慶応義塾野球部副部長 上田 誠氏( 前野球部監督) 『名将が語る新入部員に贈る言葉』

写真拡大 (全2枚)

 2005年春。選抜では実に45年ぶりとなる甲子園大会出場に導いた慶應義塾前監督・上田 誠氏。久しぶりの甲子園登場となった第77回選抜高校野球大会では、並み居る強豪を次々と倒し、ベスト8進出を決めた。

 その後も、2008年春からは3季連続で甲子園出場を果たすなど、伝統校であり、さらに受験難関校でありながら、しっかりと文武両道を果たしているチームとしても、慶應義塾の野球部に大きな注目が集まった。その時に話題となったのが、チームスローガン「エンジョイ・ベースボール」だ。選手たちがグラウンドの中で、伸び伸びとプレーをする。試合の中では、選手は指示待ちではなく、選手自身でその時のベストな判断を下し、それによって何度も勝機を掴んできた試合も少なくない。

 昨今では当たり前のようになってきた「選手の自主性を重んじる指導」。当時の慶應義塾は、まさにその先駆けでもあった。そして、45年ぶりに甲子園出場に導いた年から10年。昨夏の神奈川大会を最後に、上田氏は監督を退任。現在は、慶應義塾の野球部副部長として、野球部に携わっている。

 今回はそんな上田氏に、この春、「新高校球児」となった全国の1年生部員たちに、高校野球で活躍するためのメッセージをいただきました。

自分のブレイクする時期をイメージしよう!

慶応義塾高校 前野球部監督・上田 誠氏

 上田誠氏談

 どんな選手でも、野球が好きで、計画性を持って体作りをして、メンタルを鍛えていったら、ものすごい選手になる可能性は秘めています。だから、まずはあせらないこと。自分がブレイクするタイミング(時期)を自分でイメージできるようになって欲しいですね。本来は、指導者の方が、『キミはまだ、この部分が足りないけど、今年の秋にブレイクすることを目標に、今はこれをできるようにしよう』と示してあげられれば、計画は立てやすくなります。

『自分のブレイクは今年の9月か!それなら、それまでにバットを振って、体重を10キロ増やそう』とか、目に見えた目標を設定できるようになります。そういった計画も、自分で考えられる選手にならないと1つ上のレベルには到達できません。

 これまでの慶應義塾出身の選手でいえば、昨年のドラフトで巨人から5位指名された山本 泰寛(慶應義塾−慶応義塾大)や谷田 成吾(慶應義塾−慶応義塾大−JX-ENEOS)も、入学時から意識は高かったです。入学時から、大学でプレーしたい、プロになりたいなどのビジョンが明確です。山本も矢田も、それぞれのブレイクしたタイミングは違いましたが、それでも2人とも新入生の頃から、自分で考えて取り組める選手でした。

[page_break:先輩のプレーを見て盗め!それが一番の上達のコツ]先輩のプレーを見て盗め!それが一番の上達のコツ

慶応義塾高校 前野球部監督・上田 誠氏

 まずは、今年の夏とか、今年の秋とか、中期的なプランを立てて野球をやってもらいたいですね。具体的に何をイメージすればいいのか、どこを目指せばよいのか分からない選手は、自分のチームの3年生のレギュラーの選手とか、先輩のプレーを見る機会は多いと思うので、今の自分と比べてどこが違うのかを考えてみると良いと思います。

 この時期は、1年生であれば練習試合で塁審やボールボーイをやる機会が多いと思いますが、その時に、先輩のプレーをみて、バッティングでも守備でも、一緒にタイミングを取っている選手は上手くなりますね。一方で、ボーっとしているだけの選手は伸びません。そういうところから力をつけられますし、もし一緒にノックが受けられるなら、自分が守るよりも、後ろで先輩の動きを見ているだけでも上手くなります。

『この人は、こうやってスタート切っているんだ』『グラブをこうやって使うんだ』とか、見て盗むことが一番いいです。人のことをジーッとみている選手は上手くなりますよ。マネから始めているうちに、そのうちに自分のものになりますから。だからチームの中で憧れの人を一人作るといいです。先輩でも同級生でも、“見て盗む”それを最初にしてもらいたいですね。

1年生のうちは全員がホームランバッターを目指す!

