エコとスポーツの祭典となった「東京モーターショー2015」レポート
2年に一度の東京でのモーターショーが開幕した。今年は、どんなクルマが披露されたのだろうか? また、その雰囲気は? 日本開催ならではの特徴は? モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏がレポートする。
2015年11月8日まで開催されている「東京モーターショー2015」。その見どころやポイントを解説しよう
今回の東京モーターショーは熱気と華やかさでは世界でもトップクラスだ
2015年10月28日に開幕した「東京モーターショー2015」。初日、2日目のプレスデイから一般公開までを取材して得た印象から先に述べたい。今年のショーは、非常に熱気にあふれていた。
開幕初日のプレスカンファレンスのトップバッターはマツダだ。ロータリーエンジンを搭載すると宣言したスポーツカー「RX-VISION」のアンヴェールをひと目見ようという記者や関係者でブースはすし詰め状態。今年のショーの印象を決定づけたとも言えるような熱気のこもったプレスカンファレンスとなったのだ。続いてプレスカンファレンスは日産、フォルクスワーゲンと続くが、どちらも身動きできないほどの混雑ぶり。特にフォルクスワーゲンは、不正発覚後の初の国際ショーということもあり注目度が高いようであった。ちなみにドイツから駆けつけたCEOのヘルベルト・ディース氏は、スピーチで「フォルクスワーゲンは、過ちを犯してしまいました。フォルクスワーゲンを代表してお詫び申し上げます。さらに、我々をこれまで支えてくださった方々の期待に反してしまったことに対しても、心よりお詫び申し上げます」と率直な謝罪を口にしている。
ロータリーエンジンを搭載するというマツダのコンセプトカー「RX-VISION」
不正発覚後の初の国際ショーとなったフォルクスワーゲン。本国から来たCEOのヘルベルト・ディース氏(写真右側)がお詫びと謝罪を語った
日産のCEO、カルロス・ゴーン氏もプレスカンファレンスに登場した
また、午後のトヨタのプレスカンファレンスも熱気あふれるものとなった。トヨタの展示スペースは、会場内でも最大級であったが、それでも人が収まりきれずにあふれ出す。サプライズ・ゲストとしてメジャーリーガーのイチローが登壇しても、見えないという人が数多く発生したほどであった。
トヨタのプレスカンファレンスでは、豊田章男社長とイチローが登壇
ホンダもプレスカンファレンスで今年7月に就任したばかりの八郷隆弘社長が登壇した
世界的に見ると、東京モーターショーの規模はミドルクラスだ。しかし、今年の華やかさと熱気は世界でもトップクラスだろう。アイデアあふれるコンセプトカーが充実しており、ブースの作りも凝っている。華やかさをふりまくコンパニオンも健康的でかわいらしい。器は小さいけれど、その中にしっかりとした世界観がアピールされている。これは、ぜひとも足を運んで直に楽しんでもらいたいと言えるショーであった。
アイデア豊かなコンセプトカーたち
それでは各ブランドの見どころからレポートしよう。
まずは話題を集めるマツダから。ブースの場所は、会場入口から最も近い西館の入口付近。ここからショーを楽しもうという人も多いと思われる好位置だ。見るべき1台は「マツダRX-VISION」だ。FRスポーツカーの究極のスタイルを追求したスタイリングの美しさに、誰もが息をのむことだろう。搭載されるのは次世代のロータリーエンジン「スカイアクティブR」。正直、技術的な説明は何もなかったし、展示車は走ることのできないモックアップだ。それでも、「いつかは、こんなクルマが登場するといいな」という、ロマンあふれるコンセプトカーであった。
話題の「RX-VISION」は、新ローターリーエンジンのスカイアクティブRが搭載される見込み
続いてはトヨタ。最大級のスペースに質と量の両面で充実した内容であった。注目は、量産化も噂されるコンパクトFRスポーツカー「S-FR」。そのキュートな姿を目に焼き付けてほしい。また、来年には量産モデルが登場するという「C-HRコンセプト」は日本初お披露目。発売直前の新型「プリウス」も展示されている。さらに、夢のある展示として、未来の燃料電池車「FCV PLUS」やデザインコンセプトの「KIKAI」、未来のコミュニケーションパートナーである「KIROBO MINI」などが用意されている。
