県立東播磨高等学校(兵庫)【前編】

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 2014年春、東播磨の監督に就任したのは、加古川北を11年間率いた福村 順一監督だった。普通の公立校だった加古川北を激戦区・兵庫で2度の甲子園出場に導いた名将の異動。革命とまで称された、機動力を軸とした「福村野球」は果たして新天地でも健在なのだろうか。躍進を期する「2015年夏」を目撃すべく、兵庫県加古郡に位置する学校を訪ねた。

植え付けたかった「やればできる」精神

選手たちを集め、話をする福村 順一監督(県立東播磨高等学校)

「東播磨の監督に就任して、あらためて、指導者って難しいなぁということをものすごく感じています」バックネット裏で筆者を出迎えてくれた福村監督は開口一番、そう言った。

「『加古川北に就任した当初と比べてどうですか?』という質問をよく受けるんですけど、加古川北の時は選手の方に僕に対する先入観も何もなく、真っ白の状態だった。でも東播磨では『あのカコキタの福村監督が来た』という目で見られる。スタート地点で大きく違うんです」東播磨と加古川北は直線距離で3キロほどしか離れていない。地元の住民からすれば「同地区にある隣同志の学校」という感覚だ。

「『加古川北に行ったら試合に出られそうにない』『野球は好きだし、高校野球はしたいけど福村監督の下であそこまできつい野球はやりたくない』といった理由で東播磨の野球部を選んだ生徒も少なくないんです。そういう選手たちにしたら、僕の転任は『福村を避けて東播磨に来たのに、福村の方が東播磨に来ちゃった』という感じだったはず。今の3年生なんかはある意味、僕の異動の被害者だったんだろうな、と思う時があります」

 福村監督が就任早々、選手たちから感じ取ったのは「野球に対する自信のなさ」だった。「中学時代は中心選手じゃなかった選手も多く、野球に関しては、潜在意識の中に『おれらはどうせやったってできへんし』みたいな気持ちが伝わってくるんです。ちょっと思うようにできなかったら『どうせ自分たちには無理なんだ』といった表情になってしまう。

 でも上達したいという気持ちはあるし、僕が与えたメニューを真面目に素直にコツコツと実行できる選手ばかりなんです。『やればできる』という自信を植え付けてあげられれば、個人の力、ひいてはチーム力を向上させていくことはできるんじゃないかと思いました」

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[page_break:ひとつの勝ち星が自信を深めてくれた]ひとつの勝ち星が自信を深めてくれた

 昨夏、新チーム結成時に、守備面において福村監督が選手たちに酷暑の中で連日課したのは、ボールを用いない、シャドーによるゴロの捕球練習だった。「自分のイメージ通りに自分の体を動かせるようにするところから始めようと。正しい動きを身につけてからじゃないと、ノックを打っても仕方がないなと思いました。急がば回れの精神で夏休みの間はひたすらシャドーを毎日繰り返しました」

 徹底した基本練習の反復に明け暮れた夏休み。8月後半に行われた秋季兵庫県大会の地区予選2回戦で、東播磨は夏8強の明石商業を2対0で破る。前評判をくつがえす勝利は東播磨ナインに決して小さくはない自信を植え付けた。昨夏の金星を山田 歩夢主将とエースの藤原 圭司が振り返る。

山田 歩夢主将(県立東播磨高等学校)

「走塁における技術面もまだまだ拙い時期でしたけど、盗塁がことごとくセーフになり、懸念された守備面でもミスが出ず、全てがいい方向に流れた試合でした。新チーム結成時にシャドー練習から始まった時は、正直『こんな地味で単調な練習から始まるのか…』と思ったけど、毎日続けるごとにチームの力が上がっていく感覚は芽生えていました。

 そんな矢先に明石商業に勝てたことはものすごく大きな自信になりました。地道な練習にも積極的に取り組んでいけるモチベーションを、チーム全体に与えてくれた勝利でもありました」(山田主将)

藤原 圭司投手(県立東播磨高等学校)

「自信を深めることができた試合でした。最初は今までやってきた野球とあまりにも違いすぎて戸惑ったし、福村監督の要求ラインが当時の自分にとってはあまりにも高くて『そんなこと本当に自分にできるのか…?』と思ったけど、無理だと思っていたことが少しずつできるようになっていきました。

 できた喜びが湧き上がると同時に、もっとできるようになりたいという気持ちが芽生え、野球がどんどん楽しくなっていきました」(藤原投手)

 少しずつ福村イズムを浸透させた福村監督。後編ではウリである機動力野球の中身と、東播磨に赴任して、走塁面で改革したことについて伺った。

(取材・文=服部 健太郎)

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