社会人野球ピカイチの内野守備を築き上げた日本生命の守備の基本(3)

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 第1回は日本生命の十河 章浩監督に守備の基本とは何か?というテーマで捕球法のポイントを、第2回は片手捕球のポイントなどを伺った。第3回はそれを踏まえた「守備の基本」を引き続きいくつか紹介したい。また、日本生命が誇る名二遊間コンビ、岩下選手・山本選手にも話を伺った。

知って損はない「十河流・守備論」

 ここまで捕球法や持ち替えのポイントを紹介してきたが、守備のレベルアップのためにおさえておきたいポイント、考え方、イメージはまだある。「十河流・守備の基本」を引き続きいくつか紹介したい。

◆正面の定義ってナンダ?

 「打球の正面に入って捕れ!」と指導者から言われることがあると思いますが、打球のラインに対して、体を正対させて捕球することが正面の意味だと勘違いしている高校球児や指導者が少なくないように感じています。私が考える「正面」とは「体の中心の延長線上」のこと。具体的なイメージとしては胸、おへその延長線上で捕球することが「正面で捕る」ことを意味します。いくら打球に対して正対していても捕球ポイントが中心の延長線上になければ正面捕球とは呼びません。

【具体的なイメージは胸、おへその延長線上】

【逆シングルの場合】

【良くない捕球例】

【良くない捕球例(逆シングル)】

◆グラブは体の中心から出していく

 ゴロを捕球する際は体の中心からグラブを出していくことが大切なポイント。その意識を強調する上でおすすめしたいのが、捕球動作に入る前に、胸の前でグラブと投げる方の手をポンッと合わせる動作を入れることです。グラブを叩く場所は絶対に体の中心になりますから。捕球前にグラブを叩くことを邪道だと考える指導者もおられるようですが、リズムも生まれますし、時間的に叩く余裕があるのなら叩いた方がいいというのが私の考えです。

「体の中心からグラブを出していき、捕球したボールを体の中心で持ち替え、体の中心からスローイングに入っていく」。安定したプレーの実現のためにはこの大原則が欠かせません。

【胸の前でグラブと投げ手を合わせる】

【体の中心で捕球することを意識する】

【体の中心で持ち替えるように】

【体の中心でスローイングに移行】

【胸の前でグラブと投げ手を合わせる】

【体の中心で捕球することを意識する】

【体の中心で持ち替えるように】

【体の中心でスローイングに移行】

◆目線の高さの保持を強く意識しよう

 捕球の際に、目の高さが上下動してしまうと、打球の高低のラインを把握することが難しくなり、安定感のないプレーにつながってしまう。捕球後、送球動作に移っていく際は頭が浮きやすくなりますが、これも悪送球につながる要因になります。大事なのは「目の高さを一定に保つ!」という強い意識。捕球から送球に移る際も、目の高さを一定に保つ意識があると、頭の浮き加減を許容範囲内に抑えることができます。

◆ショートバウンドが当たり前と考えよう

「ゴロは落ち際で捕れるようにバウンドを合わせる」という意識でプレーしている球児は少なくないと思いますが、落ち際で捕ることを基本とし、バウンドを合わせることに縛られ過ぎると、プレーに無理が生じやすくなり、ミスが起きやすくなります。

 私は現役時代、「ゴロとはショートバウンドで捕るもの」と思うようにし、練習ではショートバウンドでの捕球をメインに行うようにしていました。ショートバウンドで捕ることを「普通」と位置付けてしまうと、ハーフバウンドはちょっと難しい、落ち際で捕れる打球は「超ラッキー」という感覚になり、ゴロの処理が随分と楽になるものです。ぜひ参考にしてみてください。

[page_break:日本生命が誇る名二遊間の登場!]日本生命が誇る名二遊間の登場!日本生命・山本 真也選手(左)と岩下 知永選手(右)

 十河監督のインタビュー終了後、主将の岩下 知永選手(二塁手・龍谷大出身)と山本 真也選手(遊撃手・東洋大出身)にも話をうかがうことができた。日本生命が誇る鉄壁の二遊間を形成する名手の声を最後に紹介したい。

――今日は、十河監督の取材を通じ、守備に関する目からウロコが落ちるような話がたくさん聞けました。日本生命の守備力が高い理由が分かった気がします。

岩下 僕も入社後、監督の指導を受け始めた頃はびっくりしましたね。

山本 僕もです。

――どういった点に驚かれましたか?

岩下 やはり一番驚いたのは両手でゴロを処理するときは「薬指を意識し、そこにボールのラインを合わせて捕球するイメージ」と言われたときですね。そんなこと、考えもしませんでしたから。

山本 僕は日本生命に入社するまで、ずっとグラブの面をボールに向けるように教えられてきたので、監督から「グラブの向きを正面にあまり向けない」というグラブの使い方を教わった時はびっくりしました。

岩下 でも監督の言うとおりにやってみると、ボールがグラブに勝手に入ってくる感覚が生まれたんですよね。守備の安定感が一気に増しました。

山本 僕はここに入社するまでは守備が嫌いだったんですけど、ぐんと安定感が増したことで、今では好きになってしまいました。

――「ゴロ捕球の際の足の運びなどは特に何も言わない」と監督はおっしゃっていましたが、実際プレーする中で、足の運びを意識したりはしないものですか?

岩下 意識はしないですね。流れの中でプレーが勝手に完了していく感じなので。

山本 ボールを捕りに行ったら勝手に体が動く感覚ですね。

岩下 動く際の形を意識すると自然な動きができなくなるので…。

山本 意識を置くのはむしろ手や腕の部分。そこに足が勝手についていくような感覚です。

――現役の高校球児にメッセージをいただけますか?

山本 僕はバウンドを合わせることに対しての苦手意識がずっとあって、高校時代も悩むことが多かったのですが、今は「バウンドは合わなくて当たり前」という結論に至っています。でも、十河監督の捕球理論に基づけば、バウンドが合わなくても捕れますし、バウンドが合っていなくても、合っているように周囲からは見えるようなプレーが可能になる。バウンドを合わせるのが苦手で悩んでいる高校球児は少なくないと思いますが、悩む必要は何もない。合わなくたって、捕ってアウトにできればいいんです。

岩下 自分も母校に後輩たちを教えにいくことがあるんですけど、その時は自分が十河監督に教わったことを伝える形になります。後輩たちも目に見えて飛躍的に上達しますし、あらためて日本生命で受けている指導レベルの高さ、確かさを実感します。読者のみなさんが、これまでに教わってきた内容とは大きく異なるものもあるかもしれませんが、ぜひ試してもらいたいなと思います。

 守備は反復練習をこなせばうまくなる分野といわれるが、上達する方法を知らずに積み重ねても時間が過ぎてしまうだけ。それは非常に勿体ない。ぜひ十河監督の理論を参考にして、今日からの守備練習に生かしてほしい。そして冬を超えて、ぜひ多くの球児が上達を実感できることを祈っている。

(取材・文/服部 健太郎)

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