中日ドラゴンズ 荒木 雅博選手【前編】「バント成功の秘訣は『間』と『コース』」

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 県立熊本工(熊本)ではセンバツに2回出場。俊足巧打の遊撃手として1995年・ドラフト1位で中日ドラゴンズに入団し、今年で21年目の荒木 雅博二塁手。4月26日現在・2007試合出場・1905安打と共に犠打も268。2番打者としてのバスター・エンドラン技術の高さも含めNPB屈指の「小技の達人」である。

 そんな荒木選手に対し「高校野球ドットコム」は、こだわりの小技に特化した独占インタビューを敢行!「小技」に悩む球児たちに向けたメッセージや技術指導も行ってくれた荒木選手の声にぜひ耳を傾けてほしい。前編はバントにおける「間」の取り方と、技術・メンタルの概論について。

バントもバッティング同様「間」が大事

一塁方向へのバントをする荒木 雅博選手(中日ドラゴンズ)

「プロへ進んだ出身選手を見て頂ければわかると思いますが、熊本工はもともと伝統的にバントや走塁に力を入れているチームですから、練習もよくしていました」

 自身も振り返るように、熊本工時代から1か所練習含め、バント練習に多くの時間を割いていた荒木 雅博選手。ただ、1996年・中日ドラゴンズに入団した彼に待っていたのは、高校時代にあれだけ練習量をこなしていたバントに対する「難しさ」であった。なぜかというと……。

 「高校の時はバントに対し、相手投手はストレートを投げてきたんですが、プロでは変化球や動くボールを投げてくる。ここの対応に時間がかかりました」

 制球がプロと比べアバウトなゆえに、バントをさせてからのフィールディングで勝負する高校生投手に対し、それ以前の「バントをさせない」配球で勝負するプロの世界。ただ、ここで荒木選手は基本に立ち返り、ストレートを確実にバントする練習で現在の地位を築いていった。その過程でポイントとしたのはバッティングでも必須となる「間」である。

「一番難しいのは点で合わそうとして、ミートポイントだけをイメージしてしまうこと。ですので、投手がリリースしてからバントをするところまで線を引いて、その中にバットを入れてあげる。それがバントです。なので、高校生の皆さんもマシンでもいいですし、フリーバッティングでもいいですから、練習の中でその線を引けるように練習してほしいですね。それができれば自由自在にバントができるようになると思います」

[page_break:荒木流バントは「芯に当ててコース重視」]

 荒木選手はそんな話をしながら、愛用のバットを持ち、まるでそこに投球があるかのように目線を移しながら「間」の取り方を実演する。ここで大事なのはストレートと変化球との違いを意識しないこと。「真っすぐも変化球のうちの1つと思うこと。変化球は真っすぐの1つとは思えないですから、ストレートを『真っすぐ来る変化球』と思うんです。こう考えるようになって僕はバントが成功するようになりました」

 実は1番を打っていた数年前まではバントをする機会も少なかったこともあり「得意ではなかった」荒木選手。そこから小技職人となる原動力となった「バントを成功に結び付ける考え方」もここで披露してくれた。

荒木流バントは「芯に当ててコース重視」

バントの形を実演する荒木 雅博選手(中日ドラゴンズ)

 バントをする瞬間の技術的ポイントについても荒木選手に語って頂こう。よく球児が指導者から言われるのは「ボールの勢いを殺す」ことだろう。ただ、荒木選手の考え方はそれとは少々異なる。

「僕の場合だと1番打者はみんな足が速いので、バットはマークの下を抑えて持って、芯に当ててもいいので、コースを重視する。しっかりしたコースに転がせば走者はセーフになります。そして基本は一塁方向。プロ野球の場合、守備固めで入る選手を除けば一塁手は守備力が高くない選手が多い。ですから、相手の守備力は普段からよく見ていますよ。場合によってはセオリー通りでなく、三塁方向にすることもありますから」

「相手のシートノックをよく見ろよ!」と指導者に言われたことがある球児の皆さん、そこにはバント成功のタネがあるということなのだ。同時に荒木選手は球児に向けてこんなアドバイスも送る。

「バントは自分の苦手な方向でなく、できる方向を極めた方がいいですね。芯にあてることができれば、方向は決められますから。練習して試合でできなくては意味がないので、試合ではできることを出した方がいいと思います」

 試合で成功するために最も確率の高いものを出す。これは野球で最も大事なことである。

[page_break:「インパクト時、意識は引いてバットは引かない」バントを実現するために]「インパクト時、意識は引いてバットは引かない」バントを実現するために

三塁方向へのバントをする荒木 雅博選手(中日ドラゴンズ)

 では、芯に当てる時のポイントは?荒木選手があげたのは「インパクトの瞬間、意識は引いてバットは引かない」ことである。ここはもう少し説明して頂こう。

「ストレートにそのままバットを出した場合、衝突してしまう。そこを吸収する意識を持つことが大事なんです」

 言い換えればグラブで打球を捕球する時の「包み込む」感覚。これがバントにも通じるというのだ。セーフティーバントでもその基本線は変わらない。やや転がすコースを厳しめには考えるが、基本は「線で来るボールをバットに当てて、コースに転がす」ことである。

「でも……」ここで耳をすませば球児たちの声が聞こえてくる。「バントの時になると身体が固くなってうまくいかないんですが……」。荒木先生に聞いてみよう!

「確かにありますよね。バントは失敗すると自分の中だけでなく、チーム内でも失敗の連鎖になりますから。だから、僕も一番最初のバントは1球で決めることを重要視していますし、攻撃にもつながってくるので、ここは気持ちを一番持っています」

「1球目」ここを重要視することが最も大事になるのだ。

 前編はここまで、後編ではバントの際のフォームや、もっと具体的なバント成功へのメンタルコントロールについてなどを荒木選手に語って頂きます!

(文=寺下 友徳)

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