レクサスでは燃料電池車の次世代コンセプトとして「LF-FC」がワールドプレミアムとなった。流麗なビッグセダンのボンネットに燃料電池スタックを納める。「MIRAI」がすでに発売されたこともあり、このモデルも夢物語ではなく、リアルな量産車としての登場が期待できるのだ。
大きく開いたフロントグリルに愛嬌のあるFRスポーツカーのS-FR。量産化も噂されている
クロスオーバーの「C-HRコンセプト」。こちらは来年に量産される
燃料電池車のコンセプトカー「FCV PLUS」。こちらは純粋なデザインコンセプトだが、未来的なデザインだ
デザインコンセプトの「KIKAI」。上のFCV PLUSと比べると機械の質感を全面に出したクラシカルな雰囲気
レクサスブースでは次期「レクサスLS」の燃料電池車モデルLS-FCが展示されていた
ホンダの見どころも燃料電池車だ。こちらは来年3月のリース販売が発表された「クラリティ・フューエル・セル(CLARTY FUEL CELL)」。価格は766万円。最高出力100kW以上、航続距離700km。フロントのボンネット内に燃料電池スタックを納めるため、フェンダーに換気のダクトがあるのが特徴だ。
来年のリース販売が予定されている燃料電池車「CLARTY FUEL CELL」。市販を念頭にした現実的なデザインとスペックだ
日産は自動運転のコンセプトカー「IDSコンセプト」と、軽自動車EV「テアトロ forデイズ」がワールドプレミアだ。また、フランクフルトモーターショーで登場した「グリップスコンセプト」と、昨年のグッドウッドで披露された「コンセプト2020ビジョン・ツーリスモ」も見ることができる。
自動運転をコンセプトにしたIDSコンセプト。最近国内メーカーでも自動運転に関する動きが目立ってきたがその流れのひとつ
クロスオーバーの「グリップスコンセプト」。こちらは先日のフランクフルトショーで展示されたものだ
EV軽自動車のテアトロ forデイズ。フロントやサイドにLEDが備わっている
「コンセプト2020ビジョン・ツーリスモ」。人気ゲーム「グランツーリスモ」のためにデザインされた。ゲームも体験できる
スバルで目にしておきたいのは、来年に登場する新型デザインを示唆する「インプレッサ5ドア・コンセプト(IMPREZA 5-DOOR CONCEPT)」。そしてスバルのさらなる未来の姿をイメージしたSUVの「ヴィジヴ・フューチャー・コンセプト(VIZIV FUTUR CONCEPT)」。将来のスバル車のイメージを、この2台から想像することができるはずだ。
「インプレッサ5ドア・コンセプト」。来年に登場予定のモデルを示唆したコンセプトモデル
SUVタイプのコンセプトカーである「ヴィジヴ・フューチャー・コンセプト」。カタマリ感のあるデザインでスバルの将来のデザインを予感させる
三菱は「eXコンセプト」を登場させた。これはツインモーターで4WDを実現したコンパクトEV。三菱得意のSUV仕立てとしたものだ。45kWhの電池と70kWのモーター×2で航続距離400kmと具体的な内容。将来、量産モデルに発展しそうな気配が濃厚だ。
航続距離400kmという現実感のあるスペックを備えた4WDのEVである 「eXコンセプト」
スズキは3台のコンセプトカーを筆頭に導入間近の新型モデルなどワールドプレミアを数多く並べた。ピュアなコンセプトカーはオープンデッキを背負った「マイティ・デッキ(MIGHTY DECK)」と、3列シートのショートミニバンの「エアトライサー(Air Triser)」の2台。そして、クロスオーバーの「イグニス(IGNIS)」と、そのオフロードバージョンである「(IGNIS Trail Concept)」もワールドプレミア。イグニスはどう見ても量産モデルそのものという出来。導入時期は明示されなかったが、近く発売開始となるのではないだろうか。また、日本への導入も近いという新型コンパクトの「バレーノ(Baleno)」や、MTミッションを搭載した「アルト・ワークス」、EV走行可能なストロングハイブリッドの「ソリオ・ハイブリッド」も展示。非常に多彩で充実した内容となっていた。
オープンデッキの「マイティ・デッキ」は、シーンを選ばず遊べる軽自動車をイメージしている
3列シートのミニバンである「エアトライサー」。シートアレンジと開放感ある室内空間が魅力
