慶應義塾vs桐光学園
先発・木澤(慶應義塾)
慶應義塾・木澤 尚文(3年)、桐光学園・中川 颯(3年)の投手戦が予想されたが、投手戦でありながら得点が散発的に入る展開で十分に楽しめた。慶應義塾は7安打中6本が単打で5得点できたのは桐光学園のミスに付け込めたからだ。0対1でリードされた5回表、1死二、三塁の場面で西澤 俊哉(3年)が放ったライトへの打球を右翼手が後逸し2者が生還、さらに三塁走者の西澤がスクイズで生還し、4本の単打で3得点をあげる効率のよさ。
8回には2つの死球とキャッチャーの一塁悪送球で2死満塁の局面を作り、5番の堀内 一優(3年)が2人を迎え入れるセンター前ヒットを放ち試合を決定づけた。
桐光学園は対照的に9安打中5本が長打という迫力ある攻撃で押しまくったが、決定打不足で9残塁の山を築いてしまった。2回はノーアウトから先頭打者が四球で出塁したが、1死後、8番打者のレフト線への鋭いライナーで一塁走者が飛び出して併殺。4回はノーアウトから先頭の中川がセンター前ヒットを放って出塁したが、5番打者がバントを2つファールにしたあとの4球目を打って投手ゴロ併殺という効率の悪さだった。
驚かされたのは慶應義塾高の外野シフトだ。左打者のときは極端に左に寄り、右打者のときは極端に右に寄るというのが基本で、2回の1死一塁の場面ではそのシフトが見事にはまった。しかし、1回に2番の渡部 遼人(2年)が放った打球は無人のライトを転々とし、渡部は俊足を駆って三塁打にした(三塁到達タイムは超高校級レベルの11.32秒)。私の見た感じでは外野シフトが功を奏したのと裏目に出たのは半々。野球というスポーツで成功率5割はけっして高くないので一考を要するべきだろう。
先発・中川(桐光学園)
個人技もこの試合は楽しめた。ピッチャーは慶應義塾の木澤が最速140キロのストレートで将来性を感じさせた。速いだけではない。最大の長所は投球フォームがいいこと。1回の投球練習に入る前には丁寧に歩測してステップ位置を確認していたが、こういう準備をするピッチャーはたいていコントロールがよく、変化球の完成度も高い。
変化球は縦に割れるカーブと、1回に先頭打者を三振に仕留めたフォークボールのキレが一級品で、一塁に走者が出れば素早い牽制球で大きなリードを許さない。コントロールのよさは外野手が極端なシフトを敷いているので当然と言えば当然だろう。
この好投手・木澤から4打数4安打したのが桐光学園の4番・中川だ。ピッチャーとしてもアンダーハンドから牧田 和久(埼玉西武ライオンズ)ばりの“超緩急”で打者を翻弄するが、投打のどっちが今後の中川にとって重要になるかと聞かれたら「打つほう」と答えたい。
慶應義塾高の外野陣も中川が打席に立つと他の選手と違って右に寄る。これだけでも中川の非凡さが伝わってくる。第1打席では極端な守備陣形をあざ笑うように無人のレフトへ二塁打を放って三塁走者を迎え入れ、第2打席はスライダーをセンター前、第3打席は内角ストレートをライト前に鋭く弾き返し、第4打席は変わった森田 晃介(2年)のストレートを振り抜いて右中間を破る二塁打と、左右広角に長短打を打ち分けた。
この中川のあとを打つ5番以下が振るわず、チームの9安打中1本しかヒットを打てなかったことが直接の敗因と言ってもよさそうだ。
(文=小関 順二)
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