城繁幸『日本型「成果主義」の可能性』
実力のある者に報い、労働者のモチベーションを高め、企業の業績を上げる。そんな「バラ色の未来」をもたらすといわれた人事制度「成果主義」。90年代末からブームが巻き起こり、6〜8割の企業が導入していると言われるこの制度に、経営者・労働者の双方が失望し始めている。

 財団法人労務行政研究所(猪股靖理事長)が3月にまとめた成果主義についての調査によると、労使ともに約9割が「問題あり」と感じている。「機能しているか」という問いに対しては、経営側の7割が肯定的な回答をしたものの、労働側は「どちらかといえば機能している」が4割で、「機能している」と回答した企業は1社もなかった。

 本書はまず、従来の「年功序列」制度から解説を始め、旧制度の中での「競争」や、旧制度そのものが機能しなくなった原因について丁寧に説明する。次に、成果主義への移行が避けられないものだと指摘した上で、多くの企業の成果主義で主役となっている「目標管理制度」の問題点を解説し、管理職の役割や従業員へのキャリアの与え方など組織のあり方を抜本的に見直す必要性を強調する。そして、あるべき「日本型成果主義」の姿を模索する。

 本書の最大の特徴は成果主義の成功事例を実例を用いて示したこと。内部告発本としてベストセラーになった前作『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』では、成果主義の実務経験者として一企業の状況を描写しただけだった。が、出版後に人事コンサルタントとして数多くの成果主義のスタイルを観察した著者は、本書では成果主義の可能性を説得力のあるかたちで論じた。

 体系的な「成果主義」論を期待する読者には物足りないかもしれない。しかし、人事制度は結局、企業の特質や時代によって調整すべきものなので、「成功か失敗か」や「こうすればうまくいく」式の大雑把な議論は意味がない。成果主義を導入している企業で働くサラリーマンや導入を検討している経営者は、本書を「人事制度に対する『定期検診』代わりに」利用してみてはいかがだろうか。(東洋経済新報社、1575円)【了】

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