阪神の原口文仁が金本知憲監督の掲げる「超変革」の中心として活躍している。7年目の今季、3年ぶりに支配下登録されると、5月は打率.380、5本塁打、17打点の好成績で月間MVPに選出。一躍「虎の正捕手」となった原口の好調を支えるポイントは何なのか。かつて阪神、楽天、巨人で捕手としてプレーした中谷仁氏が解説する。

 交流戦最後の試合となった6月20日のオリックス戦で、原口選手は8回に決勝の2ランを放つなど、依然、好調を維持しています。この試合は不振のゴメスに代わり「3番・一塁」でスタメン出場しましたが、クリーンアップを打てる勝負強さ、打力はあると思います。

 片岡篤史バッティングコーチに話をうかがうと、「数字は出ているし、打撃で直すところはない」と評価していました。バッティングの最大の特長は「体が開かないこと」で、長くボールを見ることができるから、どんな球種に対しても対応できる。それに芯を外されたとしてもしっかり振り切ることができているので、野手の間に落ちることが多く、それが高打率につながっています。

 原口選手のバッティングでもうひとつ特徴的なのが構えです。初めからトップの位置に近い状態でバットを構えています。弓矢でいえば、すでに弓をいっぱいに引いている状態で、あとは手を離すだけ。

 この打ち方のいいところは、無駄な動きがないので目線がぶれにくい。つまり、ボールに対して強いスイングでコンタクトする確率が高くなります。片岡コーチも「まだ先に引っ掛かることもあるし、詰まることもある。でも、強いスイングでコンタクトできているからヒットになる」と話していました。

 バッターは打席に入ってから構えるまで、それぞれのルーティンがあって、いろんな動きをします。そのとき、構えの位置とトップの位置が違いすぎると、スイングにズレが生じてしまう。余計な力が入るため、バットの出も悪くなり、スイング軌道もおかしくなる。だけど原口選手は構えとトップの位置がほとんど変わらないので、非常にスムーズにバットが出ます。

 一方、捕手としての能力はどうなのか。バッテリー担当の矢野燿大コーチに聞くと、「試合に対する準備はまったく問題ないし、練習もよくする。対戦相手の研究も熱心にしている」とまじめな性格を評価していました。

 ただ、捕手というポジションは経験が大きく影響してきます。矢野コーチが懸念していたのは、これから相手が原口選手の配球に慣れてしまうこと。対戦が一回り、二回りすればバッターは対応してきます。これは捕手として試合に出る以上、避けては通れない。相手チームに配球パターンや癖を見破られてきているのも事実です。言い換えれば、そこを乗り越えることができれば、本当の意味で阪神の正捕手になったといえます。

 私も現役時代、当時の二軍監督やバッテリーコーチだった木戸克彦さんにいろいろと教えていただきましたが、一番印象に残っているのが「配球とリードは別」ということです。

 リードというのは、ミットの構え方や、投手や野手に対しての指示、打たれたときの態度など、ドーンと構える姿勢が大事だと教えられました。楽天時代に指揮官だった野村克也監督もそうした気配りや雰囲気を求めていました。原口選手を見ていると、そうした雰囲気、リードの資質はあるように感じます。

 阪神の正捕手になる選手の系譜を見ても、やはり打てないと務まりません。原口選手も腰を痛めて育成選手になったとはいえ、かつてファームの4番打者としてプレーしていましたし、打撃面では誰もが認める結果を残しています。

 矢野コーチも現役時代、勝負強い打撃で何度もチームを勝利に導きましたが、それよりも扇の要にいることでチームに安心感を与えていました。打つことはもちろん大事なことですが、捕手として試合に出る以上、投手や野手から信頼を得ないといけません。

 いま原口選手は矢野コーチと一緒にひとつずつ課題と向き合いながら、成長の階段を上っているところです。たぐい稀なバッティングセンス、研究熱心なまじめな性格......チームにとって欠かせない存在になるのはもちろん、球界を代表する正捕手になる可能性は十分に秘めていると思います。これからのさらなる活躍に期待したいですね。

中谷仁●解説 analysis by Nakatani Jin