東海大学付属甲府高等学校(山梨)【前編】

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 夏春連続で甲子園出場を決めた東海大甲府。村中 秀人監督就任後初めての選抜だ。選抜出場するまでどんな道のりで歩んできたのか。そして選抜へ向けて、どんなチーム作りをしているのか。まず初めに、今年の東海大甲府を押し上げた2人の選手を紹介していきたい。

関東4強の立役者・松葉 行人の存在

松葉 行人(東海大学付属甲府高等学校)

 東海大甲府の始動は昨年の8月下旬。他のチームに比べれば1か月も遅い。チーム作りが遅れることを懸念していた村中監督は秋の主力選手候補とコーチを学校に残して練習を行った。今までは夏の甲子園出場時は、秋の主力組も帯同していたのだが、全く練習ができなかった経験があったからだ。この方針に切り替えたことにより、「思ったよりスムーズにチーム作りができました」(村中監督)。

 今年のチームは去年、一昨年のような打撃力のあるチームではない。そんな中、2人の選手の存在が今年のチームを押し上げた。まず紹介するのが松葉 行人投手。東海大甲府は最速146キロ右腕・菊地 大輝が注目されているが、菊地は県大会終盤から関東大会期間中、故障の影響もあり、思うような投球ができず、完投も難しい状態だった。そこで伸びてきたのが松葉だった。「秋、関東大会ベスト4にいけたのは松葉のおかげです」と村中監督がたたえるように、松葉は秋では6試合登板し、防御率0.73と抜群の安定感で、チームの勝利に貢献したのであった。

 その松葉だが、中学時代、県大会出場もない投手だった。入学当時、「2学年上のエースだった高橋 直也さんは速球のキレ、変化球の切れも違いましたし、同じ1年の菊地はその頃から140キロを投げていましたし、レベルが違い過ぎました」と実力の差を実感していた。

 だが、それでも絶対に負けたくない、エースナンバーを奪うという思いがあった。そんな松葉には、他の投手たちに負けない武器があった。それは内外角にしっかりと投げ分けられるコントロールだ。コントロールが持ち味だと自覚していた松葉はすぐに実戦でアピールし、1年からベンチ入りを果たしたものの、なかなか登板の機会が巡ってこなかった。

 中心として活躍するのは菊地。だがそれでもエースになりたい、背番号1になるために、実戦で活躍するために、決め球のチェンジアップを習得し、そのチェンジアップを生かした投球術を磨いてきた。

[page_break:菊地からエースナンバーを奪ってもおかしくない]

 そして新チームになってチャンスが訪れる。菊地の不調により登板機会が多くなった松葉は好投を見せた。特に関東大会準々決勝では完封勝利を挙げ、ベスト4入りに貢献。そして準決勝の木更津総合戦も0対2で惜しくも敗れたものの完投した。この活躍に村中監督は、「松葉は練習に取り組む姿勢が素晴らしいですし、実戦のための練習ができる選手。今までの取り組みが試合で発揮できただけだと思いますよ」と笑顔で振り返った。

「僕は関東大会まで完投したこともなかったんです。でも関東大会準々決勝、準決勝と2日連続で完投できたことは僕にとって自信になりました」松葉も自信をつかむ大会となった。

菊地からエースナンバーを奪ってもおかしくない

菊地 大輝(東海大学付属甲府高等学校)

 冬になっても、松葉はしっかりと自分を追い込んで練習に取り組み、さらにチーム内で行われている紅白戦でも好投を見せている。村中監督は、「背番号1を与えてもおかしくないと思うほどの取り組み、活躍をしていますし、ナインたちもそう思っているかもしれません」そして当の松葉も、「ずっと菊地を追い越したくてやってきたのですが、やっと追いついてきたのかなと感じています」とこの冬の取り組みに手応えを感じている様子だった。

 だが、それに待ったをかけているのは菊地だ。松葉の活躍は、菊地に大きな刺激を与えた。「あいつの努力は本当にすごくて、秋は負けたなと思いました。でもこのままではいけないと思って、自分もやるようになりました」と冬の練習に懸命に取り組むようになった。