イグニス トレイル コンセプトは発売間近と思われる完成度
ダイハツでは、少子高齢化など、将来の日本の社会の変化に対応するようなコンセプトカーの「ノリオリ(NORIORI)」に注目したい。イージーエントリーに注力したコンセプトカーで、ベビーカーから自転車、車いすまで簡単に乗り降りができる。子どもからお年寄りまで幅広い年齢層で利用できることを狙っているのだ。また、FFシャシーをベースとした商用車で、移動店舗となる「テンポ(TEMPO)」も面白いアイデアだ。
クルマへの乗降という問題に対してひとつの提案を示すノリオリ
移動店舗となる商用車テンポ
最後に自動車メーカーではないが、ヤマハが前回ショーに続いて、またも4輪車のコンセプトカー「スポーツライド・コンセプト」を展示した。ゴードンマーレーデザイン社が提案するF1を源流にする軽量&高剛性な車体構造となっており、車両重量はわずか750kg。マシンと人の関係がオートバイに近いという。
重量わずか750kgというスポーツライド・コンセプト。4輪だがオートバイに近いイメージ
ドイツ勢からも世界初公開モデルが登場
地元ということで充実の展示内容を揃えた日本勢。それに対してドイツ勢は、9月に地元フランクフルトでモーターショーを行ったばかり。さすがに世界初公開はないだろうと思っていたら、メルセデスベンツからコンセプトカー「ビジョン・トウキョウ(Vison Tokyo)」が登場した。これは5人乗りの自動運転可能な燃料電池車。クルマをラウンジのように使うというアイデアの提案だ。また、これまでのMクラスが「GLE」として刷新。東京モーターショー開幕の28日より発売が開始された。それ以外にも、新型「GLC」「GLEクーペ」など、日本にはまだ導入前のモデルもブースで確かめることができる。
5人乗りで自動運転可能な燃料電池車「ビジョン・トウキョウ」
BMWも世界初公開モデルを用意した。世界限定700台の「M4 GTS」だ。軽量化ボディと500馬力の強力なエンジンを搭載するスーパースポーツである。それ以外にも、新しくなった「7シリーズ」と「X1」、プラグインハイブリッド「330e」の3台はアジアのショーとしては初公開となる。またMINIは新型の「コンバーチブル」を世界初公開。ほかに「クラブマン」も日本では初お披露目となった。
世界限定700台のスーパースポーツ「M4 GTS」。500馬力のエンジンと軽量ボディで高い動力性能が見込まれる
新型7シリーズも展示されていた
MINIでは、新型のコンバーチブルを世界初公開(写真左)、右に見えるのはクラブマン。いずれも日本初公開
ポルシェも「マカンGTS」と911の4WDモデル「911カレラ4S」という2台のワールドプレミアを用意した。
911カレラ4Sは世界初公開モデル
もう1台披露された「マカンGTS」こちらも世界初公開
フォルクスワーゲンは、残念ながら世界初公開はなし。ただし、フランクフルトモーターショーで登場したばかりのコンパクトSUV「ティグアン」と、そのプラグインハイブリッドのコンセプト「ティグアンGTE」を持ち込んだ。それ以外にも、日本未導入の「パサートGTE」や「パサートオールトラック」などの魅力的なモデルが展示に並んでいる。
写真は、国内ではまだ導入されていないパサートGTE。このほかパサートオールトラックも展示中
アウディもフォークスワーゲン同様に世界初公開はない。上海モーターショーでデビューした「プロローグ・オールロード」がメインの展示品。ほかに、新型「A4」や「Q7 eトロン」や「R8 V10 plus」「S8 plus」「TTSロードスター」などの日本導入前のモデルも展示されている。
上海モーターショーで展示された「プロローグ・オールロード」が、アウディの主役。角ばったデザインで迫力がある
フルモデルチェンジされる「R8」。写真は自然吸気のV10エンジンを搭載する「R8 V10 plus」
日本未導入モデルを数多く揃えたフランス勢
フランスのPSAグループからは、シトロエンの「C4カクタス」(2017年導入)、プジョーのディーゼル「508GT」、270馬力のホットハッチ「308GTi Byプジョー・スポール」、DSの「DS 4」「DS 4クロスバック」(2016年導入)などが日本初公開となった。どれも日本導入が予定されているというから必見だ。ルノーのブースの見どころは新型「トゥインゴ」。ボディ外側が外れてインテリアがよく分かるという展示を用意。日本での発売を期待しながら見学しよう。
