大阪桐蔭高等学校 高山 優希投手「トップギアに入った瞬間を見逃すな!」

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 マウンドにいる姿と普段の姿がまるで別人といっていい。普段はとても几帳面な性格で、寮の自室もキレイに整っている。まず彼に話をしてみると、実に物静かな青年だ。しかしひとたびマウンドに登ると帽子を飛ばすほどの力投を見せ、さらに三振に仕留めれば雄叫びをあげる。「気持ちが乗った時のストレートは本当に凄いです」と捕手の栗林 佑磨が語るように、その潜在能力の高さを評価され、今秋のドラフト候補に挙がる高山 優希。今年の選抜最注目投手に挙がるであろう高山のこれまでの歩みを振り返った。

2年春選抜登板、2年秋近畿優勝 順調な歩みを見せる

高山 優希投手(大阪桐蔭高等学校)

 中学時代、野茂 英雄氏が総監督を務めた「ジュニア・オールジャパン」入りするなど、当時から同世代のトップクラスの選手だった高山は「自分の力が通用するのか、ハイレベルなところでやりたかった」と大阪桐蔭でプレーすることを決意する。入学当時から最速138キロを計測するほどの投手であったが、周りのレベルの高さを見て、「自分と同じぐらいの選手がゴロゴロいるんだなと、自分のピッチングをしっかりしないとベンチ入りのチャンスはないと思いました」と高山は自慢である角度のあるストレートを武器にベンチ入りを狙った。

「人よりも腕が長いので、角度ある球を投げることを意識していますし、手も長いので、落ちるボールも投げやすいと思います」と語る高山は、自分の体の特長を生かしたピッチングで結果を残し、1年秋でベンチ入りを果たす。

 そして2年春の選抜にも選ばれるが、選抜前に左手首をケガしてしまう。「大会前にケガをしてしまう自分に腹が立ちました」。大会の序盤は投げることができなかった。復調したのは準々決勝からで、準決勝の敦賀気比戦で2回途中から登板した高山は4.1回を投げて無失点の好投を見せ、上々の甲子園デビューとなった。

「甲子園のマウンドは点差も離れていたので、思ったより緊張しなかったですね。あの時は思い切り投げようと思って、自分の持ち味を出そうと。良く投げられたのかなと思います」と振り返った高山は直後の春季大阪府大会では8試合中、6試合に先発。見事に春季大会優勝に導いた。この大会が大きな自信をつかんだ期間だと振り返る。「投球術、打者との駆け引き。そういうものを多く学んだ大会でした。完投勝利もできてスタミナ面でも自信がつきましたね」

 そして夏でもベンチ入り。3回戦の東戦では、3回を投げ1失点。4回戦の信太戦では先発し7回無失点。計10回1失点と好投を見せた。ストレートも140キロ中盤を計測していたが、本人は「ストレート自体は良かったのですが、ばらつきが多く、ボール球も多かったので、納得いく投球ではありませんでした」と振り返る。そして夏が終わり、高山はエースを任される立場となった。

 高山は安定感を求めて、淡々とゲームメイク。エースとして勝ち上がる投球をしっかりと見せ、大阪府大会準決勝で履正社と対戦。エース・寺島 成輝(2016年インタビュー)との投げ合いに。寺島について高山は、「体格も僕よりもずっと大きいですし、能力もすごいのですが、何よりも余裕を持って投げているところが良くて、自分も見習いたいと思いました」と格上と認める寺島との投げ合いに高山は丁寧にピッチングすることを心掛けた。ストレート自体の調子は普通。好調ではない分、丁寧にコースへ投げ分けて打たせて取る投球に集中。その結果高山は履正社打線を1失点完投に抑え、近畿大会出場を決めた。

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 そして近畿大会では粘り強い投球を展開。まず近江兄弟社戦(試合レポート)ではストレートを軸に5回を投げて1失点、8奪三振の快投を見せると、準々決勝の智辯学園戦では、「中盤で甘いボールを投げてしまい」打ち込まれ4失点を喫したが、尻上がりに状態を上げていき、最終回で最速145キロを計測し完投勝利。準決勝の明石商戦もリリーフ、そして決勝戦の滋賀学園戦では2失点完投勝利で、近畿大会制覇を成し遂げたのであった。

 ここまでを振り返ると、高山は2年春に選抜登板し好投、直後の大阪府大会でも好投。そして近畿大会優勝と歴代のエースと比べると順調な歩みを見せている。

150キロを投げた高松商戦は、テンションが最高潮だった

高山 優希投手(大阪桐蔭高等学校)

