仕事中は1時間ごとに2分という長さは簡単ではないかもしれないが

写真拡大

忙しいからではなく、健康のために立ち食いソバ屋に行く日がくるかもしれない――。先進諸国で座りっぱなしの生活改善への取り組みが行われている。

テレビ視聴に食事と「たいていは立ったままできる」

デスクワークをしていると、1日の大半を椅子に座って過ごす。こうした座りっぱなしのライフスタイルは、糖尿病や肥満、心臓病のリスクや死亡率を高めることがわかっている。

肥満が深刻化している欧米諸国では早くから対策が行われ、米国では2002年、大統領の諮問委員会によって「座りっぱなしが死をもたらす症候群」を意味する「セデンタリー・デス・シンドローム」という言葉がつくられ、さまざまなメディアを通して国民に「座るな、動け!」と呼びかけている。

2015年6月、フィンランドでも「Sit less, Feel better」(座る時間を減らせば、体調がよくなる)と銘打ったキャンペーンが始まった。フィンランド人は1日のうち平均して4分の3以上の時間を、座っているか横になった状態で過ごしているという調査結果がある。同国の保健省は「1日に7時間以上座っている人では、さらに1時間長く座るごとに死亡リスクが5%ずつ増加する」と警告し、「新聞を読むのも、テレビを見るのも、食事をするのも、たいていのことは立ったままできる」として、座りっぱなしの生活改善に国を挙げて取り組んでいる。

短時間の歩行でも寿命が延びる

日本も例外ではない。厚生労働省がまとめた「健康づくりのための身体活動基準 2013」では、18〜64歳までの健康な人は、「歩行またはそれと同等以上の身体活動」を1日60分以上行うことに加え、30分以上の「息がはずみ汗をかく程度の運動」を週に2日以上推奨している。しかし現実に、デスクワークをしているとランチやトイレに行くときくらいしか立って歩くチャンスがない。運動の趣味はないし、仕事中にいきなりラジオ体操を始めたら白い目で見られそうだ。そんな人はどうすればよいのだろうか?

そのヒントとなる研究結果が先ごろ、米国ユタ大学によって報告された。論文は2015年4月30日、「Clinical Journal of the American Society of Nephrology」オンライン版に掲載された。

研究報告によると、1時間に2分、立ち上がって歩くことで、座りっぱなしによる健康への悪影響を減らせるという。研究チームは全米健康栄養調査(NHANES)に参加した3200人超のデータを活用し、運動強度の測定機器を装着時のデータを収集、分析した。その結果、歩行や掃除、ガーデニングなどの軽い運動を短時間行うと、1日の半分以上を座って過ごしている人の寿命が延びることが分かった。また、1時間ごとに2分間の軽い運動で、若年死亡リスクが33%低下したという。

1時間おきに席を立つと「トイレが近い?」と誤解されそうだが、キャビネットの整理をしたり、別のフロアにある自販機に飲み物を買いに行ったりするのもいいだろう。PCとにらめっこをしていると行き詰まることもある。1時間にたった2分間費やすだけで、身の周りが片付き、リフレッシュにもなれば、仕事の効率も上がるかもしれない。ちなみにこの記事は立って書いた。いつもより集中力を持続できた気がしなくもない。[監修:山田秀和 近畿大学医学部 奈良病院皮膚科教授、近畿大学アンチエイジングセンター 副センター長]

参考論文
Light-Intensity Physical Activities and Mortality in the United States General Population and CKD Subpopulation.
DOI:10.2215/CJN.08410814 PMID:25931456

(Aging Style)