社会人野球ピカイチの内野守備を築き上げた日本生命の守備の基本(2)
第1回は日本生命の十河 章浩監督に守備の基本とは何か?というテーマで捕球法のポイントを教えていただきました。第2回は片手捕球のポイントなどを伺います。
片手捕球のポイントとは「正面のゴロを両手で捕るケースと、片手でボールを捕るケースでは、ボールのラインに対するグラブの合わせ方やポケットが異なってきます」と十河監督。いったいどのような違いがあるのだろうか。
【片手捕球の時はポケットが人差し指の付け根付近になる】「片手の場合は、ポケットが人差し指の付け根付近になります。ショートバウンドの場合はグラブのウェブの先にボールを入れていく感じで出していくと、結果的にボールが人差し指の付け根に収まってきます。それを最初からポケットで捕ろうとすると、結果、土手に当たりやすくなってしまいます」
逆シングル捕球の場合はどうなるのだろうか。
【逆シングルはグラブのウェブの先に合わせていくイメージで。脇を開けて捕球するのもポイント】「逆シングル捕球の場合も、ショートバウンドなどの低い打球はグラブのウェブの先に合わせていくイメージでラインに合わせていくと楽に捕れます。ただし、逆シングルの場合は、グラブの面、つまり手のひらをボールのラインに向けていった方が捕球が優しくなります。そして逆シングルのもうひとつのポイントは脇をあけて捕球するイメージをもつこと。脇をあけ、ヒジを上げる感覚をもつことでグラブ操作がかなり楽になります」
日本生命ではハンドリング向上のためのメニューとして、2人一組のトスバッティング(ペッパー)を重要視しているという。
「投げては足を広げた状態で固定し、捕球からボールを持ちかえるところまで行い、打つ側はツーバウンド以上のゴロになるように投げ手に打ち返していく。ハンドリング技術向上にはもってこいの練習法です」
[page_break:持ち替え技術が守備の巧拙を決める]持ち替え技術が守備の巧拙を決める「守備がうまいかどうかの大きな鍵を握るのは、捕球したグラブから投げる側の手へボールを移す技術、いわゆる『ボールの持ち替え』がうまいかどうかだと私は思っています」と十河監督。
そこで「持ち替え技術を向上する上で、最も効果的な練習法は?」と尋ねたところ、「キャッチボール」との答えが返ってきた。
「ボールの持ち替えと言うのは、グラブに入ったボールを投げる方の手で取りに行くのではなく、グラブを使って、投げる方の手がある場所にボールを持ってくるイメージ。投げる方の手はボールがグラブから移されるのを待つイメージと言った方が近いかもしれません。大事なのは、ボールの持ち替えは体の中心で行うこと。その感覚は日々のキャッチボールで磨くのが一番の近道です」
十河監督は立ち上がり、再び実演を開始した。
ボールの持ち替えについて説明
おへその前にグラブと逆の手を置く
右手に持ち替えする
ボールの持ち替えについて説明
持ち替えは体の中心でできるように
右手に持ち替えする
「私は右投げなので、おへその前にグラブをはめていない方の右手を置いておく。この体の中心に置かれた右手に捕ったボールを集めていくイメージでキャッチボールを行う。すぐに投げ返さなくてもいいから、体の中心での持ち替えだけすぐに完了させることが大切です。
――「グラブをどのような角度でどう動かして捕球したら、体の中心にボールが集まるか」「グラブのどこに当てれば体の中心にボールが集まるか」といったことを意識しながらキャッチボールを行うということですか?
「そういうことです。体の中心で持ち替えをするためには、ボールを体の中心に集めるためのグラブさばきが必要になってきます。正しい持ち替えができることが、正しく正確なスローイングにつながっていきます」
【体の中心で持ち替えができないと担ぐ形になりやすい】――スローイングも体の中心からスタートするのが正解なのですね。
耳の近くだと担ぐ形になり、良くないと説明する十河監督
「そうです。持ち替えを体の中心で行うことができない人は、グラブの中のボールをつかみにいくことで持ち替えをしようとします(写真上)。そうすると投げる時にボールとグラブを耳の方へ一緒に移動させてしまい、担ぐような形になってしまいます(写真右)。これだと体の中心から投げることができなくなるので、スローイングの安定性も生まれません。
よくキャッチャーの送球を指導する際に『ミットを耳へ持って来い』という教え方をする人がいますが、それだと持ち替えが耳付近でおこなわれてしまいます。どのポジションであろうが、ボールの持ち替えは体の中心で行うべき、というのが私の考える基本です」
――正しく投げるためにも、正しく捕り、正しく持ち替える必要あると。
「そういうことです。キャッチボールは投げることに目が行きがちですが、正しく持ち替えを行うための正しい捕球をすることがなにより大事。だからキャッチボールというんです。スローボールとは言わないでしょ?」
[page_break:大切なのは「投げやすいように捕る」こと]大切なのは「投げやすいように捕る」こと左足を意識的に上げるのはかえって良くない
ゴロ捕球の際の足の運びに関する十河監督の考え方をたずねたところ、「足をこうしなさい、ああしなさいというようなことはほとんど言わない」という少々、意外な答えが返ってきた。
――ゴロを捕る際に右利きの選手ならば「右足から入っていき、次に左足を踵から着地させていく」といったように、足の運びを具体的に指導するチームをよく見かけるのですが、そういったことは言わないということですか?
「言いませんね。そういったことを言うと、『その形を作らなくてはいけない』という意識が働くので、スムーズな動きができなくなってしまうのが嫌なんです」
――なるほど…。
「たしかに左足の踵を上げた状態を意識的に作りながら、ゴロを捕球する練習をしているチームはよく見かけるのですが、上達にはつながらないと思うんですよ。左足を意識的に上げることによって後ろ体重になってしまいますし、なにより不自然じゃないですか? ゴロを捕る際に左足のつま先から入っていく選手がいますか?
――たしかに…。いませんよね。
「そうでしょ?人間は歩く時にみんな踵から自然に入っていくのに、『踵から入って行けよ!』と意識させているようなものですよ。そんなこと言われたらぎこちない歩き方になってしまうじゃないですか。だから足の運びに関しては極力何も意識させません。足に関して何か言うとしたら、捕ってから投げにいく際に、『軸足を投げる方向に垂直になるように前へ出すこと』『軸足がバックステップにならないように』くらいですね」
――そうだったんですか。
「いつも選手たちに言うのは『投げやすいように捕れ』ですね」
――投げやすいように捕れ、ですか。
「ゴロは投げるために捕るわけじゃないですか?もっと言えば、アウトにするために捕るわけですから。なにも捕る形の綺麗さを競っているわけじゃないので」
――おっしゃる通りです。
「いいボールを投げやすい体勢というのを逆算しながら捕球に入る。この発想に基づいて導かれた形が『理想の捕球の形』だと私は考えます」
目から鱗が落ちるようなばかりの理論。これでお腹いっぱいと思ってしまう方もいるかもしれないが、十河流の守備の考え方、ポイントはまだあります!最終回はこれさえ知っておけば、さらにレベルアップできる考え方を教えていただき、また日本生命が誇る二遊間にもお話を伺いました。
(取材・文/服部 健太郎)
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