 そして神宮大会では2回戦の木更津総合戦で、赤土の神宮のマウンドに慣れない中でも粘り強く投げて2失点完投。そして投手・高山 優希がクローズアップされることになる準決勝・高松商戦を迎えた。この試合、高山のギアを上げるには格好の試合だった。この試合は序盤から点差を付けられる展開。ブルペンで準備していた高山はとにかく投げたい気持ちを露わにしていた。それは捕手の栗林も、「本当に投げたがっていて、『俺に投げさせろ!』というのが動作から伝わってきましたね」

 栗林曰く高山の調子のバロメータは気持ちだという。「結構気持ちにムラがあって、初回からエンジン全開というのはないですね。だから立ち上がりから140キロ台連発というのはなかなかなくて、ピンチの場面や最終回のところでギアを上げていく投手なんです。そこをどううまく気持ちを乗せるのか、また気持ちを抑えるのかも僕の役割ですね。この試合、最初から試合を追いかける展開で、そして打線が6対7と1点差まで追い上げたことも、気持ちを高ぶらせた要因だと言えます」

 そして9回表、ついに出番が巡ってきた。西谷 浩一監督は、高山に、「1イニングだけだから、全力で放ってこい!」と伝えて送り出した。この言葉で「自然とスイッチが入りました」と語る高山。投球練習からいつもより腕が振れていて、指のかかりも良い感触だった。

 気持ちも乗っている。ここでエースとして勢いある投球を見せれば、裏攻めで、同点、もしくは逆転勝ちを狙う味方のモチベーションも上がる。まさに舞台が整った瞬間だった。テンションが最高潮に達した高山は自分でも驚く剛速球を放っていく。5番美濃 晃成にいきなり143キロを計測。2球目で145キロと自己最速タイに到達すると、3球目はボールになったが、自己最速147キロを計測した。この時、高山は「しっかりと力が伝わったリリースができていると感じましたけど、ここまで出ているとは…」と自身も驚いていた。

 そして4球目は148キロのストレートで空振り三振と己最速を1キロずつ更新していく。受ける栗林も、「いつもより気持ちがこもっていましたね。高山の良い時は、スピンがキレイにかかっていて、唸るようなボールを投げ込んできます。まさにそんなボールでした」と絶賛するほどのストレートだった。

 そして6番植田 理久都も遊ゴロに打ち取り、7番大熊 達也を2球で追い込んで、3球目、栗林は外角ストレートを要求したが、逆球で内角へ。「本当に凄い球で、ボールについていくだけで精いっぱいで、ミットが持っていかれる勢いでした」と普段受けている栗林でさえも、捕ることで精いっぱいだったというストレートは最速150キロを計測。この150キロを機に、高山は選抜最注目投手として注目される存在となったのだ。

[page_break:150キロに惑わされず、自分の取り組みは見失わないように]150キロに惑わされず、自分の取り組みは見失わないように

高山 優希投手(大阪桐蔭高等学校)

 あの150キロで何か世界が変わったと感じることはあるか?という問いに対しては「自分は特に変わっていないですけど、見られ方は変わりましたね。そして自分に期待する声も多くなってきました」

 高山にとっては転機となった大会だった。しかし、それでも球速に惑わされることはない。現在課題として取り組んでいるのは、140キロ台のストレートを継続的に、そして内外角にコントロール良く投げられる体力と技術を身に付けること。「今は変化球よりもストレートを磨くこと。まだ立ち上がりだとバシッと投げることができなくて、130キロ台が多いです。最初から強いボールを投げられるようにしたいです」

 そのため個人練習に入った12月でも、投球練習を行った。「冬場でも投げ続けないと感触はつかめないですし、僕は感触を大事にする方なので、今は最初から強いボールを投げる意識でやっていますね。立ち上がりから強いストレートを投げる感覚は掴んできていると思います」と手応えを示す。さらにトレーニングも週2回のウエイトトレーニングや走り込み、股関節を鍛えるストレッチ、インナーマッスルを鍛える練習などを行い体全体を鍛えている。

 1月後半から全体でのケース打撃に入り、マウンドに登って仕上げる段階に入ってきている。課題にしていた立ち上がりから強いボールを投げ続けることはできているが、イニングを重ねると、球威が落ちてしまうのが課題。今は長いイニングで強いボールを投げられるようにしたいと考えている。

 150キロに惑わされず、自分が目指す投手像へ向かって、努力を重ねる高山は実に謙虚に取り組める選手だった。だが絶体絶命のピンチを迎えたとき、そしてチームの流れを変えるかもしれない場面になったときは、「ギアを入れて、全力で抑え込んでいきたいと思っています」

 その時、後々まで語り継がれるような剛速球と快投劇を見せてくれるだろう。それだけのポテンシャルが備わっていることは神宮大会で証明している。高山の「トップギア」に入った瞬間が見逃せない。

(取材・文/河嶋 宗一)

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