2017年に導入が予定されている「C4カクタス」
プジョーで注目なのは、ホットハッチモデルの「308GTi Byプジョー・スポール」
「DS 4クロスバック」も2016年に国内導入が予定されている
国内初披露となった新型「トゥインゴ」。投入は未定だが期待したいところ
ジャガー/ランドローバーは、ジャガーブランド初のSUVとなる「Fペース」を披露。11月からの受注開始を発表した。
ジープやアルファロメオを擁するFCAからは、「アルファロメオ4Cスパイダー」と「ジープ レネゲード・トレイルホーク」が日本初公開になった。展示は西館のホールの真ん中という非常に目につく場所だけに、導入されたばかりの「フィアット500X」といっしょに眺めていくといいだろう。
アルファロメオ4Cスパイダーも国内初披露
ジープ レネゲード・トレイルホーク。比較的コンパクトなサイズのSUVだ
クルマの展示だけでなく、ガイドツアーから同乗試乗まで幅広いコンテンツがある
ここまで駆け足でブランドごとの見どころを紹介してきたが、東京モーターショーにはほかにも楽しい展示が用意されている。それが「スマート・モビリティ・シティ」だ。西館の2階や屋上展示場で行われる東京モーターショー主催者テーマ事業である本企画は、「もっと自由に…クルマが変わる、くらしが変わる、社会が変わる」をテーマに未来の社会を展望するというもの。パーソナルモビリティの試乗や先進技術の展示などが用意されている。未来の社会に興味のある人ならば、ぜひとも立ち寄ってほしいブースだ。
さらに部品を製造するサプライヤーのブースにも意外と面白い展示がある。たとえば、今年は話題の新型プリウスに採用されている最新の技術やパーツの展示をあちこちで見ることができた。サプライヤーはクルマ本体の展示がないこともあり、次世代の先進技術を数多く展示しているのだ。難しい技術でもブースのスタッフが詳しく説明してくれるし、最近注目の自動運転関係の最新技術も数多く出展されているので、普段、疑問に思っていることをぶつけてみるのもいいだろう。きっと何かの気づきを手に入れることができるはずだ。
また、東京モーターショーは参加型のイベントも用意されている。たとえば筆者も所属する日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)の会員によるガイドツアー「日本自動車ジャーナリスト(AJAJ)と巡る東京モーターショー」と「プロの運転による乗用車同乗試乗会」だ。ガイドツアーは名称の通りに、我々モータージャーナリストが2人1組で10人ほどを連れて会場内を2時間ほどかけてガイドするというもの。ただし、有料&事前予約が必要で、すでに売り切れとなっている。興味のある人は2年後に予約を。また、同乗試乗会は11月3日まで会場横の屋外展示場のパイロンコースで行われた。試乗車は、トヨタのMIRAIをはじめアルトRSから、ポルシェやレンジローバーまで幅広い車種が用意されている。1周わずか1分もかからない短いコースだが、それでもクルマの特徴を感じることはできるだろう。こちらは無料だが、抽選&大人気のため、かなり並ぶ必要がある。
同じように場内のクローズドコースで最新のオートバイを試乗するイベントも実施されている。こちらも当日受付による先着順だ。
トヨタの「MIRAI」をはじめ「アルトRS」から、ポルシェやレンジローバーまでそろえた、同乗試乗会も開催された
パーソナルモビリティの試乗が行える「SMART Mobility City 2015」。写真左の緑と青がトヨタの新作「i-ROAD」で、注目を集めていた
振り返ってみればスポーツカーと次世代エネルギー車、自動運転といったテクノロジーが交差する、未来感あふれるショーであった。これは現在の世界のトレンドからは、いささか外れるものだ。実際に欧州や北米、アジアのモーターショーを巡ってみると、どこもSUV一色という雰囲気であった。ある意味、これが日本の特殊性なのだろう。しかし、スポーツカーも新しい技術も大好きだという自分にとっては、これほど面白いショーはなかったのだ。ガラパゴスと言えば、そうなのだが、こういうガラパゴスであれば大歓迎である。
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