 慶應義塾では、入学してからはどんな体格であっても、全員がバットを長く持ち、そのバットをしっかりと振れるように練習します。特に中学時代に、体が細い選手はバットを短く持たされて、バントとゴロを打ってランナーを進めることだけ練習させられた選手もいるかもしれませんが、それはもったいない。高校に入ったら、体も成長します。どのタイミングで大きく成長するか分かりませんから、選手たちには、『ホームラン打たないと使わないぞ』って最初に話します。

 長くバットを持って、しっかり振れるように、ウエイトをやったり、プロテインを飲んだり、それを続けるうちにだんだんと打てるようになってくる。それができるようになった後に、上級生になってから、他の選手と比べて、それぞれの打者としての役割は考えることもありますが、1年のうちからバットを短く持っていたら、良い選手になれるわけがない。僕はそう考えています。

[page_break:スローイングが上手いと出場機会が増える?!]スローイングが上手いと出場機会が増える?!

慶応義塾高校 前野球部監督・上田 誠氏

 誰でもそう言いますが、守備において、やっぱりキャッチボールは大切です。キャッチボールを見ていれば、その選手の素養が分かります。ボールへの入り方から、パチンと取って、握りかえて投げる。その身のこなしや、ボールに対する反応。これを適当にやっていると、選手としての先はありません。下半身を使わなくても投げられますが、投げる動作は、下からの連動です。ステップを踏み方、腕の使い方、体幹の使い方、肩甲骨の使い方。ポイントはたくさんありますが、それを知っているのと知らないのとでは、大きな差がでます。

 また、スローイングがしっかり出来るようになると、守備が出来ると評価されて、(人数が多いチームなら)まずは2軍戦に出られるようになります。スローイングが出来れば、守る場所が与えられます。守備につければ、1試合で4打席与えられる。代打だと1打席だけですから、守れる選手の方が圧倒的にチャンスは広がるわけです。

『守る=なに?』と聞かれたら、守る要素のうちの60%を占めているのがスローイングです。スローイングが出来る選手は守れます。だからこそ、スローイングの練習は1年生であれば、まずはしっかりとやってほしい。スローイングは捕球の動作から始まるので、相手が投げた瞬間から、パッと自分が取って投げやすいところに動く。

 慶應義塾では、それを“コンタクト&リリース”という言葉で表現します。コンタクトはバットとボールが衝突した瞬間のこと。リリースは投手や野手が、ボールを(自分の手から)離す瞬間のこと。そのコンタクト&リリースの瞬間に、ものすごく意識を集中させる。それが、目の訓練にもなるんです。これに自然と体が反応して動くようになったら、野球選手として一人前です。これは、キャッチボールだけでなくても、トスバッティングでもバットとボールが当たった瞬間。バッティングの時も、ピッチャーからボールが離れた瞬間。どんな時でも、“コンタクト&リリース”の瞬間をものすごく注意深く見る。1年生には、とくに大事なことですよね。たかだかキャッチボールでも、そういったことを意識しているだけで、十分に上手くなるんです。

上田 誠氏からのメッセージ

 僕は歳を取っても、いまだに野球が好きで、どうしたら上手くいくのか、そんなことばかり考えています。人間形成とか礼儀正しさとか、そういうことも高校野球には大切かもしれませんが、選手たちには、もっと純粋に野球を好きになってほしい。そして、次の世代に野球の楽しさを広めてほしい。高校生たちは、そういう役割を持っていると考えています。野球を好きになって面白くてしょうがないという状態になって、次の世代に、そのたすきをつないでほしいというのが僕からのメッセージです。

注目記事・【4月特集】新高校球児のための入部ガイド