 この変化に村中監督は、「自分なりに考えて取り組むようになりましたね。菊地も松葉の姿を見て変わってきたんです。この変化をずっと待っていたんですけどね」と菊地の変化を待っていたという。菊地は昨秋ケガで苦しんだが、大会が終わってからしっかりとケガを治し、さらにウエイトトレーニング、走り込みでしっかりと体を絞り、今では178センチ82キロと夏の甲子園の時よりも数キロ落とした。確かに甲子園の時と比べると顔つきがかなりシャープになっている。

「松葉の存在がいなかったら、今の自分はないです」とお互いが刺激し合って高めあっている。松葉の成長、菊地の自覚を村中監督は求めていた。選抜では「ダブルエースとして活躍してほしいですね」と期待を込める。今年は菊地だけではない「ウリ」ができた。

[page_break:村中体制になって初の準レギュラー主将]村中体制になって初の準レギュラー主将

鬼頭 孝明主将(東海大学付属甲府高等学校)

 そして続いて紹介するのが主将の鬼頭 孝明だ。多くの主力選手が「鬼頭のおかげで自分のプレーに専念できる」と絶大な信頼を得ている鬼頭は愛知県出身の二塁手。「私が東海大甲府の監督に就任して17年になりますが、レギュラーではない選手を主将にしたのは初めてですね」そう語る村中監督。

 鬼頭は小学校からキャプテンを務めてきたということもあり、その大変さを知っているが、それでも「自分はチームをまとめるのは向いている感じがします」と生粋のキャプテン気質の選手だ。新チームが始まって、鬼頭は主将を志願した。村中監督は驚いたが、スタッフからの推薦もあった。

「うちの場合、前主将やスタッフの意見を聞いて最終的に私が決めるのですが、当初はレギュラーの選手を任せようと考えていました。でも、コーチから『鬼頭は練習態度だけではなく、学校生活もしっかりしていますし、甲子園では応援団長としてしっかりまとめていましたので、鬼頭もいかがですか』と提案があったんです。じゃあ君たちの意見を尊重しようということで、鬼頭にキャプテンを任せることに決まったんです」

 こうしてキャプテンに就任した鬼頭。しかし想像以上に大変なことがあった。一番悩んだのが甲子園に出場していた同級生へどう声をかけるか。自分は試合に出場していない選手。多少のコンプレックスがあった。「僕は姿勢的なこと、私生活のことは指摘できるのですが、レギュラーではないので、技術的なことを指摘しても、話を聞いてくれないのではないかと思うことがありました」

 だが、悩む鬼頭に対し、救いの手を差し伸べたのがコーチだった。「全体ミーティングをやっているときに、コーチの方からキャプテンはもっと指摘していっていいと話していただきまして、それからしっかりと指摘できるようになっています」こうして迷うことなくチームを引っ張れるようになった鬼頭。鬼頭は控えの選手たちがレギュラーへ指摘できるようになることも促し、控えの選手からレギュラーへ指摘する声も増えてきた。

 夏の甲子園でレギュラーだった選手からの評価も高い。4番を打つ松岡 隼祐は、「本当にチームのことを考えて引っ張ってくれる良いキャプテンだと思います。僕たちレギュラーは、自分のプレーで貢献するしかないですし、鬼頭がチーム全体を見てくれるからこそ、プレーに専念できる」と語る。

 そして挨拶と礼儀の徹底。東海大甲府の選手たちはしっかりと立ちどまって大きな挨拶で挨拶する。これは鬼頭がこだわっていることだ。「僕が中学3年生の時、東海大甲府へ行く機会があったのですが、中学生の僕でも、しっかりと挨拶をしていただいて、いろんな学校に行ったのですが、東海大甲府が一番でした。それが東海大甲府に行く一番のきっかけになりましたし、その伝統はこれからも継続していかなければなりません」

 挨拶はもちろんだが、東海大甲府の選手たちを見ると、とにかくキビキビ動く。そして声も出ていて、とにかく気合いが入っている雰囲気があった。「この雰囲気を作り上げたのは鬼頭のおかげですね」と村中監督が評価するように、現在のチームの雰囲気を作り上げた鬼頭の存在はまさに欠かせないものとなっている。抜群のキャプテンシーを発揮する主将がいれば、チーム作りはやりやすいだろう。では今年のチームはどんなことを課題においてやっているかは【後編】で紹介していきたい。

(取材・写真:河嶋 宗一)

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