仕事をしていると、何かと必要だと言われるコネや人脈。「顔を広めることに躍起になるより、実力を磨くべきでは?」と疑問を抱く人もいるだろうが、実際はどうなのだろうか?

広告代理店の現役プロデューサーである川下和彦さんは、「一番仕事ができるのは“おコネ持ち”だと言っても過言ではない」と主張し、その重要性を説いた本『コネ持ち父さん コネなし父さん 仕事で成果を出す人間関係の築き方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を刊行した。先日行われた出版記念トークイベントでは、川下氏のほか、スペシャルゲストとしてディスカヴァー・トゥエンティワンの取締役社長・干場弓子氏と、『リング』『らせん』などで知られる小説家・鈴木光司氏が登壇。「コネ」のメリットについて語り合った。

左:干場弓子氏/右:川下和彦氏

賢い“コネ”の捉え方とは

川下氏は会社員になってから“人のつながり”の力を痛感。「自分一人でできることは限られている。しかし、コネがあれば、課題に対する解決力の幅が広がり、規模が大きくなる」と説く。

「それだけでなく、自分が尊敬する人たちとコネをつくることができれば、自分にとって成長の刺激になる。コネという言葉には、 “コネ入社”とか“あいつはどうせコネだ”というマイナスイメージがあるが、そうやって他人の先天的コネを妬んだところでコネができるわけではない。それなら、頭を切り替えて後天的なコネを作る方が賢明だ」(川下氏)

まずはコネに対する認識を改めたほうがいいと持論を述べた。

異業種交流会で名刺をバラまくことの無意味さ

コネと言うと「異業種交流会」が思い浮かぶ人も多いだろうが、川下氏は「よくある異業種交流会は名刺を集めることが目的になってしまっています。そうではなく、自分が何をやりたいかという目的を考えた上で、それに沿って会いたい人にアプローチすることが大切だと思います」と言う。確かに異業種交流会では「今度、飲みましょう」「何かやりしょう」など、うわべだけの会話で終わることが多い。

「無暗に広く浅く名刺をバラまくのではなく、目的を持って狭く深く人間関係を築くことをおすすめします」(川下氏)

川下氏の著書に登場する「コネなし父さん」は、欲張って“多数”と関係を作ろうとし、個々のつながりを細くしてしまう。一方の「コネ持ち父さん」は、目の前の“1人”の関係を大切に育み、個々のつながりを太くする。その結果、細いパイプより太いパイプの方が勢いよく水が流れ込んでくるように、大切にしている相手の先につながっている多数の仲間を招き入れて、味方につけることができるのだと言う。

人のためにコネを使うことで自分にも良いことが

では、どのようにして1対1の太い人間関係を作っていくのか。

「なぜ会いたいのか、目的を持ってその人との出会いの機会を探す。そこで出会った人と意気投合したら、安易にFacebookで友達申請をするのではなく、後日ゆっくり二人で会うなどして焦らずに人間関係を築いていくことが大切です。出会うことはゴールではなく、スタートでしかありません」(川下氏)

さらに、川下氏は「ノリ」が重要だと語る。

「仕事でも遊びでも、誘ってもノリが悪い人はどんどん誘われなくなります。何が起こるかわからなくても、とにかくノリよく接しておくと、人生が変わるような出会いに恵まれることもあります。『何時に仕事が終わるかわからないけど、行けたら行きます』と自分の都合でモタモタ返事をする人と、『〇〇さんの誘いであれば、迷わず参加します』と相手の気持ちを考えて答えてくれる人とでは、どちらをまた誘いたいと思うでしょうか。」

川下氏は続ける。「コネを持っているだけでは意味がありません。コネは自慢するために作るものではありません。コネは人の役に立ててなんぼです。ビジネスの基本は人助けです。見返りを期待しないで人のためにコネを活かすようにすれば、いつか結果はついてくるものです。それに、人が喜んでくれることをすれば、その相手が信用している“とっておきの人”をあなたに紹介してくれるようになります。コネが増えると、もっと人から頼られるようになり、相談が増え、それに応えることでさらに新しい出会いを提供されるようになる。そうやって“おコネ持ちスパイラル”が回り始めるんです」

自分が利用するためにコネを作るのではなく、人のためにコネを活かそうとする「利他」の意識が大事だと、川下氏は繰り返した。

『らせん』の大ヒットには人の流れアリ

鈴木光司氏

後半には、川下氏と親交が深い干場氏と鈴木氏が登場。もともとは鈴木氏のファンであった川下氏が、互いの共通の友人であった勝間和代氏を介して交流が始まったという。

また、鈴木氏は自身の娘が川下氏のつながりから生まれた交友関係を通じて知り合った男性と結婚したというエピソードを明かした。コネは仕事だけでなく、人生の可能性をも広げるのだ。干場氏は、「仕事の喜びだけでなく、人生の楽しみやワクワクなど、全ての楽しいことは本でも勉強でもなく、人が運んでくれる」と持論を述べた。

一方の鈴木氏は「人はバロメーターみたいなもの」と語る。1990年に『楽園』でデビューした氏は、翌年に『リング』を、その2年後に『光差す海』を出版したものの当初はヒットはせず、数年は無名作家時代を過ごしたが、次作の『らせん』を執筆していたころ、転機となる出会いがあった。

「編集者の誘いで、銀座のクラブに行ったんです。そのお店には売れっ子作家が数人と、それぞれの編集者たちがいて、僕たちも混ざってしゃべっていました。その後、僕たち2人がカラオケに行こうとしたら、売れっ子作家の編集者たちが作家を置いてみんなついてきてくれて。『大丈夫なのか?』と聞いたら、『面白いほうに行きたいんです』と言われたんですよ。そのとき、おもしろいほうに人は流れていくんだと実感して、きっとこの流れで自分の小説も売れると予感したんです。人の動きは何かのバロメーターになるぞ、と。実際、その翌年に出版した『らせん』は大ヒットしました」(鈴木氏)

干場氏から「仕事においても、会社員と個人とでは、人間関係やコネの捉え方は異なる。個人で仕事している鈴木さんは、特にコネが重要だと感じるのでは?」と問われると、鈴木氏は、外に出て行く重要性を語った。

「本当は重要なんだけど、物書きの業界には引きこもっている人がとても多いんです。僕は若い人に小説の書き方を教えているんですが、大事なのは体験だと伝えています。とにかく人とつながって色々なことを体験しないと何も書けないよ、って。」(鈴木氏)

「人との出会いが人生を豊かにしてくれる」。ありふれた言葉が説得力をもって感じられるトークライブだった。

(石狩ジュンコ)