
「人工知能」という言葉に定義はありません。人工臓器や人工雪など「人工○○」はいろいろありますが、普通は「○○」の部分がよくわかっていて、それを人工的に作り出します。ところが「知能」が何かということがあいまいなので、人工知能もコレという定義がないんです。最近は将棋や囲碁で人間に勝つ人工知能が話題ですが、実は立って歩くとか物を取るとか、人間にとってあたり前のことを再現するほうが人工知能にとっては難しいと言われています。たとえば人間は何気なく会話をしています。でも現在の人工知能にちゃんと息の合った会話ができるかというと、意外とできていないんです。
人間にできるのに人工知能にできないということは、何か足りないものがあるはず。コンピュータは人間よりもはるかに多くの知識を持つことができるのでQ&Aのような対話は得意です。でもその場を楽しんだり、相手を気遣ったりするような対話はなかなか難しいでしょう。「大人の人工知能と子供の人工知能」という言葉があるのですが、大人のように論理的に考える人工知能は実現しやすい。しかし子供のように感情的に話す人工知能は難しい。そして人工知能を人間らしくするためには後者が重要だと考えられています。
ちなみにハリウッドには「ターミネーター」など人工知能が登場する映画がたくさんありますが、総じて暗い雰囲気で、最後は人工知能が人間と戦うお話だったりします。ところが日本では「ドラえもん」のように人工知能が普通に人間社会に溶け込んでいるんです。これは人工知能が「道具」なのか「仲間」なのかという認識の違いだと思います。欧米は一神教で、人間は特別な存在とされます。それに対して日本は八百万の神で、あらゆる存在が協力し合うことで社会ができているという考え方が根底にある。その中のひとつに人工知能が入ってきたと考えれば、人工知能もすんなり社会に入っていける可能性があるのではないでしょうか。
◆「チャットボットが世界を変える!?」
〜フリーライター 佐野正弘さん
人間の代わりに何かをしてくれるプログラムをボットと呼びます。ロボットを縮めてボットなんですが、それを LINEやFacebook Messengerなどのチャットサービスに応用したのが「チャットボット」です。航空会社のチャットボットに「○月○日の飛行機は空いているか？」と話しかけると、ボットがデータベースを検索して答えを返し、空いていれば予約もしてくれる……こんなサービスで将来はウェブやアプリを置き換えるのではないかと注目を集めています。
今のところチャットボットで多いのは娯楽系です。日本ではLINEの「りんな」が有名ですが、これは女子高生風の会話を楽しめるチャットボットです。そのりんなのベースになっているのは「シャオアイス」というマイクロソフト中国が開発した人工知能で、シャオアイスはチャットに限らず幅広い用途に活用されています。たとえばYouTubeのような動画サイトで普段見ている動画からオススメ動画を探してきたり、ネット通販で過去の履歴からオススメ商品を提案したり。こんなボットが中国のウィーチャットというサービスの中で提供されているんです。ただ、そのアメリカ版「Tay（テイ）」はTwitterのボットだったんですが、差別的な発言を学んで問題を起こし停止されたことで話題になってしまいましたが。
こんなチャットボットが盛んなのは中国です。中国はスマートフォンのメーカーが非常に伸びていて、研究開発にもどんどんお金を注ぎ込んでいます。しかも中国人は多少のリスクがあっても新しい物をどんどん使うので、新しいサービスが普及しやすいんです。先ほどのウィーチャットでも銀行口座を登録してQRコードを表示させるとお店で決済できるサービス「ウィーチャット・ペイ」がものすごい勢いで普及しつつあります。さらにそこに人工知能が絡んでくると大きな変化が訪れるでしょう。そういう意味で中国に注目が集まっています。
◆「自分で進化を始めた将棋プログラム」
〜将棋プログラム「Ponanza」開発者 山本一成さん
コンピュータが将棋やチェスをやる際に考えることは、極端に言えば2つだけです。ひとつは先を読むことで、1秒間に100万という手を計算します。そしてもうひとつが読んだ盤面を評価すること。この評価がコンピュータにとっては難しいんです。
将棋の優劣はなかなか言葉にしづらいのですが、これは「ボールを投げる」という動作を言葉で説明しようとしても、腕や足の角度やスピードなどでは説明できないのに似ています。人間がやっていることは必ずしも言葉になるとは限りません。特に職人芸は言葉にならないから職人芸なんです。将棋も「どうしてプロはそう考えたのか」を言葉にすることはできません。
そんな人間自身が説明できないことを人工知能にやらせようというのが難しいんです。人工知能はプログラム言語という数字と英語を足したような言葉で書かれています。プロの話を聞いたりしながら将棋の強いプログラマーが一生懸命にその言葉で将棋のことを書いたのですが、どうしても書き尽くすことはできませんでした。
そこで考えられた秘策が「機械学習」です。ある将棋の盤面を見れば、どういう思考過程を経たのかはわからなくても、プロはこう指すということは学べます。それを丸暗記するのではなく「王の横に金がいるといい」「飛車の周りは駒が少ないほうがいい」などのエッセンスを抽出して学習していく。これが機械学習です。
だから将棋の人工知能プログラムは膨大なデータベースを参照しているわけではありません。その時その時で先を読んで判断しているんです。プログラマーはコーチのように正しく学習できているかを調整する役割を担うのですが、コンピュータの指した手をプログラマーが理解できないこともあります。さらに最近のPonanzaはプロの手だけでなく、自分で探索した結果をフィードバックして、自分自身で成長を始めています。
TOKYO FMの「ピートのふしぎなガレージ」は、《サーフィン》《俳句》《ラジコン》《釣り》《バーベキュー》などなど、さまざまな趣味と娯楽の奥深い世界をご紹介している番組。案内役は、街のはずれの洋館に住む宇宙人（！）のエヌ博士。彼のガレージをたまたま訪れた今どきの若者・新一クンと、その飼い猫のピートを時空を超える「便利カー」に乗せて、専門家による最新情報や、歴史に残るシーンを紹介します。
あなたの知的好奇心をくすぐる「ピートのふしぎなガレージ」。7月2日（土）の放送のテーマは《ソーダ》。お聴き逃しなく！
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★新婚生活「私は妻のコレにドン引きました」食生活編（2016／6／19） http://tfm-plus.gsj.mobi/news/a7DvTMq4uV.html
＜番組概要＞
番組名：「ピートのふしぎなガレージ」
放送エリア：TOKYO FMをはじめとする、JFN全国37局ネット
放送日時：TOKYO FMは毎週土曜17：00〜17：50（JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください）
番組Webサイト：http://www.tfm.co.jp/garage
