日大豊山の142キロ右腕・吉村貢司郎の長所と課題とは?

 春の東京大会ベスト8進出校の都立江戸川に、1回戦敗退校の日大豊山が挑む格好だが、総合力の都立江戸川に対して日大豊山はエース・吉村 貢司郎(3年・右投右打・183/80)など個人技の高さに特徴があり、対戦前の評価は五分五分。試合は5回まで0対0のスコアで粛々と進んでいきながら、与四死球は都立江戸川先発・浦壁 真也が8個、日大豊山先発・吉村が4個と、中盤以降の波乱を予感させる立ち上がりになった。

 吉村は1回戦の立正大立正戦でストレートの最速が142キロを計測し、一部で話題になった。最速142キロと書くとストレートの速さばかり話題になりがちだが、投球フォームを含めたバランスのよさに特徴がある。

 体の開きを抑えたフォームはボールの出所が見えにくいという長所がある。1、2回に都立江戸川打線からストレートで見逃しの三振を2つ奪取しているのはそのよさの現れである。それでも都立江戸川打線は吉村のストレートに照準を合わせた。6回には4番加藤将和(3年)が1ボールからストレートをセンター前に弾き返して先制。7回には1番吉田賢人(2年)が1ストライクから右中間を破る二塁打、2番廣瀬駿平(3年)が3ボール1ストライクから一塁ベースに当る二塁打を放って2点を追加しているが、これも打ったのはストレート。

 吉村のストレートはいいことはいいが、それを引き立たせる変化球にムラがある。カーブ、スライダーは曲がりに安定したキレがなく、打者は多くの場合、「変化したらボール球になる」くらいの感覚で見逃していたと思う。正直、もったいないと思う。

 この吉村の投球を見て思い出したのが明治大のエース・柳 裕也(3年)。柳が180センチ、吉村が183センチと上背に差があるが、コンパクトなフォームから回転のいいストレートを投げるという部分がよく似ている。柳は吉村ほど(高校と大学の差があるので相対的にという意味で)ストレートに特徴がないので、ボールを内外、高低にバランスよく配する投球術に活路を求めざるを得ないが、吉村にも四隅を突く一定のコントロールが備わっている。これをムラなく常に同じ精度で攻めることができるかどうか、4回戦以降求められる吉村の課題だろう。

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 この白熱した試合を決定づけたのは“攻撃的なマインド(精神)”である。まず、都立江戸川のヒットは早いカウントのときが多かった。ファーストストライクを打ったのは12安打中6本。日大豊山は7安打中1本と少なかったが、6回のチーム初ヒットは吉村が放ったバックスクリーンへのソロホームランで、このときのボールカウントは1ボールからの2球目。

 日大豊山が好球必打を徹底できなかったのは都立江戸川投手陣の与四死球が17個と多かったためで、これで待球しようというマインドが出来上がってしまった。しかし、両校のストライクの見逃し率は都立江戸川16.3パーセントに対して日大豊山は13.5パーセントとかなり上回っていた(見逃し率は低い数値のほうが評価される)。勝負を決めた4番稲垣航聖(3年)の延長12回のサヨナラ打は、走者二塁の局面で、1ストライクからの2球目をライト線に持って行ったもの。随所で好球必打の姿勢が見られ、投げては吉村以降の継投で、都立江戸川打線を何とか抑えることができた。

 日大豊山が4回戦以降、勝ち抜けるかどうかは吉村の右腕にかかっている。変化球の曲がりを今から矯正するのは無理なので、相手打者が見逃しても球審に「ストライク」とジャッジさせるための制球力をつけたい。

(文=小関 順二)

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